125 / 256
幕間3
第121話 幕間その3『楼蘭の発展』
しおりを挟む砂漠の都市『楼蘭』ー。
『楼蘭』はおよそ住民2000人の小都市だ。ロプノール湖というオアシスを中心とした街で主な民族は月氏種族(ネズミの種族)である。
その周囲に広がるのは砂漠であるが、見渡す限りの砂山というわけではなく、時折、赤褐色の岩山が露出しているような荒涼とした大自然である。
しかしこの砂漠の街が、商人が集い、観光客がどっとやってきて最近栄えつつあるのだ。
山に囲まれたサファラ砂漠の盆地に固まるように『楼蘭』の市街地が集中している。
砂漠の中ということで常に空気が乾燥しているので、夏は暑いがそれほど不快感はなく、逆に冬の冷え込みは大変厳しいものになるという。
決して暮らしやすい土地ではないはずなのだが、広大な砂漠の中であるにもかかわらず、『楼蘭』の街中は気温が適温で、非常に過ごしやすい。そんな中で、白い家々が建ち並び、巨大な噴水が大量の水を噴き上げている。
交易が盛んで、サファラ砂漠のさらに南方にある『海王国』の都市『無名都市』や、砂漠の北にあるバビロン地方の『円柱都市イラム』と『東方都市キトル』、それに『エルフ国』で最も商業が盛んな『黄金都市エル・ドラード』などと交易路を開通していて、最近はどんどん商人がやってくるようになってきているのだ。
デザートバギーと呼ばれる4つの輪っかがついた無人で動くゴーレムが無料で利用でき、まるで遊戯のように砂漠を疾走する爽快感が味わえると商人の評判がいい。
この街に向かってやってくると、近郊の砂漠のなかに突然あらわれるポップな色使いの石柱が、巨大なラッコの石像の上に7本立っていて目を引く。
『Seven Magic Mountains(セブンマジックマウンテン)』である。
『円柱都市イラム』の中心にある『ガイトウテレビ』の大画面にこの景色が映し出されて紹介されているということもあり、『楼蘭』いちばんの見どころスポットとして、バビロン地方だけでなく『海王国』や『エルフ国』からも観光客がやってくるようになっている。
そしてこの街を今取り仕切っているのは長老・旧鼠であるが、実質切り盛りしているのは代理である女性モルジアナである。
「旧鼠様ぁーーーっ! こっちの商人さんの商業許可出しておいてって言いましたよね!?」
「す……すまんのぉ……。ほい。今、判子押しておいたぞい!」
「まったく……。クレームが来るのこっちなんだから……。」
「モルジアナ姉さぁーーん!」
大きな声でモルジアナに駆け寄ってくる少女。
「あら!? ズッキーニャちゃん! どうしたの? 今日は魔法のお勉強、おやすみの日じゃあなかった?」
「うん! でも遊びに来たのぉ!!」
「あら……。でもお姉ちゃんは忙しいんだよねぇ……。」
するとそこへ声をかけてきた者がいた。
「今日くらい休んだら? モルジアナ。僕が代わりに対応しておくよー。」
「あ! ジュニア様。いいんですか? ジュニア様も『黄金都市』の商人たちとお忙しいのでは……。」
「うん、『黄金都市』の商人たちも今日はもう『砂竜列車』で帰路についたよ。」
「忙しいですね。少しはのんびりしていけばいいのに。」
「まあ、砂竜のボス・ガレオンが連れてきた砂竜たち20尾がフル稼働してくれているからね。『黄金都市』や『無名都市』との往復でも日帰りで済むようになったからね。」
『黄金都市』からはコムギト麦や黄金羊、魔鉱石、ライオンヘッドの身、シダの花などが交易品として入ってくるようになった。
また、『無名都市』からは海産物、クラーケンの身、サザエオニなどの貝類、ワカメ・ワーカー、シー・シー・プーやマイコニド(きのこ類)などが取引されている。
『円柱都市イラム』ではグガランナ牛やサテュロス羊など、『東方都市キトル』からが香料が主な交易品となっている。
そして、商人たちの往来が盛んになるとともに、その護衛任務の冒険者達がこの『楼蘭』にたくさんやってくるようになったのだ。
「あー。そういえば、最近やってきたあの冒険者……『パウアトゥン・ファミリー』のバカブさんたち、すっごく強そうでしたね。」
「そうですねぇ。『イラム』の冒険者でしたね。」
「そうそう。ジン様たちと交流があったとか。」
「へぇ……。じゃあ、今後とも付き合い出てきそうですね。」
「あれれぇ? みんな集まってなぁに話してるの?」
そこにメイド姿の水色の髪の少女が現れた。
「あ! ヒルコさん! こんにちは!」
「ヒルコさん! ……あの子たちは元気にしておりますか?」
「んんー? ああ、パックとジムのことぉ? うん。そうだね。もうすぐベッキーたちが『楼蘭』に来るって言ってたよ。」
「そうですね。まだ『楼蘭』からは出ないほうがいいでしょうね。この街ならジン様やアイ様が守ってくださるでしょうから。」
「ところでぇ……。街の入口でなんだか揉めてるよぉ?」
「え……? なんですそれ?」
さっそくジュニアたちが街の入口へ行ってみると、たしかに揉めている者たちがいる。
かたや背が高く人間に似た輪郭を持ち、人間を戯画化したような顔、鮮紅色に燃え上がる2つの目を持ち、足には水かきがある。「眼のある紫の煙と緑の雲」に包まれし者……。
もう一方の者は、頭部にある大きな花が開いたかのようなデカい口の中に異常に長い舌がうごめいている。……デモ子だ。
「貴様! デモ子とか言ったな? 我はイタカだ。ハスター様の眷属である。『風に乗りて歩むもの』とは我のことだ。忘れたのか?」
「いやいや。だーかーらー! 通行証とかギルドの身分証とかあるでしょうがっ! そーれーをー出せって言ってるんだっつーの! ほら出せ! 早く!」
「ぐぬぬぬ……。そんなものは持ち合わせておらんわ。だが、貴様は我の顔、覚えておろう!? ほら! 早く街に入れろ!」
「デモ子……とか言ったな……。ハスター様とが貴様らに交易を許可してやったんだろうが? 早く我をもてなせ!」
「へぇ……? でもアイ様からは許可証のある者しか入れちゃダメって言われてんだよねぇ……。おまえが偽物かもしれないし。」
「いやいや、そんなわけないだろ?」
「いやいや。そんあわけもあるかもしれないでしょ?」
「「ああぁ!?」」
二人はぎろりと睨み合った。
「お……おふたかた……。ちょ……ちょっと……!」
「イタカ様! デモ子様! 冷静に……お願いします!」
「おーい! デモ子ぉー! 問題起こしたら、アイ様におしおきしてもらうよぉー!?」
「いーや! あたしはあーたんところのハスターってのが決めた取り決めを守ってんでしょーが!?」
「おいおい!? だったら貴様は我がはスター様の配下だってわかってるんじゃあないか!?」
「なによっ!?」
「なんだよっ!?」
「ええーーーっい! おもてに出ろ! 貴様!」
「ああ! あーた! 言ったわね? 異界の混沌と夜の恐ろしさを味わうがいいさ!」
「ッシャアアァアアアアアーーー!!」
デモ子が大口を広げ、イタカに食いつく!
「ぐぁああっ! 貴様ぁ! よくも!」
「ッシャアア……!」
恐ろしい魔力が辺りに吹き荒れ、通行人たちが飛ばされそうに成る。
「きゃあ……!」
ズッキーニャもそれに巻き込まれそうになり、思わず悲鳴を上げた。
すると、そのズッキーニャの周囲に、超ナノテクマシンの集合体が現れた。
その姿は赤い帽子をかぶった白ひげの姿だった。
「我が娘を泣かせる悪い子はどこだぁ?」
そう言って巨大な両の手でイタカとデモ子を掴んだ。
「やっべぇな。貴様ら。このサタン・レイスから悪い子には、死のプレゼントをあげるべ!?」
「ぎゃぎゃぎゃっ!!」
「ぎゅぎゅーーぅっ!!」
そして、二匹(?)は締め付けられ、意識を失ってしまったのであったー。
~続く~
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる