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復讐編
第20話 復讐編 『初デート!? 動物園へ行こう!』
しおりを挟む以前にもらった電子名刺にあった情報から、電子ネットで(もちろん、シルフ系のネットワークを通してだけど)アカリンにアクセスしてみた。
アカリンへ近日会いたいとの内容のメッセージを送る。
その数分のに、アカリンから返事が来た。
「ちょうど、私も君に会いたかった。」
一瞬、僕はドキリとした。まあ、彼女がそういう意味で言ったのではないことくらいわかってはいるんだが・・・。
「うん、わかった、じゃあ、明日、シナガワステーションビルで待ち合わせね。OK!」
アカリンとの約束を取り付け、僕はナオト兄さんの興行場所、今は、センダイエリアだけど、そこへ向かった。
マッハのスピードで行く自家用飛行車『ヴェネツィアの獅子』だから、あっという間に着いた。
運転手はナオト兄さんのお弟子さんのカーネ・ダショータさんだ。
彼は、非常にナオト兄さんを崇拝しているので、秘密は絶対に守るだろう人物であり、適任だった。
カーネさんは磁気バイクレースの元プロ選手だったので、本来はバイクのほうがテクニックがすごいんだけど、車もすごいんだ。
カーネさんのレスラー名は、バイクスターだ。
もうひとり、交代で運転手をしてくれているレスラーは、シーマ・テツオウさんだった。
もちろん、彼も忠義に厚い人で、非常に信頼が置ける人でもあった。
ま、シーマさんはメカニックとしてすごく才能がある人だと思う。もちろん運転もそこらの一般人には決して負けはしないけど。
シーマさんのレスラー名は、スティールダストだ。
例によって例のごとく、ナオト兄さんと僕は二人きりになり、話し合った。
僕はアカリンに会うということも、伝えた。
その上で、彼女を信用してみたいという話をしたんだ。
「ミギト・・・。俺もおまえの直感を信じよう。たしかにその子は敵ではなさそうだな。」
「はい。で、やはりヤツラ、和流石建設の背後にはまだとんでもないワルが潜んでいそうですね。」
「うむ。そうだな。その件に関して、俺の知り合いの探偵が当たってくれたんだが。」
「あ、探偵ってクウラ・モリさんですか!?」
「ああ、そうだ。ヤツは信用できる。なんと言ってもヤツ自身が奥さんと子どもを亡くしている。闇の組織にやられたとヤツは確信している。」
「そ・・・そうだったんですか・・・。普段はそんな素振り、まったく見せないですね。クウラさん・・・。」
「ああ、そうだな。ヤツは強い。」
「和流石建設の直接背後にいるのは、アクノ・ダイカンだな。
そして、アクノが入っている政治団体に他のイツキ・ブルーム、ローム・スカ・パロウ、そして、マガセ・フォーシーズンが入っている。」
「そ、それじゃあ、直接絡んでいたのは、アクノ・ダイカン・・・なんですね・・・。許せない!」
「うむ。だが、先走るなよ、ミギト!まだこれからもう少し詳しく調べてみないといけない。くれぐれも勝手な真似はするなよ?」
「・・・はい・・・わかってます・・・。」
僕はそう答えたが、内心は復讐の炎に身を焦がしていたのだ。
だって、そうだろ?やっと、キャサリン先生やヒョウリ、シスターやガストーン、孤児院のみんなのカタキが確定したのだから・・・。
翌日、僕はまた、ヒョウリの姿で、シナガワステーションビルに向かっていた。
先日約束したアカリンと会うためだ。動物園に誘ったんだけど、なんだかデートみたいだなって・・・。
そう思うとちょっとドキドキしてきたぞ・・・。
彼女、そういえば、あの胸・・・おっきかったな・・・。初めて会ったときにぶつかった瞬間を思い出していた・・・。
「んん~ん~?? なぁ~んか、よからぬこと考えてないかい?ヒョウリ・・・?」
「わわわーーーっつ!!! ・・・って、アカリンか!びっくりした!脅かさないでよ。」
アカリンが背後から近づいてきていたのに、まったく気づかなかった・・・。
それにしても、この子、なんだか僕の心が読めるのかな・・・。鋭いんだよ。
「ふふふ・・・。ヒョウリって驚きがり屋さんだなぁ。」
「それを言うなら、怖がり屋さんじゃない?」
「ま、いいけどね、そういうところ、かわいいよね。」
「え・・・?」
思わず、僕は顔が少し赤くなってしまった・・・。
「で、今日は動物園に付き合ってくれって話だったね。」
「うん、演技の勉強をしたいんだけど。動物園に一人で行くのもなぁ・・・って思って。」
「へぇ・・・それで、私を誘ってくれたんだ? ふぅーん。いいね。なんだか。」
「いや、またアカリンに会いたいってのもあったから!!」
僕は思わず、強調して言ってしまった。なんだか、ついでに誘ったと勘違いされるのが嫌だと思ったからつい声を上げてしまった。
「ほむほむ。ま、そゆことにしとこうか。じゃ、行こうか。」
そう言って、サラリと僕と腕を組んできたアカリン・・・。
お、オトコ慣れしてる?・・・こっちはドキドキが止まらないんだけどーーー。
そのまま、ワンガントレインに乗って、カナガワエリアのヨコハマ・ズーに向かった。
そして、僕は二人分の入場チケットを電子パスで購入し、僕たちはゲートをくぐった。
すぐさま、ライオンのいるケージ(檻)に向かいたいところだったが、アカリンが、
「朝ごはんは食べてきた?」
「あ、いや、まだだけど。」
「じゃあ、あそこで、朝ごはんを軽く食べていこうよ。」
そう言って、指差したのは、動物園の中のカフェテラスだった。
「そ、そうだな。じゃ、ちょっと食べていこうか。」
「何が食べたい?アカリン。」
「私は、サンドウィッチかなぁ。この厚切りサンドウィッチ、チーズたっぷりで美味しそうじゃない?」
ふむふむ、女の子ってチーズ好きだよな~。ま、めちゃくちゃ美味しそうなのは違いなかったが。
「さて、ところで、私が今、調べたところを話そっか?
それが気になってるんでしょ?ヒョウリは。」
「まあね。こっちも情報があるんだ。」
「ふむふむ、情報交換ってことね。」
「まあ、ライオン見たいのは本当だけどね。」
「へぇ、ライオンなんてどうして見たいの?」
僕は、次の舞台でライオンジュニアの役をやることを話して、役を掴むために一度、直にライオンを見てみたいってことを明かした。
「なるほどね。役者さんも大変だね。私の知り合いも役者をやってるんだけどね。」
「へぇ。どこかの劇団の人?」
「うん、ヒョウリと一緒の劇団だよ。」
「え?誰?」
「サーシャ・チャ・五條って子なんだけど。」
「えええーーー!?サーシャと知り合いなの?」
「うん、まあ、何かと腐れ縁ってやつかな。」
これは、素直に驚きだった。
まさか、アカリンとサーシャが知り合いだっただなんて・・・。
「それで、まずヒョウリの情報から聞かせてくれる?」
「ああ、和流石建設のバックにいる政治家がわかった。アクノ・ダイカンだ。最近、このトーキョーエリアで成り上がってきた政治家だ。」
「ああ、あいつか。なるほどね。そうか。私が調べたところだと、例の孤児院の土地の権利譲渡を決定したのが、そのアクノなんだ。」
「そう・・・か!つながったな。ヤツが黒幕か!」
「うん、まぁ、背後にももっと絡みのある連中はいるとは思うけどね。直接関係しているのはおそらく、アクノだろう。」
「くそ・・・許せない!よくも、よくも・・・。」
「ヒョウリ・・・。」
アカリンは僕に対して、非常に悲しそうな顔をした。
「ヒョウリ・・・。気持ちは痛いほどわかる・・・よ。でも、むちゃなことだけはしないでね。約束だよ。」
「・・・。そ、それは・・・。」
「君には、まだ守るべき人もいるだろ?それに、俳優の道はどうするんだい?」
「はっ・・・!それは、そうだけど・・・。確かに、僕は俳優王になる!だけど、この悔しい気持ちも抑えることなんてできないよ!」
「ヒョウリ。悪いことをした人間には、然るべき報いがくだされる。それを待つんだ・・・。いいね?」
「そんなこと・・・本当にあるのか?悪いことをした人間が現に平気でのさばっているじゃないか!?」
「うん。今はね。でも、私のことを信じてくれないか?」
そう言ったアカリンの目は一点の曇りもなかった。
「わかったよ。うん。何かあれば、必ず君に連絡するよ。」
「オーケー!じゃ、ライオン・・・見に行こっか?」
「うん。」
動物園内を入口近くのカフェテラスより、ぐるりと象、オランウータン、テナガザル、バク、トラと見て回り、その次のライオンのいる広場に着いた。
お目当てのライオンの姿を一刻も早く見たいと僕は思い、自然と足が早くなる・・・。
「もぉ・・・ヒョウリってば。そんなに急いで、女の子を置いていかないのー!」
「あ!ごめんごめん・・・。」
そう言ってから、アカリンの方に振り向いた僕は、一瞬、その可愛らしい瞳に映る自分の姿・・・ヒョウリの姿なんだけど、胸がズキンっと傷んだような気がした。
アカリンは、ホントに魅力のある女の子・・・いや、女性だ・・・。
僕は、出会ってまだそんなに経っていないのに、この子に惹かれている自分がいるのに、今更ながら気がついた。
そう・・・ひょっとしたら、僕は産まれて初めて女の子に恋心・・・淡い恋心かもしれないが、そんな感情を抱いているのかも知れなかった。
だが、彼女の瞳に今現在、映っているのは本来の僕=ミギトではなく、ヒョウリである僕・・・なのだった。
ヒョウリは僕から見てもイケメンだし、そりゃ、女の子はみんなヒョウリのことを魅力的に思うだろうし、恋をするかもしれない・・・いや、するに違いない。
しかし、本来の僕、ミギトとしての僕はまったくイケてない、うーん、自分の贔屓目に見てもいたって普通なご面相で、中の下、いや下の中、ああ、下の下だけではないと思いたい。
そして、彼女、アカリンは、そんな本来の僕自身の姿、顔だったとしても、、、ここにいるのが、ヒョウリではなく、ミギトだったとしても・・・
こんなふうに笑ってくれるのだろうか・・・
ふと、そんなふうに考えてしまい、僕は心がなんだか痛くなってしまったのだった・・・。
もちろん、すぐに、『トビウオニギタイ』の能力で、ヒョウリになり切ったから、また、自信を持って彼女に僕も微笑み返せたのは良かったと言うべきか・・・。
「うん、ありがとうね・・・アカリン・・・。」
「ん?どうしたの?ふふ・・・ヒョウリ・・・。あらたまって・・・へんなのぉ!」
「あ、いや、あはは・・・。」
おっと、ライオンのいる広場が檻の向こうに広がっている、100メートル四方はあるだろうか、かなりの広さだ。
その真ん中あたりに悠然と、一匹のオスライオンが立っていた。
まるで、僕が来るのを待ってくれていたみたいだと思った。
「かっこいいな・・・。」
思わず、口に出た。
「うん、そうだね、雄々しい姿だね・・・あの獣が数百年前は、自然に走り回っていただなんて信じられないくらい・・・。」
「そうだね。人間は、驕っているのかも知れないな・・・。」
そう、今では一部の地域以外ほとんど野生の動物は見られない・・・。
すべて、管理下に置かれている・・・。
ジャングルの奥地だろうが、サバンナの平原だろうが、ナイアガラ瀑布だろうが、そこにいる生物はすべて超A・I.がその動向を常に監視しているし、
人に危害を加えそうなら、すぐに抹消できるようにされていると聞く。いったいどうやって・・・というのはなしだ。
そんな方法なんていくらでもあるのだから。
しばらく、その生きているライオンの姿を見ていたら、今度の舞台の役・ライオンジュニアの生き様がありありと浮かんできた。
物語の中でだが、ライオンジュニアは野生を忘れてはいない・・・雄々しく、そして凛々しい姿・・・そのイメージがはっきりとわかった。
足元から地面を伝わって、ライオンのチャクラを感じ取ったのだ・・・。
そう、僕の『トビウオニギタイ』の能力は、第0チャクラだ。ゼロ能力者だ。能力がゼロなわけではない・・・。
これは自身のチャクラではなく地球のチャクラ。そして、第0チャクラとは人間の足の裏にあるチャクラなのだ。
足元から、そのチャクラを感じ、それを能力に転化できる・・・。
僕は、ライオンジュニアの役を確かに掴んだ手応えを感じたのだった・・・。
~続く~
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