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七雄国サミット
第143話 七雄国サミット『会議場』
しおりを挟む『天球神殿』の中の楕円形会議場『ヘスティアの炉』に、各国の代表陣が集結した。
楕円形の円卓に着座するのは代表と他1名であり、その他の参加者はその後ろに着座し、護衛の務めの者はその後ろに立っている。
また、『法国』だけは3名、執政大統領ゼウスと、官房長官ヘラ、そして、国土交通大臣ヘルメスが着座していた。
その他の参加大臣のアレス、テミス、ハデスはその後ろに着座している。護衛は警察庁長官マルス、そして公安委員会長官ネメシスだ。
総務大臣のヘスティアだけは壁際の炉の傍に席を設け、着座している。また、内閣府職員カリスト、エウロパ、イーオー、ガニュメデスの4名が給仕やその他の雑務のため、それぞれ四方に配置されていた。
時計回りに、間隔を空けて『法国』の隣が『龍国』、その隣が『北部帝国』、そして『南部幕府』、ちょうど『法国』の対面が『海王国』、その隣が『巨人国』、『地底国』、『エルフ国』ときて、ちょうど1周となっている。
人物で言うと、ヘラ、ゼウスとヘルメス、エンキとアヌ、サラスヴァティーとブラフマー、ラナケートゥにヴァイローチャナ、ハスターとニャルラトホテプ、アトラスとウトガルティロキ、ラーにオシリス、最後がタイオワとオベロンだ。
そして、『法国』のヘラの席と『エルフ国』のオベロンの席の間に、ひとつ立派な座席が用意されていたが、そこには誰も席には着いていなかった。
この会議場『ヘスティアの炉』は、その名の通り、『法国』の総務大臣ヘスティアが管理と準備をした会場だが、温度は春のように暖かく快適に調整されている。
炉は、犠牲を捧げる場所でもあったが、祭壇・祭祀を司る。ヘスティアの神殿の炉は、国家の重要な会議の場であるのだ。
しかし、そのヘスティアは会議の席についてはいない。
いつもの会議ならば、ヘスティアが司会を務めるところではあるが、今回は『七雄国サミット』だ。
誰が司会をするかで揉めてしまうかも知れないからなのか……。
「ヘスティア殿が司会を務めるのではないのか?」
席についてまだそれほど時間も経ってはいないが、龍王アヌが疑問を投げかけた。
みなの眼がギラリと一瞬、光ったかのように見えた。
「あ! いえ。こたびは司会を引き受けていただけた御方がいらっしゃいますので、私はここで控えさせていただきますわ。」
ヘスティアがきっぱりと断った。
「うむ。じゃあ、いったい誰が仕切るというのであるか?」
それを受けてさらに質問をしたのは、『地底国』のラー王であった。
「みなさん、まあまあ。もう間もなくお見えになるであろう。本日の司会をお務めくださる御方がな。」
ヘスティアの代わりにゼウス大統領が答えたのだ。
ゼウスがそう言うのだ。待つほかはないのだが、そのゼウスをして謙るその御方とはいったい……?
各国家の者たちはざわめいた。
すると、ヘスティアのいる炉の前が急に光りだしたのだ!
『しずけき祈りの ときはいとたのし。なやみある世より われを呼びいだし、み神のもとへと すべての願いをたずさえいたりて つぶさに告げしむ!』
呪文とともに光の門が開き、そこから二人の者が現れた。
「おお! あなたはっ!」
さすがに世界の首脳陣たちはその者の顔を知っている。
「お久しぶりですの。光の皇子(みこ)フォルセティ殿下。」
ゼウスがその者の名を呼んだ。
「まさか……。『皇国』の……!」
「光の皇子(みこ)……。」
そう……。
その光の門から現れた者は『アーサヘイム皇国』の光の皇子として名高いフォルセティだったのだ。
光の皇子フォルセティは、『皇国』の光皇(こうおう)バルドルの息子である。
司法を司る者であり、『最良の法廷』ともいわれる調停と正義で名高い皇子なのだ。
光の皇子が一同を見渡す。
「やっ! ゼウスさん。元気してた? ウトガルティロキさんも、ちわぁっす! え? アトラスもいるじゃん!? へぇ……。許してもらったんだ? 君。」
フォルセティとともに現れた道化師の格好をした者がペラペラと喋りだした。
「うぬぅ……。ロキではないか……。」
「このお調子者めが……。」
ウトガルティロキとアトラスも知り合いのようだ。
そう、この者はロキ。
悪戯好きの道化師で、その名は「閉ざす者」、「終わらせる者」の意味だ。
『法国』や『皇国』のかつての敵であった巨人の血を引きながらも、『皇国』の最高位上皇オーディンの義兄弟となって『皇国』に住んでいるのだ。
「ふっふーん。今日はおいらはフォルセティと一緒にこの会議の見届人をしてやろうってんだから、みな、頭が高いよ? あ、着席してるか! あははっ!」
「ロキ……。少し黙っていなさい。」
「わーお。フォルセティ。わぁーかったよ。じゃ、しばらく黙ってるね?」
フォルセティに諌められおとなしくなるロキ。
「では、僭越ながらこのフォルセティがこの『七雄国サミット』の司会を務めさせていただこう。異論は無きや?」
フォルセティがみなに問いかけるも反論するものはいなかった。
「はい。異論がないようなので進めさせていただく。だが……。その前に……。ロキ!」
「あい! あー、ヘスティア? 我が『皇国』が誇る天才宮廷料理人アンドフリームニルを先に派遣しておいたが、アレの準備は出来てるの?」
「はい。ロキ様。アンドフリームニル殿! お入りください!」
ヘスティアが呼びかけると、扉を開けてこの『ヘスティアの炉』に入ってきた者たちがいた。
ニュンペー(下級精霊)たちと一緒にアンドフリームニルが運んできたのは、大きなテーブルに載せられている巨大な肉料理だった。
「はい。『皇国』の宮廷料理のひとつ『セーフリームニル』の丸焼きです!」
「おお! あの『セーフリームニル』の丸焼きとは!」
「聖なる鍋『エルドフリームニル』で作られるという……。」
「あの有名な宮廷料理『セーフリームニル』か!?」
『セーフリームニル』の肉はどんなにたくさんのエインヘリヤル(戦士たち)が『ヴァルハラ宮殿』にいても食い尽くされることはなく、また毎日料理をしても、夕方にはまた元に戻るという伝説の宮廷料理なのだ。
「つい先日、珍しくあのオークの中のオークの王・キングオーク『セーフリームニル』が穫れたのです。なんでも、ミュルクヴィズ(黒い森)にどこかから飛ばされてきたとか……。」
「なるほど。なかなか出会えないですからなぁ。キングオークはそれほど珍しき魔物。」
「もちろん! この後、『シシナベ』もご用意しております!」
アンドフリームニルはそう告げた。
「おお……!」
「それは楽しみであるな。」
「うむうむ。楽しみだのぉ?」
ざわつく一同であったが、みなが緊張をほぐしたように、笑みがこぼれる。
「飲み物は西王母の桃から絞りし『ネクタール』をどうぞ。」
カリストが毒や病気などを防ぐ効果がある『ヘラクレスの盃』に入ったジュースを運んできた。
フォルセティが言う。
「意見が出やすい場の雰囲気を整えるのは会議のセオリーですからね。一番簡単な雰囲気を創る方法は、予め用意していた甘い飲み物やお菓子を配ることです。意外に、アイデアもでやすくなるため長丁場にオススメですよ?」
ロキが続いてみんなの席に焼菓子を配って置いて回った。
「バクラヴァだよ! とっても甘いからね?」
パッと見た時は、普通の焼き菓子パイかケーキに見える。
でも、フォークを刺してみると、ジュワッと液体が流れ出る。
焼いたケーキに、甘い甘い『アリスタイオスの蜂蜜シロップ』をかけて、生地がひたひたになっている!
「これは、美味しさの……爆裂呪文やぁあああーーっ!!」
ニャルラトホテプが叫んだ。
もちろん、この場にいたみんながその香りに、頬がゆるむのであったー。
~続く~
©「静けき祈りのとき」(曲/ブラッドベリー 詞/作詞者不詳)
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