上 下
362 / 492
第9章

361話

しおりを挟む
「シク様、こちらへお座り下さい」

 私がテーブルに近づくと、メイド服を来たリッテが椅子を引いてくれた。
 私が席に座ると、他のメイド達と一緒に壁際まで移動して姿勢を正す。

 そこにはキャリの姿も見える。


「シクさん、この屋敷はどうでしたかな?」 

 対面に座る私に話し掛けて来るプブリウス。

「まだ、庭先を見回っただけだから、お昼は屋敷内を見学したいと思っている」
「そうですか、そうですか。存分に見回って下さい」
「そうさせて貰う」

 私の顔を見て嬉しそうにしているが、目の奥が笑って無いな……

「さぁさぁ、食事が冷めてしまいますので、食べましょう」
「あぁ」

 プブリウスが合図を送ると、私とプブリウスの近くにそれぞれメイド達がやって来て、料理の説明をしてくれる。

「シ、シク様、こちらが本日の、ぜ、前菜になります」

 メイドの姿を見ると、そこにはキャリが居た。

 それからは、プブリウスが私に一方的に質問をして、それに私が答える感じで、食事は終わった。

「ふぅ……今日の食事は若干いつもと違う感じがしましたね?」

 プブリウスの言葉に、メイド長が応える。

「本日は早速新人の二人に料理を作って貰いましたがお口に合わなかったでしょうか?」
「いいえ、そんな事ありませんよ? そうですか……新人をここに呼びなさい」
「はい」

 メイド長はリッテとキャリの二人を呼んだ。

「旦那様、この二人が本日の料理を担当した者です」

 メイド長に紹介の後にリッテとキャリは頭を下げる。

「ふむ──頭を上げなさい」

 プブリウスの言葉に頭を上げる二人を見て、目つきが変わる。

「ほぅほぅ。貴方達は覚えていますよ? ──そちらの大きい方がリッテさんで、小さい方がキャリさんですね?」

 プブリウスの目つきに色情の光が芽生えたのか、キャリが一瞬だけビクつく。

 だが、隣のリッテは流石と言うべきか落ち着いた対応を見せた。

「お名前を覚えて頂いているとは、光栄でございます旦那様」
「ほぅ……貴方は言葉使いが綺麗ですね?」
「ありがとうございます」
「うんうん」

 プブリウスはリッテの姿を上から下までたっぷりと見た後にニコリと笑みを浮かべた。

「美味しかったですよ」
「ありがとうございます」
「キャリさんも、これから頑張って下さい」
「は、はい。あ、ありがとうございます……」

 二人はもう一度頭を下げてから、再び壁際に移動して、姿勢を正して立つ。

「それでは、シクさん、今日の昼食は以上にしましょうか」
「あぁ」
「また、夜にでもご一緒しましょう」

 そう言うと、プブリウスは立ち上がり何人かのメイドを引き連れて部屋を出る。

 ご主人様が部屋から出て行った後に、メイドと執事達はそれぞれの仕事に戻る。

「シャレ様、午後は屋敷内を回るんですか?」

 リッテが話し掛けて来る。

「あぁ、午前中はガルル達と外を回ったから、午後は屋敷内だな」
「それでは、私達と一緒にどうです?」
「あぁ、そうさせて貰おうと考えていた」

 リッテとキャリが嬉しそうに微笑む。

「では、シク様、いきましょう」
「わ、私達が案内します!」
「うふふ、この午前中に私達も案内して貰っただけなので、案内出来る所は限られていますけどね」

 二人の後に付いて行き、私は屋敷の案内をして貰った。
 その間、ガルル達と同様にリッテとキャリに対しても今後の事をどうするか話し合いながら、屋敷を回った……





 そして、シク達とは別の所では……

「プブリウス様、報告があります」
「なんですか?」
「新人の事で少々……」

 執事長がプブリウスに朝の出来事を報告する。

「なるほど、新人の兄弟ですか」
「はい。ガルルに関しては特に問題無さそうですが、ググガの態度は目に余ります」
「それはいけませんね……」

 言葉とは裏腹にプブリウスの顔は笑っていた。

「旦那様、如何なさいましょう?」
「ふふ、ではコロシアムに参加させましょう」
「それは、とても良い考えだと思います」
「そうでしょうそうでしょう!」
「確か、そろそろでしたか?」
「えぇ、そうです。ラシェン王が参加者を募集していましたからね……その兄弟を参加させましょうかね」
「手配致します」

 執事が頭を下げて、部屋から退出しようとする所をプブリウスが止める。

「執事長、今日の夜は新人の中から一人私の部屋に呼びなさい」
「ご希望はありますでしょうか?」
「そうですねぇ……シクさんと言いたい所ですが、シクさんは正妻にしたいと考えております──あれ程美しい獣人は見た事がありません」

 プブリウスは本当にシクの事を妻に向かい入れようと考えている様だ。

「リッテとか言う獣人もなかなかですね……」

 乾いた唇を舌で湿らして微笑むプブリウス。

「キャリとか言う、獣人も心を擽ります……ですが、今日の所はその三人以外で問題無いので適当に選んで下さい」
「かしこまりました」

 執事長が出て行った部屋にはプブリウスだけが残る。

「ふふふ、なんだか楽しくなって来ましたね……」
 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

処理中です...