上 下
288 / 492
第8章

287話 アトスの選択

しおりを挟む
 シャレは数時間の休憩後、部屋から出てきた。

「まだ、寝てても大丈夫だぞ?」
「いや、そうも言っていられない状況になってきてな……」

 少し寝たのか顔色は戻った感じがするが、逆に頭が回る様になり表情が険しい事に気がつく。

「アトス達にも伝えておこうと思ってな──今この村にはここら一帯に住んでいるエルフ族が全て集まっているんだ」
「全てー? あれで全エルフさん達なのー?」
「いや、他にも、もっと遠くに住んでいるエルフは居るが──それでも種族の半数以上はこの村には集結したと言っても良いだろう」

 エルフ族の半分がこの村にか……ますます厄介ごとの匂いしかしないな……

「シャレ達、エルフ族は何でこの村に集まったんだ……?」
「実は──いくつかの村が人間族に襲われてな」
「──ッな?!」
「大半の女を拐われたらしい……」

 シャレは昔の事を思い出したのか苦痛の表情を浮かべさせていた。

「それで、女性を取り戻す為にこの村にエルフ達が集結したと言う事だ」
「ふむ。その女性達が拐われたのはいつなのですかな?」
「既に一ヶ月以上は経過している様で、恐らく既に人間族の住処にいる……」
「なんで、直ぐ助けにいかなったの?」

 素朴な疑問をチルがシャレに投げ掛けるが、その質問にシャレは顔をしかめる──

「拐われた村では、まず人間族の人数が多過ぎたのと、更にはモンスターまでもが村を襲ったらしい……」

 モンスター?

「話を聞く限りでは、モンスターに襲われる前に、各村から同じ様な証言が上がっている」
「どんな証言だ?」
「──フードを目深に被り、身体をロングコートで身に包んだ者が居たと……その者が何者か分からないが恐らく人間族であり、またその人物が何やら玉? みたいなのを投げ込んだ後にモンスターが襲ってきたと話している者が多い」

 クソ! リンクスが使っていた玉か!? ──それに、俺があの時見た人物もエルフ族を襲おうとした?

「アトス、どうかしたのか?」

 俺は、シャレが気が付いて無いようなので、例の玉と以前の戦闘でフードを被った者がいた事を話す。

「──ッくそ、既に私達の村も狙われていたって事か!」

 シャレは先程起きてから、どんどん表情が険しくなる。

「それじゃ、そのフードの者は人間族でまず間違い無い様だな」
「えぇ、アトス殿の推測通りだと私も思います」
「私達が居たから、ここの村を乗っ取る事が出来なかったんだねー」

 ロピの考えは恐らく合っている。

「あぁ、雷弾の言う通りだと思う──あの十体は我々エルフ族だけでは対処出来なかっただろうし、そうなった場合は人間族がこの村に攻め込んで来る予定だったんだろう──アトス達には本当に助けられてばかりだな」
「気にすんなよ──俺も助けて貰ったんだしよ!」
「だが、それじゃつり合わない様な気が……」

 シャレは申し訳無さそうにしている。

「あはは、なら美味しいご飯ちょーだい!」

 ロピの気の抜けた言葉に表情が硬かったシャレが微笑む。

「はは、雷弾は大物だな」
「姉さんは凄い」

 シャレの言葉に妹のチルも頷く。

「よし、分かった──今後は今以上に出来る範囲で美味しいものを用意出来る様に努めよう」

 シャレの言葉に大喜びしているロピ。

「それでなんだが──この様な話をした後に言うのもアレなんだが……」

 シャレが申し訳無さそうにしながらも確たる意志を目に宿らせて口を開ける。

「アトス達に、また助けて欲しいと思っている……」
「助けって、エルフ族の女性を取り戻す事か?」

 俺の言葉にコクリと頷く。

「あぁ──だが今から行って直ぐ取り戻せる訳では無いから色々準備が必要になって来ると思うが──最終的には人間族との戦闘になるだろう……」

 奴隷として捕まったエルフを取り返しに行くのだから、人間族と戦闘になるのはしょうがないな……

「同じ種族と戦う事はキツいと思うが……良ければ私達を助けてはくれないか……?」

 シャレの言葉にロピ、チル、リガスまでもが俺の方を向き反応を待っている。

「ロピ達はどうなんだ?」
「え? 私はお兄さんの考えに従うよー」
「私もアトス様に従います」
「ほっほっほ。言うまでもありませんな」

 三人共俺が決めた方向に一緒に進んでくれるって事か。

「いいぞ」
「──え?」

 俺があまりにも呆気なく協力する事にシャレは間の抜けた表情で俺の事を見てくる。

「だから、協力するよ」
「だ、だが──同族と戦う事になるんだぞ?」
「うーん、俺ってあまり人間族と関わって来てないからな……勿論人間族でも大切な人は居るけど──」

 デグやベムとかな……最近はドワーフの村で出会った三班の仲間達も大切だな……

「まぁ、大切な人以外との戦闘なら別にどんな種族と戦おうと俺は構わない──どんな種族でも悪い奴と良い奴はいるしな!」

 信じられない表情をするシャレ。

「さっすが、お兄さん!」
「やはり、私の目に狂いは無かったです」
「ほっほっほ。これでこそアトス殿ですな」

 何故、三人が笑顔なのか分からない……

「まさか、人間族でその様な考えを持つ者が居るなんて……」
「どう言う事だ?」

 俺の疑問にリガスが答える。

「人間族は皆、自分達が至高の種族であり、それ以外は家畜や奴隷だと思っていましてな──アトス殿の様な考えを持つ者など私は生きてきて会った事が有りませぬ。それ程アトス殿の考え方は稀有と言う事でシャレ殿は驚いているんですよ」

 俺がシャレの方を見ると、口を開けて首だけコクコクと上下に動かしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

処理中です...