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第6日目
第42話 到着6日目・朝その3
しおりを挟むジジョーノさんの遺体をコンジ先生たちが発見されたころ、私とジェニー警視はママハッハさんの部屋の鍵が、警備室かカンさんの部屋、あるいはシープさんの部屋にないか確認しに来ていました。
まずは、3階中央の『左翼の塔』側と『右翼の塔』側を結ぶ廊下を遊戯室、書斎、談話室の前を通り、シープさんの部屋に向かいました。
先ごろ、シープさんが犠牲になってしまって、彼の部屋を調べたときから、部屋の扉の鍵は掛けていません。
「ジョシュアくん。見つかったかい?」
「いいえ。鍵らしきものは見当たりませんね。」
「うむ。こっちもだよ。」
「そういえば、マスターキーは紛失していたが、それぞれの部屋の鍵は自分で持っているが、その他の部屋、例えば、『右翼の塔』や『左翼の塔』、あるいは物置などの部屋の鍵はどうしていたんですか?」
私はジェニー警視に聞いてみた。
「ああ。基本的には警備室にすべて保管されているな。だが、『左翼の塔』の鍵は、シープさんがアレクサンダー神父を迎えに行くのに使う頻度も高かっただろう? シープさんが所持していたのだが、シープさんがあのようなことになってから、警備室に戻したはず……。」
「はい。この部屋に鍵らしきものを置いてそうな箇所は見当たりませんし、日誌くらいですかね……。目につくのは……。」
「だな……。だが、それは以前、確認したし、今は鍵だ! じゃあ、本命の警備室に行くとするか。」
「はい。」
遠くで、どんどんどんどん……とどこかの部屋の扉を叩く音が聞こえていました。
コンジ先生たちが、ママハッハさんたちを呼んでいるのでしょう。
私とジェニー警視は、階段を急いで駆け下りて、『右翼の塔』側1階へと下りました。
「カンさんの部屋も後で確認するけど、先に警備室だな?」
「そうですね。そちらにある可能性が高いですよね。」
私たちは警備室の部屋の扉を開けた。
鍵はかかっていなかった……。
その部屋の中は、どす黒く変色したな血があらゆる方向へ飛び散っていた。
警備室の床に、カンさんが犠牲になり倒れていた箇所になにかシミのようなものが見える。
警備室の裏の勝手口は、今は厳重に閉められ、ワイヤーで縛られていた。
外から万が一も侵入はできなくなっている。
外から猛吹雪の風の音がかすかに聞こえていた……。
「動くモノはなし……のようだな。ジョシュアくん。念の為、気をつけてな。私の後ろからついてくるがいい。」
「はい。この警備室の奥の棚が武器の棚と鍵の棚ですね?」
「その通りだが、ここからは、ちょうど手前の棚で死角になっているから、慎重に行くぞ。」
「わかりました。」
「気配は感じないけどな……。注意するに越したことはないだろう。」
散弾銃を持ったジェニー警視に続いて、私も部屋に入っていく。
そうして、慎重に鍵が保管されている棚を確認しました。
「ママハッハさんの部屋の鍵は……ないな。」
「ええ。みなさんの個人個人の部屋の鍵も……、アイティさん、カンさん、エラリーンさん、イーロウさんの部屋の鍵はここにありますが、他の方の部屋の鍵はないですね……。」
「そうだな。行方不明のビジューさんやジジョーノさんの部屋の鍵も見当たらない。ただ、部屋の扉の鍵はいずれも開いたままになっていたがな。」
「そうなんですね。そういえば、ビジューさんがいなくなった時も、ビジューさんの部屋の中をコンジ先生と一緒に探したんですよ。あの時、部屋の鍵はかかっていませんでしたね。」
「うむ。シープさんの部屋の扉は無理やりこじ開けて入ったからな。鍵はかかっていたままだったよ。シープさんは用心深い性格だったようだな。」
「他の部屋の鍵はすべて揃ってますね……。男女浴場の鍵、ママハッハさんやアネノさんのクローゼットルームの鍵、キッチンの鍵、『右翼の塔』、『左翼の塔』の鍵、他には……。」
「ああ。『右翼の塔』の地下室の鍵は、パパデスさんの部屋の鍵や、パパデスさんの部屋の塔へ通じる扉の鍵とともに、パパデスさんの部屋に置いたままだろう…‥。」
「やっぱり、ママハッハさんやアネノさんの部屋の鍵は、ご自身で持ってらっしゃるんじゃあないですかねぇ。ママハッハさんの部屋から塔へ通じる扉の鍵も、パパデスさんと同じく、ママハッハさんが所持してらっしゃったんでしょう?」
「ああ。そうだな。ママハッハさんとアネノさんは、ここ最近は怖がって部屋に閉じこもっていたからな。」
この後、念の為、カンさんの部屋も確認しましたが、やはり、ママハッハさんの部屋の鍵はありませんでした。
つまり、あの部屋の扉は外からは開けられない……。
そういうことでしょう。
すると、館内の少し離れた場所から、声が聞こえました。
「ひぃ!? な、なんですか!? ……って、これは!?」
ジニアスさんの声です。
ジジョーノさんの遺体を発見したときの声だったのですが、その時の私とジェニー警視は知るよしがありません。
「なんだ!?」
「なにかあったのでしょうか!?」
「ジョシュアくん。とにかく、行ってみよう!」
「はい! それしかないですね!」
****
「キノノウくん! こ……、これは!? いったい、なにがあったんだ!?」
『左翼の塔』側2階のエレベーター前に駆けつけたジェニー警視が、コンジ先生に声をかける。
もちろん、私もその後ろにいましたが、エレベーター内のどす黒い血の詰まった何かに気を取られて声も出ませんでした。
「はい。見たらおわかりかと思いますが、ジジョーノさんの死体が発見されました。」
「ふむぅ……。やはりジジョーノさんは殺されておったのか……。」
「はい。死後、1日以上……行方不明になった時はすでに殺されていた可能性が非常に高いですね。」
「で、あろうなぁ。……おっと! そうだった! ママハッハさんの部屋の鍵はやはりなかったぞ! ママハッハさんやアネノさんは? 無事なのか?」
「ああ……。そうでしたね。おそらく……、聞こえますでしょう? シュジイ医師とメッシュさんの声が…‥。つまり、まだママハッハさんの部屋の扉は開けられていない。」
上の階からであろうメッシュさんとシュジイ医師の声がたしかに、バックグラウンドミュージックのように聞こえていたのでした。
「……奥様! 奥様!? アネノ様!? お気分はどうですか!?」
「アネノお嬢様! ……奥様っ!! 朝食はいかがしますか!?」
お二人とも、職務に忠実ですね。
「とりあえず、ジェニー警視は、ここに残っていてください。シュジイ医師を寄越しますので、ジジョーノさんの検死をお願いします。……で、スエノさんは、何かあるといけないので、いったん自室……、あ、いや、ジニアスさんの部屋で待機をしていてください。そして、ジョシュア! アレを持ってくるの忘れていないだろうね?」
「はい! コンジ先生! これです!」
そう言って私が取り出したるものは、『左翼の塔』の鍵でした。
シープさんの部屋の時のように、無理やり部屋の扉を壊して中に入るということも考えられるのですが、どうやら、中からもワイヤーかなにかで閉じている様子なのです。
シープさんの時は、ただ鍵だけしていたので、鍵の部分を壊し、中に入ることができたのですが、ママハッハさんの部屋の扉は、それよりもさらに頑丈で、壊すのも大変な上に、中からそういった細工がされていて、扉を壊して入ることが困難なのでした。
「わかってるね? ジョシュア。じゃあ、オレについて来い! ジニアスさんも一緒に来てください。『左翼の塔』の扉は外からじゃあないと開けられないので……、扉のところで閉まらないように待っていてほしいのです!」
「はい! コンジ先生!」
「わかりました! キノノウさん!」
私とコンジ先生、そしてジニアスさんは、そのまま、階段を下りて『左翼の塔』側1階へ移動し、『左翼の塔』へ向かったのでした。
そういえば、昨夜も『左翼の塔』5階で、アレクサンダー神父は祈祷をされていたのでしょうか……?
シープさんが亡くなって、迎えに来る方がいなくなったので、気が付かなければ、『左翼の塔』に閉じ込められてしまうんじゃあないかしらね。
コンジ先生と私は、『左翼の塔』の前にたどり着きました。
そして、『左翼の塔』1階の扉が開かれたのでした-。
まさか……
あのような惨劇の有様をその後、目にするとは私もコンジ先生でさえも……
予想だにしていなかったのです-。
~続く~
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