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第8章

325話

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「シャレ様──人間族がこちらに向かって来ます!」

 バルオールによりエルフの村を守る役目の門が破壊された。

 そして、門から次から次へと敵が村に侵入して来る様子をシャレは茫然と見ていた。

「シャレ様! しっかりしてください──人間族がこちらに向かって来ます!」

 側近でもあるニネットが肩を揺らしてシャレを正気に戻そうとする。

「あぁ……村が……」

 それでも、シャレはニネットの言葉に反応せず、自身の村を見回す。

 そこには、敵である人間族、オーガ族、ゴブリン族が凶悪な笑みを浮かべていた。

「み、皆んなを、た、助けないと……」

 オーガ族とゴブリン族に関してはそれぞれの標的である、ニルトンの所やドワーフ達の所に向かって移動をしていた。

 だが、人間族は違った。

 戦う為──もしくは奴隷にする為、または愉しむ為にこちらに向かってくる者や、村人のエルフ達を犯す為に村の奥にどんどん入り込んでいく者や、既に兵士であるエルフを捕まえて数人掛で抑え込んで愉しもうとしている者達まで居た。

──あぁ……私の村が……人間族達によって壊される……

 シャレは頭の中が真っ白になり、何も考えられない状態の様だ。

「あぁ……あの時と一緒だ……」

 恐らくあの時とは、シャレが子供の頃に村が襲われた時だろう。

「み、皆んなを逃さないと……」

 ここに来て、シャレは戦う事では無く逃げようと考えた様だ……

「ニ、ニネット──み、みんなを逃さないと」
「ダメです、シャレ様! 仮に逃げたとしても直ぐに追い付かれます──ここは戦わないと!」
「だ、だけど皆んなが……」

 オロオロするシャレを他のエルフが見ている。

 村の代表であるシャレの様子を見て、不安になっているエルフ達も少なく無い様だ。

「ね、ねぇ、シャレ様がおかしくない?」
「あ、あぁ。どうされたんだ?」

 村の代表であるシャレが不安そうにしていると、勿論村人であるエルフ達は何かあったのでは無いかと不安になる。

 そして、その不安がどんどんと伝染していく様に広がり、人間族がこちらに向かっているのにも関わらず誰一人として武器を構えて居なかった……

 そんな様子を見ていたニネットはこのままでは不味いと思い必死にシャレを元に戻そうとするが、なんとも反応が悪い。

「はぁ……全く……シャレちゃんはダメだな」

 その時、一人のエルフが現れる。

「トラクさん……」
「ニネットさん、私に任せて?」

 苦笑いを浮かべながらトラクはシャレの前に来て──

「──ッごめんね!」

 いきなり、シャレの頬を叩いた。

 トラクの行動に驚くエルフ達だったが、シャレには効果的の様だった。

 シャレは正気を戻したのか目をパチパチと何度か開いたり閉じたりして、目の前のトラクを見る。

「トラク……?」
「うん、そうだよ?」
「なんで、ここに?」
「シャレちゃん達に武器を届けに来たんだよ」

 そう言って、トラクは背中に背負っていた大きな袋を地面に広げた。

 そこには、色々な種類の武器があった。

 恐らく、トラクがシャレ達の為に必死に作ったのだろう。

「シャレちゃん、しっかりしようよ! みんなシャレちゃんの事見て不安そうにしているよ?」

 トラクの言葉にシャレはハッとなり周りを見回す。

 トラクの言う通り仲間のエルフ達は皆が眉を下げて不安そうにしている。

──私は一体何をしているんだ……これじゃあの頃から何も変わってないじゃないか!

 先程まで、視点が定まっていない状況であったが、トラクの一発が効いたのか目に力が宿り始めた。

──もう、あんな何も出来ない自分は嫌だ!

 シャレの目に完全に光が宿る。

 そんなシャレを見てトラクは頷く。

「ふふ、いつもの強いシャレちゃんに戻った様だね?」
「あぁ……迷惑を掛けた……」
「気にしないでよ──そんな事より、早くみんなに戦闘準備させ無いと敵が来ちゃうよ!」

 トラクの言葉に一度頷いたシャレは声を張り上げる。

「皆んな、済まなかった! この様な大きな戦で我を忘れてしまった──しかしもう大丈夫だ!」

 シャレの力強い声にエルフ達は表情を引き締める。

「人間族は我々を奴隷にするつもりだ──だがそんな事は私がさせない!」

 シャレが自身の武器である漆黒の大鎌を構える。

「私は全力で皆んなを守る! ──だが一人では無理だから力を貸してくれ!」

 シャレの言葉に応える様に他のエルフ達も武器を構える。

 そして、シャレ達は直ぐ目の前に迫り来る人間達を待ち構える。

「トラク、ニネット──厳しい戦いになるが死なないでくれ」
「大丈夫だよシャレちゃん、私は死なないから!」
「私もです」

 人数は圧倒的に人間族が多く、もしシャレ達が捕まれば、奴隷する前に、まずは慰め者にされるだろう……

 そんな恐怖心を抱えながら武器を構えるエルフ達。

 しかし、人間族からしたら、それすらも興奮するのか、下卑な笑みを浮かべていた。

「よー、エルフさん達よ、やっと対面出来たぜ」

 一人の人間族が一旦シャレ達の目の前で止まる。
 また、その男が止まった事により他の人間族も一度止まり、笑っていた。

「このまま、戦うのも良いけどよう、俺達は出来るだけお前らを傷付けたくねぇーんだわ」

 男はシャレを上から下まで舐め和す様に見る。

「そこで、提案なんだが──大人しく捕まってくれないか?」

 男の提案にシャレは……

「──断る! お前らに捕まるくらいならモンスターに食われた方がマシだ」
「へっへっへ。随分とまぁ面白い事を言ってくれるじゃねぇーかよ」

 何がおかしいのか男はヘラヘラ笑う。

「まぁ、戦うのも嫌いじゃねぇーから、俺はどっちでもいいんだけどな」

 男は下ろしていた武器を構える。

「後悔すんなよ?」
「一生するつもりは無いな」
「「……」」

 そして暫くの沈黙の後に男は動き出す。

「お前らヤっちまうぞー!」
「「「「「「「「おう」」」」」」」」
 
 こうして、エルフと人間族の戦いが始まった。


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