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第6章

174話 逃走

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「リンクスの野郎……」

 リーダーはモンスターから逃げながら呟く。

「どうしたんだ?」

 今まで見た事無い程の怒気の篭った声に俺は何かあると思い声を掛ける。

「アトスさん、もしかしたら私達逃げきれないかもしれません……」
「どういう事だ……?」
「私達が逃げる際にリンクスと副官がある物を三班に投げ付けました」
「ある物?」

 リーダーは冷や汗を垂らしながら説明してくれた。
 それは人間族が最近開発したと言うモンスターを誘き寄せる煙玉だと言う。その煙玉の粉塵を浴びるとモンスターを惹きつける事が出来るらしく、今後人間族に対して歯向かう集団的な反抗者に使用する為に作ったらしい。

「そんな物を俺達に!?」
「えぇ。本来は潰したい村などに投げつけて、モンスターに滅ばさせる為なんかに開発されたと聞きました。その効力は抜群であり、中型も私達の事を追って来ていると思います……」

 中型だと!?
 三班全員で戦えば中型も倒せると思う……だが後ろには小型が何体も居る、その数をこの人数で相手するのは不可能だ。

「お兄さん、不味いよ!」
「追ってくる数がどんどん増えてきています」
「これは流石に相手にしてられませんね……」 

 最初は三体だけだった筈なのに今では十体以上の小型が俺達を追い掛けて来ている。恐らく全部の班のモンスターが煙玉の影響でこちらに標的を変えている。
 そして一番後ろでは一際大きなモンスターが見える。

 中型か……

 ここで少しでも足を止めたらモンスター達の群勢に飲まれてしまうだろう。

「おい! どうなっている、なんでこんなにモンスターがこっちに向かって来ているんだよ!」
「お、俺達、このまま食われちまうのかよ……」
「嫌だ、食われたくねぇ……」
「こ、こんな所に来るんじゃなかったぜ」

 参加者はモンスターの群勢を見て、混乱している様だ。

「おい、テメェのせいだろ」
「そうだ、どうにかしろ!」

 リーダーに避難の声が上がる。
 無理も無いか……。いくら自分達の意思で参加したとは言えリンクス達は明らかに情報を隠していた。
 ここまでモンスターが現れると聞けば恐らく今回集まった人数の半分も参加しなかっただろう。

「これは私が手を汚すしか無いですかね……」

 リーダーは何かを決意した様な表情をする。

「何の事だ?」
「いえ、アトスさんは気にしないで下さい」

 そう言ってリーダーは走る向きを変え後方に向かって走り出す。

 何をする気だ?

「おい、テメェ! この状況どうにしろよ」
「えぇ、そのつもりですよ……」

 リーダーは腰にある短剣を抜く。誰もが責任を感じてモンスターの方に向かっていくと思っていた……。

「本当に申し訳ございません……」

 小さく、本人にしか聴こえない様に声を出した。
 そしてリーダーは参加者である人間を三人、その場で切り捨てた……。

「な!?」

 俺は驚いたあまり、声を出してしまう。それは俺だけでは無く三班全員が凍り付く……。

 斬られた三人は地面に転がり、足を止めてしまう。

「ま、待ってくれよ!」
「チクッショ……あの野郎……」 
「助けてくれ……し、死にたくねぇ……」

 三人は地面に倒れながらも必死に逃げようとするが、リーダーに足を斬られた為立ち上がる事が出来ない。

「な、なんでこんな事を……」

 参加者の誰かが走りながら呟く。
 誰もが三人の事を可哀想だという気持ちだろうが、誰一人助けようとする者は居なかった。

「お、おいどうするんだよ?」
「バカ! ここで助けたらお前も食われるぞ」

 よく見ると三人は震えている。それはモンスター達が迫り来る恐怖なのか、それともモンスター達の群勢が発生させている揺れのせいなのか……。

 そして、とうとう三人はモンスターの群勢に呑み込まれてしまった……。

 リーダーは再び先頭に戻って来て一番前を走る。

「何してんだよ……」

 俺の言葉にリーダーはしっかりと応えてくれた。

「あの三人はリンクス達が投げ付けた煙玉の粉末を浴びた者達です」 

 それ以上は説明不要だろと言わんばかりにリーダーは黙り込む。
 言いたい事は分かる。あの三人と一緒に行動する限りモンスター達はずっと俺達を追いかけ回すだろう、ならどうすれば良いかは言うまでも無いか。

 そこでリーダーとしての責務を果たした訳だな……。

「皆んな動揺しているぞ?」
「この場を切り抜ける事が出来れば説明しますよ……」  

 俺は後ろを見るとモンスター達が三人に群がり我先にと捕食を開始しようとして居た。

「三人には申し訳ないですが少しでも足止めして貰い、今の内にモンスター達を撒きます」

 逃げ切れるのか……?
 いくらモンスター達が三人を捕食する為足を止めたとしても、すぐに追い掛けて来るだろう。
 俺達は体力の続く限り逃げるしか無いが、一体どれくらい走り続ける事が出来るか分からない。

「皆さん、ここが正念場です! 全力で私に付いてきて下さい」

 参加者に叫ぶ様に言うとリーダーは走るスピードを上げる。三班の殆どが先程のリーダーの行動に不信感を持っている。
 だが後方でモンスターに捕食されている三人を見ると取り敢えず言う事を聞くしか無いと思ったのか必死にリーダーについて行く……。

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