上 下
7 / 256
プロローグ

第5話 プロローグ 『自宅が魔境と化していました』

しおりを挟む



 それにしても、この家の中はいったいどうなっているんだ?

 外観と中の広さが合致しないくらい中が広い……。

 アイの説明では、空間収縮技術工法で、空間を折りたたんで中の空間を広げているとかなんとか、まったくオレの頭では理解できなかった。



 「僕が、ジン様をお連れして、『霧越楼閣』の中を案内します!」

 ヒルコがそう言って、嬉しそうに言ってきた。

 「そうね。マスターが眠っておられた期間に、この邸宅もずいぶん改築しました。マスター、ヒルコに案内してもらってください。慣れるまで大変でしょうから。」

 「うん、わかった。じゃぁ、ヒルコ! 頼めるかい?」



 「はい! もちろんです。」

 「我は、ではルーティンの農園管理をしてまいります。」

 コタンコロは農園の管理を普段はしているとのことだ。かなり広い空間のようなので、空を飛べるコタンコロが管理するのが利便性があってよいとのこと。



 「では、イシカも『霧越楼閣』の警備をするのであるぞ。」

 「ホノリも『霧越楼閣』の警備してやりますなのだ。」

 イシカ&ホノリはこの邸宅の警備担当ってわけか……。まあ、ほとんどはアイのセキュリティシステムが役割を果たすので必要ないらしいが……。



 「ワタクシはコントロール・ルームで周辺地域の調査を続行致します。何かあれば、思念通信でお知らせください。」

 「うん、わかった。じゃ、ヒルコ、行こうか?」

 「はい! 行きましょう。ジン様!」



 この『霧越楼閣』はもともと、オレの住んでいた葦亜家の自宅なので、外観からは3階建ての『コの字』型の屋敷になっていた。

 東京の郊外に建てられた家で、東京といえど土地は安かったのでずいぶん広い家だった。

 1階には、今いるこの広い空間が、玄関から入ってすぐのところにあり、昔は玄関ホールだったはずだが、今はその広さは数十倍にも感じられる。

 「ジン様、今いるこの広間は『幻想の広場』と呼んでいます。立体映像プラネタリウムの機能が備わっていますので、この広間全体に立体映像を映し出すことができます。」



 「ああ、それでよけいに広く感じるのか。」

 「そうですね。そして、ここはこの屋敷の1階部分で、あちらの扉の向こうには、廊下が続いていましたよね? 
その奥の『右翼の塔』の地下の『安置室』にジン様はお眠りになっていました。」

 「ああ、それは覚えている。オレが最初、目覚めたときだよね。」

 「はい。その廊下の両隣に、イシカとホノリの部屋があり、警備室も隣接しています。あと、キッチン、バスルーム、トイレなどもあります。」

 「ああ、そこは昔と変わらないんだね。」

 「はい、変わってないですね。」


 「右翼のほうは、今は案内は不要かと思いますので、あちらの扉から左翼側へ出ましょう。」

 「うん、そうだね。」

 そう言って、この部屋に最初に来たときと反対の扉から部屋の外へ出る。その先は同じく廊下がずっと続いていて、

 「こちらがわは、この廊下の端に『左翼の塔』があります。その途中の部屋は物置になってます。」



 「ふーん、まあ、昔もそうだったかな。2階はどうなってるの?」

 「はい、こちらのエレベーターで向かいましょう。」

 「おっけー。」



 エレベーターは音もなく上昇……したのかわからないくらいだったけど、上昇して扉が開いた。

 「2階でございます。ここの真ん中はコントロールルームがございます。」

 「ああ、アイが今はいるんだね。」

 「そうですね。他にも部屋がありますが、今は……空き部屋となっています。」



 「あ……親父とおふくろの部屋があったな、あとハマエの部屋も……。」

 「はい、その通りでございます。ハマエ様の部屋は、瑠太郎様もご一緒でした。」

 「あ、そうか! 二人って結婚したんだったね……。」

 「はい。」



 オレはまた二人のことや、両親のことを思い出してしまい、少し淋しくて泣きそうになった。

 「ここは降りなくていいや。オレの部屋にいこう。」

 「わかりました。ジン様……。」

 ヒルコはオレの気持ちを察したのだろう……、少し悲しそうな表情を浮かべた。



 エレベーターで3階に行き、扉が開いた。

 目の前に、婆さんと女の子のメイドが二人で立っていた。いや、婆さんの格好をしたロボットなのか?

 「ジンぼっちゃま。お待ちしておりました。ルン婆と言います。お見知りおきを。」

 「お……おぅ。ルン婆さん? まさか……!?」

 「はい、ご推察のとおり、当家にずっと仕えております、お掃除ロボでございます。」

 「やっぱり! こんな人型になったんだね!?」



 「はい、そして、私めの孫という設定のアカナ・メイドがこちらでございます。」

 「アカナ・メイドでございます。主に屋敷の拭き掃除を担当させていただいております。以後お見知りおきを。」

 「うん、よろしくね。」

 婆さんと孫……という設定のお掃除ロボの進化系か……。

 ルン婆はおそらく、あのお掃除ロボだろう。オレの家に昔からあったあの自動お掃除型ロボットだ。



 「他にもロボットは何台かいるよ? もともと家電として活躍していたロボット達だったから、アイ様が大切に思って、改造手術をしたんですよ。」

 ヒルコが嬉しそうに話してくれた。

 「お……おぅ。改造手術って……なんかの悪の組織みたいだな……。魔改造か……。」

 「エア・クリーナさんと、園庭ロボットのラピュ太郎、メンテナンス係のメンテ・ナースとか、後で出会ったら紹介するね?」

 「お……おぅ……。」



 「えー、こっちの奥にはコタンコロの農園があります。そして、この遊戯室、書斎、談話室を越えて、右翼側へ移動しますね。」

 そう案内され、右翼側へ行くと、廊下が長く続いており、その向こうに何やら仰々しい扉があった。

 「この向こうが『セラエノ図書館』、ジン様のお部屋です。」



 「うわぁ……。なんだか、すっごく厳重に管理されてる空気感だね……。」

 「はい。この部屋は、アイ様以外の者が入ることを許可されておりません。なので、僕は入れません……が、ジン様、お入りになりますか?」

 「うん、そうだね、ちょっと確認したいし……。」

 「アイ様! アイ様! ジン様が『セラエノ図書館』へお入りになりたいとおっしゃっています。」

 (了解いたしました。今、扉を開きます!)



 また、頭の中でアイの声がして、扉が開いた。

 「僕はここで待っています。どうぞ、お入りください。」

 「うん、わかった。じゃあ、行ってくるね。」

 そう言ってオレは自分の部屋に約5千年ぶりに……、いや、56億7千万年ぶりかもしれないけど、入ることになった。



 部屋の中は本当にオレの最後の記憶の中の部屋とまったく変わらなかった……。チリ1つ落ちていない……。

 この部屋の中はアイしか入室できないって言ってたけど、アイが掃除してメンテナンスしてくれているのだろうか?

 あ、オレの秘蔵のエッチなディスクも……、あるのかーーい!! ワロタ。

 これ、アイは見てるんだろうけど……どう思ったのか聞くのはこわいな……。

 うん、漫画コミックスが何千冊もあって、アニメのディスク、フィギュアも奥のガラスケースに飾ったままだ。



 なんにも変わってないな……。ここにいれば、さっきまでのことが嘘みたいだ……。

 だが、真ん中に座していた奇妙な円錐型の生物が、オレに向かってこう言ったので、この世界が現実なんだと思い知らされた。

 「ワタシはこの『セラエノ図書館』の管理人、『ラバン教授』であります。目は見えませぬが、ジン様ですね、おかえりなさいませ。
ワタシはずっとここを守ってまいりました。そしてこれからも守っていくことでしょう……。」

 ひえーーーーー! なんだこの生物、ああ、オレの飼ってたなにかの生物が進化したのか?






 「お……おぅ。ご苦労だな……。ありがとうな。」

 「いえ、もったいなき言葉……。ジン様には感謝しかないです。」

 「いや、あはは、ははは!」

 オレはこのふよふよしている半植物的な円錐体生物『ラバン教授』(かつて地上を支配していた『盲目のもの』がその復讐のため、長い年月の後に再び地上に現れ、逆襲し、円錐体生物を滅ぼしたが、ラバン教授はその生き残りらしい。)と、早々に別れを告げ、外に出た。



 「ヒルコ……。もう屋敷の案内はいいや、なにかちょっと落ち着きたい……。」

 「では、幻想の広場に戻りますか。」

 「うん、そうだな。」

 オレはいそいそとオレの部屋を後にして、広場に戻ったのだった……。

 自分の部屋にあんな奇妙な生物がいるとは……! びっくりだったな。

 ふー、なんだか、安心したら、お腹が空いてきたなぁ……。



~続く~

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ

夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー   八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。     田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。     でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?     どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。     だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。     そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...