あの世からの贈り物

越地八郎

文字の大きさ
上 下
6 / 8

6話

しおりを挟む
 そんな思いを続けて歳月が過ぎたある日のことだった。
 
   跳一はあの航太とキャッチボールをする夢を見た。
  それが終わると、航太がいきなり
「おじさん、結婚しなよ」
 と、言い出した。

「世の中、悪い女の人ばかりじゃないよ。僕のお母さんのようでない人と結婚すればいいだけじゃない。おじさんがそんな目に遭わないように、僕が見守っていてあげるよ」
「そうは言ってもねぇ……」
 跳一には返す言葉がなかった。

「心配しないでよ。僕がおじさんのことを見守っているから大丈夫だよ。勇気出してよ」

 航太は微笑みながら姿を消していった。

 目が覚めて、夢だったことがわかったが、その夢の中に航太が現れたことが気になってしまった。これで直ぐに結婚に気持ちが傾いたわけではないが、航太の夢を見たことで、跳一の心が少しずつ変化し始めた。

 そこで、久しぶりに航太の墓参りをしてみようかと思い立ち、休日に行ってみた。
 すると、偶然、斎藤よし子の息子・翔介とバッタリ会った。翔介は既に中学生になっていた。つまり、航太が生きていれば、中学生になっていたのである。

 墓参りを済ませた後、跳一は翔介を近くのファーストフードショップに誘い、奢ってあげることにした。
 ハンバーガーを食べたり、コーヒーを飲んだりしながら、二人は航太の思い出を語り合った。

  その中で翔介は、
「母は今でも、『航太君はあんな人の子として生まれてきたことが不幸の始まりだったようなものね』等と、航太のお母さんのことを悪く言います。でも、僕はあいつとよく遊んだから、あいつのことを忘れられません。だから、たまに墓参りに来るのです」
 と、説明した。

   さらに
「航太はお父さんがいなかったことが寂しかったと思いますよ。だから、鷹山さんがあいつのキャッチボールの相手をしてあげたことがとても嬉しかったのだと思います。あいつ、学校でも鷹山さんのことを楽しそうに話していましたから。あいつは今でもあの世で鷹山さんに遊んでもらったことを喜んでいるような気がします。それと、あの世で鷹山さんのことを見守っているような気もします」
 と、語った。

 翔介の言葉に跳一は何か軽く背中を押されたような気分になった。
 帰宅後、改めて考え直した。

 勇気が出たという程のものではなかったが、
「航太君、おじさん、自信がないけど、やってみようかな……」
 という気持ちに傾くようになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

姉と薔薇の日々

ささゆき細雪
ライト文芸
何も残さず思いのままに生きてきた彼女の謎を、堅実な妹が恋人と紐解いていくおはなし。 ※二十年以上前に書いた作品なので一部残酷表現、当時の風俗等現在とは異なる描写がございます。その辺りはご了承くださいませ。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

フォーカス 一番暑かったあの夏

貴名 百合埜
ライト文芸
2028年 国境なき医師団の一員として活動している青年外科医の佐藤幸太。 彼の心の底には誰にも知られていない、秘めた想いが眠っていた。 全ては平成最後の夏のあの日から始まった。 あの暑かった夏の日から。 高校三年の佐藤幸太。同級生で写真部の柏本夏向。 瀬戸の都、香川県高松市を舞台にして若い二人のストーリーが始まる。 偶然の出会いを繰り返し ゆっくりと近づいて行く二人の心の距離。 その先で待っている運命に飲み込まれた幸太は激しく傷ついて行く。

【完結】新人機動隊員と弁当屋のお姉さん。あるいは失われた五年間の話

古都まとい
ライト文芸
【第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作】  食べることは生きること。食べるために生きているといっても過言ではない新人機動隊員、加藤将太巡査は寮の共用キッチンを使えないことから夕食難民となる。  コンビニ弁当やスーパーの惣菜で飢えをしのいでいたある日、空きビルの一階に弁当屋がオープンしているのを発見する。そこは若い女店主が一人で切り盛りする、こぢんまりとした温かな店だった。  将太は弁当屋へ通いつめるうちに女店主へ惹かれはじめ、女店主も将太を常連以上の存在として意識しはじめる。  しかし暑い夏の盛り、警察本部長の妻子が殺害されたことから日常は一変する。彼女にはなにか、秘密があるようで――。 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...