24 / 62
第3日目
第19話 到着3日目・昼その2
しおりを挟む※エラリーンの部屋
私たちがエラリーンさんの部屋で散乱した書類を調べていると、シュジイ医師がやってきた。
「うーむ。また派手にヤラれましたな……。」
「そうですね。あ、シュジイ先生。パパデスさんは大丈夫ですか?」
「ええ。まあ、少し鎮静剤を飲まれましたので落ち着いたと思いますよ。あとはスエノさんに任せてきました。」
「そうですか……。」
「ああ。ドクター。こっちへ来て念のため検死をしてもらいたい。」
「了解しました。」
そう言ってシュジイ医師はエラリーンさんの死体を検分し始めた。
ジェニー警視とシープさんは二人一緒に他のみなさんに知らせるために各部屋へ向かった。その間、私はエラリーンさんの部屋を見回す。
豪華なかばんが置いてあり、アクセサリーの類いがベッド脇のテーブルに置いてあった。
それにしてもなぜ、アイティさんとの契約書類が散らかっていたのだろう。
書類の一部に血がついているのが見える。
ベッドに倒れているエラリーンさんはベッドの向きに交差するように倒れたように寝ていた。
普段、寝る向きとは直角に横たわっていたとも言える。もちろんベッドのサイズが大きいので単に気分で横向きに寝たのかもしれないけど。
「死因はおそらく、喉への一撃ですな。断言はできませんが、血の飛び散り方から計算すると、喉への一撃から内臓へ食らいついたと思われます。手足の傷は抵抗した際に負ったものでしょうな。」
おお! コンジ先生の見立てとぴったり一致ですね。さすがコンジ先生です!
「なるほど。やはりそうですか。襲った相手は扉のほうから部屋に入ってきて、ベッドから立ち上がった彼女に襲いかかったと思われますが、ドクターの見解はどうです?」
「ふむ。そのようだと私も思いますな。まず、身体の向きが扉に向かった状態で犠牲になったと思われます。つまり、今、キノノウ様が言ったような状況が可能性が高いでしょう。」
「じゃあ! 今回の犯人の侵入経路は部屋の扉からってことですね?」
「そうだろうな。ほら? ジョシュアもドクターも見てください。この部屋の2箇所の窓はきっちり鍵も閉まっていました。」
エラリーンさんの部屋は私たちの部屋の2部屋分の広さがある。
各部屋に窓があるように、エラリーンさんの部屋には窓が2つあった。
だが、そのいずれも鍵がかかっていたようだ。
そりゃそうだ……。こんな吹雪の雪山で窓を開ける人がいるわけがない。
「うわぁああああああーーーっ!!」
すると、館のどこかから叫び声が聞こえてきた。
「誰だ!?」
「男の人の声ですね!」
「1階でしょうか? 下から声が聞こえたような……。」
シュジイ医師がそう言った。
私たちはあわててエラリーンさんの部屋から出る。
「ジョシュア、時間は?」
「はい。6時……4分です。」
「ふむ。来る時につけていた腕時計はセンスがなかったが、その時計はなかなかセンスがいいではないか?」
「……って、これ、コンジ先生にもらった物ですけど!? 一応……かばんに入れて持ってきてたんですよ!」
「ふぅーん。一応ねぇ……。」
「なにかありましたか!?」
見ると、ジニアスさんが自室から出てきたところだった。今起きたのだろうか?
「さあ、わかりませんが、とにかく気をつけて行ってみましょう!」
「なにか武器のようなものはありますか?」
「これでどうですか!?」
シュジイ医師がエラリーンさんの部屋にあった燭台を掴んできた。
「僕もこれくらいしか見当たらないなぁ。」
ジニアスさんも自分の部屋から小さなダンベルを持ってきた。どうやら、この休暇中も筋トレをするために持ってきていたらしいです。
コンジ先生は廊下に置いてあった消化器をすかさず手にとった。
事前にチェックしていたのでしょうか。そこに置いてあるなんて、気が付きませんでしたよ。
「ジョシュア! 君は僕たちの後ろからついてくるがいい!」
「わかりました。」
そして、私たちが『左翼の塔』側の階段を注意深く下りたところで、また叫び声が聞こえた。
「だ……誰かぁ!? カンが! カンがっ……!」
はっきり声がわかりました。
「メッシュさんだ!」
「キッチンのほうだ!」
私たちが、玄関ホールを通り抜けて、『右翼の塔』側の階段の広間に着いたところで、上からちょうどシープさんとジェニー警視、それにビジューさんが下りてきた。
そして、同時にキッチンの方の廊下を見た。
メッシュさんが、『右翼の塔』の前の廊下、警備室の扉の前で、座り込んでいたのだ。
その指が指すほうは警備室の扉の向こうだ。
私たちは大急ぎで駆けつけ、部屋の中を覗き込んだ。
その部屋の中は、真っ赤な血があらゆる方向へ飛び散っていた。
そして、それを覆い隠すような雪の白ー。
ビュゥオオォオオオオオオォ……
壁や床に飛び散る血しぶきの上に雪が包み隠すように吹雪いていた。
警備室の床に雪に埋もれかかっている塊が見えた。
人間のようだ……。
管理人のカンさんの服だ……。
顔は床に伏せていたのでよくは見えなかったが、その服装は昨日見たカンさんの服装と完全に一致した。
その全身は朱に染まり、雪とあいまって綺麗だとも思える。
警備室の裏の勝手口が開きっぱなしになっていた。
そこから猛吹雪の真っ白な光景と恐ろしいまでの風の音が聞こえていた……。
※警備室の惨劇
「動くモノはなし……のようだな。シープさん、銃はどこにある?」
「はい。この警備室の奥の棚です。」
「ここからでは、ちょうど手前の棚で死角になっているな……。慎重に行くぞ。」
「え……? じゃあ、そこに化け物が潜んでいるかも……!?」
「気配は感じないがな……。念のため注意していこう。」
サーベルを持ったシープさんと消化器を構えたコンジ先生が先頭を切って部屋に入っていく。
その後ろからを火かき棒を持ったジェニー警視とダンベルを持ったジニアスさんが続く。
私と燭台を持ったシュジイさんは入り口のところで待っている。
ゆっくりとカンさんの遺体を回り込みながら、部屋の中央に進むコンジ先生とシープさん。
その後ろからジェニー警視とジニアスさんが部屋の中央にある暖房器具の後ろから裏口の扉へ向かう。
何者かが襲いかかってきたとしても暖房器具が邪魔になるだろう。
そして、その暖房器具をジェニー警視たちとは逆方向から棚の向こうの武器棚へ向かうコンジ先生とシープさん。
コンジ先生……気をつけて!
バッ!!
コンジ先生とシープさんが武器棚と手前の棚の間に身を躍らせた!
と、同時にジェニー警視が裏口の扉の雪の中へ……!
「何者も隠れてはいない……ようだな。」
「そのようですね。」
コンジ先生とシープさんは部屋の中を注意深く見ながらお互いで確認しあった。
「こっちも何もいないようだ……!」
「ですね……。」
「足跡かなにかがあるかと思ったが、あったとしてもこの雪ではもうわからなくなってるな。」
ジェニー警視がそう言いながら、裏口の扉をガチャりと閉めた。
そして内側から鍵をかける。
ピュウゥ……
吹雪の余韻が部屋に舞う。
そして、誰もが一瞬静かになり、静寂の外に遠く吹雪の風音が低く響いていたのだったー。
人狼はどこか外の雪の中へ逃げていったのでしょうか……。
そうであれば安心できるのですけど。
しかし、コンジ先生のほうを見ると、なにごとか真剣な様子で考え込んでいる様子で、安心した素振りは一切見えないのでした。
~続く~
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
月明かりの儀式
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、幼馴染でありながら、ある日、神秘的な洋館の探検に挑むことに決めた。洋館には、過去の住人たちの悲劇が秘められており、特に「月明かりの間」と呼ばれる部屋には不気味な伝説があった。二人はその場所で、古い肖像画や日記を通じて、禁断の儀式とそれに伴う呪いの存在を知る。
儀式を再現することで過去の住人たちを解放できるかもしれないと考えた葉羽は、仲間の彩由美と共に儀式を行うことを決意する。しかし、儀式の最中に影たちが現れ、彼らは過去の記憶を映し出しながら、真実を求めて叫ぶ。過去の住人たちの苦しみと後悔が明らかになる中、二人はその思いを受け止め、解放を目指す。
果たして、葉羽と彩由美は過去の悲劇を乗り越え、住人たちを解放することができるのか。そして、彼ら自身の運命はどうなるのか。月明かりの下で繰り広げられる、謎と感動の物語が展開されていく。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
声の響く洋館
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。
彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。
特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発
斑鳩陽菜
ミステリー
K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。
遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。
そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。
遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。
臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。
推理のスタートは『スタート』
天野純一
ミステリー
被害者の茅森美智代が遺した謎のダイイングメッセージ。彼女は近くにあった“カタカナパネル”というオモチャの中から、『ス』と『タ』と『ー』と『ト』だけを拾って脇に抱えていた。
『スタート』の4文字に始まり、すべてが繋がると浮かび上がる恐るべき犯人とは!?
原警部の鋭いロジックが光る本格ミステリ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる