上 下
104 / 256
目指せ!Sランク!

第101話 目指せ!Sランク! 『正義の反対はまた別の正義』

しおりを挟む

 「ほお……? アマイモンちゃんが紹介状を書くだなんて……。あなたたちが『ルネサンス』なのね。」

 アマイモンさんにもらった紹介状を手にギルドマスター・アスモデウスさんが舌なめずりをしながらオレたちを見る。

 このアスモデウスさん……って目のやり場に困るくらいのとてつもない攻撃力を持ったお胸をしていて、オレは思わず目を伏せた。



 アーリくんの目をオリンが両手で見えないように一瞬で指で突いたのは、同じ理由からだった。

 「目がぁ! 目がぁ!」


 しかし、いつまでも相手を見ずにいるのはさすがに失礼に値する。

 うん。そうだ。そうだ。決して見たいわけじゃないんだ……。礼儀なんだ。

 オレはそう言い訳をしながら、目を上げる。


 「そうです。オレたちは『ルネサンス』。そして、オレはジンだ。こっちの小さいのがアイで、こちらがイシカに、あちらがホノリ。そして、アーリくんにオリンだ。よろしくたのむ。」

 そう一気に言ったオレだったが、やはり正面から彼女を見るのはやはりためらわれ、目を右へ左へ流れるようにドギマギしてしまった。



 「どうしたの……? あらぁ? もしかして……照れちゃってるの?」

 「あ……いや。おほんおほん! そ……それより、アマイモンさんから聞きました。『キトル』のナボポラッサル王がオレたちにクエストをこなしてほしいとのご希望だと聞いたのですが……?」

 「ああ……。そうねぇ。Sランク冒険者へ昇格となるとね……。国家の後ろ盾が必要になるのよ。」

 「ええ!? 冒険者ってそういった権力とは無縁の自由な存在じゃないの?」

 オレは思わず大きな声を出してしまった。



 「まあ。基本的にはね、そうなんだけど。Sランク冒険者となると、国家の仕事をこなすことも可能になるのよ。つまりは戦時にはどこかの国の味方をすることもありえるってわけ。」

 「な……!? それって戦争の道具じゃないですか!?」

 「はっきり言ってしまえばそうね。でも、あなたたちもすでに経験していることじゃないの?」

 「え……? オレたちが……? いや、オレたちは戦争なんかに協力したりしてないぞ!? どういうことなんだ?」



 アスモデウスさんが悲しい目をしながら答える。

 「あなたたちのこれまでのことは聞いているわ。『赤の盗賊団』の討伐、『ナナポーゾのスワンプマン事件』の解決……。どれも『イラム』の住民のためだということはわかるわ。」

 「そうだよ? それのなにが悪いんだ!?」

 「いえ。もちろん悪くないでしょう……。だけど、実際、『赤の盗賊団』は『不死国』が絡んだ事件であったわけで、『不死国』からすればあなたたちは『不死国』の侵攻の邪魔をしたことになるわ。そして、『ナナポーゾの事件』もしかりね。ナナポーゾは『エルフ国』の……、それもネイチャメリカ種族の英雄よ。もしかしたら『エルフ国』の、少なくともネイチャメリカ種族の何らかの思惑をあなたたちが阻止したのかもしれないわ……。」


彼女はそこまで言って、オレの目をじっとまっすぐ見た。

 たしかに……。『赤の盗賊団』のサタン・クロースたちには、同情すべき事情があった。だけど、だからといって無関係の者に危害を加えていい理由にはならない。

 しかし、あれが『不死国』の陰謀であったなら……。

 オレたちは『不死国』へ敵対行動をしたということかもしれない。



 ナナポーゾのヤツはどうだ?

 あいつは勝手な実験とやらのせいで農園に被害を出し、住民をすげかえてしまうというような事件を起こした。

 たしかになんの実験か知らないが、運悪くとんでもない被害が出たんだ……。阻止するのは当たり前じゃあないか……?



 しかし……。『エルフ国』が侵略の手を進めていた?

 そう考えると、もしかしたらだけど、オレたちは知らず知らず『エルフ国』の敵に回ってしまったのかもしれない……。

 だが……。



 (マスター。『正義』の反対は何かわかりますか?)

 アイが思念通信で聞いてきた。

 (ええ……? そりゃ、『悪』だろう? 『正義』対『悪』。昔からある構図じゃあないか。正義の味方が悪を倒す……そうだろう?)

 オレがそう答えるとアイは否定した。



 (マスター。『正義』の反対は『悪』じゃあありません。)

 (じゃあ、いったいなんだって言うんだ!?)

 (はい。『正義』の反対は、『また別の正義』……です。)



 そ……それはどういうことだ? 『正義』の反対は『悪』だろう? 『また別の正義』……?

 それはあれか……。相手にも何らかの言い分があるとかなんとか……。

 盗人にも三分の理……だったっけ?



 (マスター。デール・カーネギーは、著書「人を動かす」の中で、「盗人にも五分の理を認める」と言っています。つまり、何らかの理屈をつけるのは誰にでもできると言うことなのです。そして、戦争や争いに絶対的な『正義』は存在しません。あくまでも相対的な『正義』であり、一方から見た『正義』なのです。)

 (……というと?)

 (はい。戦争や争いとは互いの存在や主張をぶつけ合っている状態のことで、そこに『正義』や『悪』の色をつけるのは、あくまでもそれぞれの立ち場から見てという条件付きの『正義』なのです。かつての黙示録の戦争もまた然り……でございました。)

 (……っというと?)

 ダメだ……。理解が追いつかない……。



 (つまり、誰もが自分の『正義』を持っていて、相手から見たらその『正義』は『悪』にもなりえる……ということです。)

 (な……なるほど。それはわかる。かつての世界にもあった対立構造とかそうだったね……。)

 (さすがはマスターです。あの『※※※※』もこの残された世界の者たちから見たら……、決して『正義』なんかじゃあありませんもの……。)

 (え……? なんと言ったの?)

 (いえ。なんでもありませんわ。それより、マスター。アスモデウスさんが待ってますよ。)

 (お……おぅ……。)



 「なるほど……。『正義』の反対は『また別の正義』……というわけか……。」

 オレはとりあえず、今アイ先生に習ったばかりのことを受け売りでそのまんま言ってやった。


 「そのとおりよ!! ジンさん……! あなた、素晴らしいわぁ! アタシたちの仲間にしたいくらい……。」

 「え……? 仲間……ですか? すでに冒険者登録してるので、仲間といえば仲間かと……。あ、『キトル』専属とかそういう意味ですか?」

 「あはは……。いいのよ。今は……。そうね。すでに冒険者という仲間よね。あたしたち。」



 そこでキランっと目を輝かせ、アスモデウスさんは言う。

 「ロノウェ! 依頼書を持ってきなさい。」

 「はいはーい! 偉大なる御方! 御意!!」

 ロノウェがすかさず、部屋から出ていき、パタパタとまた戻ってきた。



 「とりあえず、このクエストを受けてもらいたいわぁ。この依頼主はナボポラッサル王も大変お気に入りのレストラン『ミステリ亭』の新作メニューのための依頼なのよ……。引き受けてくださる?」

 「レストランの依頼……? どういった種類のクエストですか?」

 オリンが補足質問をしてくれた。




 「そうね。簡単……ではないわね。『爆裂コショウ』の採集クエストよ!」

 「爆裂コショウ!?」



 なんだか聞いたことがある。スパイスの一種だったか……。

 しかし、爆裂コショウとは……。名前が物騒だな。


 だが断る!




 ……わけにもいかないだろう……。


 「わかった。そのクエスト受けます!」



 こうしてオレたちは『爆裂コショウ』の採集クエストを受けたのであったー。



~続く~

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...