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本編
悪魔合体!暗殺者のナポリタンドッグ
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日曜の昼前、いつもの後輩女子から写真とともにメッセージが送られてきた。
「焼きたてパン買いました!」
メッセージはそれだけだ。写真にはコッペパンや丸パンのような、シンプルなパンが写っている。それ以上は敢えて何も言わないつもりのようだが、おそらく「このパンに合うパスタを作って欲しい」ということだろう。
パンとパスタという組み合わせ。例えばファミレスでもパスタにフォカッチャを付けたりするときがあるが、俺にとって馴染み深いのは学校給食だ。ナポリタンなどのパスタに丸パンという組み合わせが、小学校のころによく出たのを思い出す。
*
「おはようございます!……あ、さっそく何か作ってますね」
「おはよう。玉ねぎの匂い、玄関まで来てたか」
俺は仕込みとして玉ねぎを薄切りにしていたところだった。
「今日は何を作ろうとしてたんですか?」
「ナポリタン、それも暗殺者のナポリタンってとこだな」
「ということは、暗殺者のパスタをナポリタン風に作るってことですね!」
以前、普通のナポリタンを作ったことがある。暗殺者のパスタもカットトマトを使う簡易的なものだが作ったことがある。今回はそれを組み合わせてみようというわけだ。
「さっそく、パスタを焼いてくぞ。パンもあるから2人で120グラムってとこか」
フライパンにオリーブオイルを引き、刻んだ唐辛子とニンニクを入れ、1.4ミリのフェデリーニを半分に折って敷き詰めたら、弱火で炒めていく。
「ここにケチャップだ。とりあえず大さじ2杯っと」
油が熱くなって、乾麺を軽く揚げたような状態になったところでケチャップを入れる。
「水は入れないんですか?」
「ああ、まだ入れない。ここで煮詰めて焼きケチャップにしていく」
ケチャップは油で炒め煮にしていくと酸味が飛び、甘みが濃縮されていく。
*
「1分経ったな。ここで具を入れて、と」
あらかじめスライスしておいた玉ねぎとウインナーを加える。
「あとは少しずつお湯を足しながら、暗殺者のパスタと同じように作っていくんだ」
「先輩、塩は入れなくていいんですか?」
「ああ、今回はケチャップの味のみだな。なぜか味が濃い目に感じられるんだよな」
1人前のナポリタンをケチャップ大さじ2杯のみで味付けるのは、やや物足りない。しかし軽く焦がすことで風味を補えるのだ。あとは粉チーズなり、追いケチャップで調整していけばいい。
「いつものようにミックスベジタブルも入れて、っと」
「これが入ると先輩のナポリタンって感じしますもんね」
*
「パンとパスタという組み合わせ、俺としては給食のイメージが強いんだよな」
調理中、後輩に話しかける。
「あ、なんとなくわかります。ソフト麺に付いてきたりしましたよね」
「ソフト麺か。聞いたことはあるけど、俺の地元では見たこと無いんだよな」
「へえ、そうなんですか!」
「うちの学校では、パスタや焼きそばは調理済みの状態で出てきたんだよ。大きなバットにまとめて入ったのを一人分ずつ取り分けるんだ」
「上手にやらないと足りなくなったりしそうですね」
「そう、だから上手いやつがやることになってたな」
全体的な量だけでなく、具の配分もあるのでなかなか難しい。最後に玉ねぎばかりが残ると、おかわりの楽しみが薄れるので文句を言われたりした。
「パスタ系のときはパンが一緒に出ることが多かった。ちょうど、そういう丸いやつだったな」
彼女が持ってきたパンの袋を見ながら言った。
「ブリオッシュですか。なかなかおしゃれですね」
「そういう名前だったか忘れたけど、まあ似たようなやつだった。ほんのり甘くて好きだったな」
「私のところではだいたいコッペパンでしたよ」
「確かにコッペパンもあったな。そういえば学校でしか聞いたことがないかもな」
ジャムが挟んであったり、ホットドッグや焼きそばパンの土台としては見る機会はあっても、「コッペパン」そのものを買ったことは、そういえば無いような気がする。
*
「そろそろかな。仕上げに砂糖を小さじ1杯、っと」
「やっぱりナポリタンには甘みが必要ですからね」
「だな。そして最高に美味しく食べるには、やっぱりこれだな」
俺はコッペパンを手に取り、包丁で切れ込みを入れた。そこに出来上がったナポリタンを挟んでいく。
「絶対やると思いました!」
「名付けて、暗殺者のナポリタンドッグ!」
「よーし、私も!」
小ぶりのコッペパンに、あふれるようにパスタを盛り付けていく。そして粉チーズをたっぷり振りかける。
「いただきます!」
そして、勢いよく頬張る。もちろん、俺もそうする。
「美味しい! なんていうか、ジャンクの極みって感じですね」
「適度に歯ごたえがあるのがまたいいよな」
二人して、あっという間に平らげてしまった。
「もう一つお楽しみだ。このブリオッシュを……」
まずはそのまま、一口ちぎって口に入れる。しっとりとした甘めの生地だ。今度は、それでフライパンにこびりついたケチャップをぬぐって食べる。
「うん、甘めの生地にはケチャップ味がよく合うな」
「うわ、もう反則級じゃないですか!」
皿はまだしも、鍋にこびりついたソースまで舐めるように食べられるのは、家庭料理だからこそだ。食事は気心の知れた相手と自由にするのが一番だ。
*
「ごちそうさまでした! それにしても炭水化物に炭水化物、罪な組み合わせですね」
「イメージは悪いけどな、そんなに大量に食べてるわけじゃないから気にしなくてもいいと思うぞ」
実際、お互いが食べたのは半人前のパスタと、小ぶりのコッペパンを1つずつ、ブリオッシュを半分ずつだ。昼食の摂取カロリーとしては標準的な範囲だろう。
「今度は焼きそばパンもいいかも知れませんね。まあパスタでやる意味なさそうですけど」
「ソース焼きそばなら柔らかめの中華麺が一番だろうからなぁ」
とはいえ、パンとパスタの組み合わせ自体は可能性がありそうである。今度はペンネあたりで試してみようか。とりあえず俺はもう少し食べたいので、コッペパンにウインナーを挟んでホットドッグでも作って、おやつにでもしようかと考えているのであった。
「焼きたてパン買いました!」
メッセージはそれだけだ。写真にはコッペパンや丸パンのような、シンプルなパンが写っている。それ以上は敢えて何も言わないつもりのようだが、おそらく「このパンに合うパスタを作って欲しい」ということだろう。
パンとパスタという組み合わせ。例えばファミレスでもパスタにフォカッチャを付けたりするときがあるが、俺にとって馴染み深いのは学校給食だ。ナポリタンなどのパスタに丸パンという組み合わせが、小学校のころによく出たのを思い出す。
*
「おはようございます!……あ、さっそく何か作ってますね」
「おはよう。玉ねぎの匂い、玄関まで来てたか」
俺は仕込みとして玉ねぎを薄切りにしていたところだった。
「今日は何を作ろうとしてたんですか?」
「ナポリタン、それも暗殺者のナポリタンってとこだな」
「ということは、暗殺者のパスタをナポリタン風に作るってことですね!」
以前、普通のナポリタンを作ったことがある。暗殺者のパスタもカットトマトを使う簡易的なものだが作ったことがある。今回はそれを組み合わせてみようというわけだ。
「さっそく、パスタを焼いてくぞ。パンもあるから2人で120グラムってとこか」
フライパンにオリーブオイルを引き、刻んだ唐辛子とニンニクを入れ、1.4ミリのフェデリーニを半分に折って敷き詰めたら、弱火で炒めていく。
「ここにケチャップだ。とりあえず大さじ2杯っと」
油が熱くなって、乾麺を軽く揚げたような状態になったところでケチャップを入れる。
「水は入れないんですか?」
「ああ、まだ入れない。ここで煮詰めて焼きケチャップにしていく」
ケチャップは油で炒め煮にしていくと酸味が飛び、甘みが濃縮されていく。
*
「1分経ったな。ここで具を入れて、と」
あらかじめスライスしておいた玉ねぎとウインナーを加える。
「あとは少しずつお湯を足しながら、暗殺者のパスタと同じように作っていくんだ」
「先輩、塩は入れなくていいんですか?」
「ああ、今回はケチャップの味のみだな。なぜか味が濃い目に感じられるんだよな」
1人前のナポリタンをケチャップ大さじ2杯のみで味付けるのは、やや物足りない。しかし軽く焦がすことで風味を補えるのだ。あとは粉チーズなり、追いケチャップで調整していけばいい。
「いつものようにミックスベジタブルも入れて、っと」
「これが入ると先輩のナポリタンって感じしますもんね」
*
「パンとパスタという組み合わせ、俺としては給食のイメージが強いんだよな」
調理中、後輩に話しかける。
「あ、なんとなくわかります。ソフト麺に付いてきたりしましたよね」
「ソフト麺か。聞いたことはあるけど、俺の地元では見たこと無いんだよな」
「へえ、そうなんですか!」
「うちの学校では、パスタや焼きそばは調理済みの状態で出てきたんだよ。大きなバットにまとめて入ったのを一人分ずつ取り分けるんだ」
「上手にやらないと足りなくなったりしそうですね」
「そう、だから上手いやつがやることになってたな」
全体的な量だけでなく、具の配分もあるのでなかなか難しい。最後に玉ねぎばかりが残ると、おかわりの楽しみが薄れるので文句を言われたりした。
「パスタ系のときはパンが一緒に出ることが多かった。ちょうど、そういう丸いやつだったな」
彼女が持ってきたパンの袋を見ながら言った。
「ブリオッシュですか。なかなかおしゃれですね」
「そういう名前だったか忘れたけど、まあ似たようなやつだった。ほんのり甘くて好きだったな」
「私のところではだいたいコッペパンでしたよ」
「確かにコッペパンもあったな。そういえば学校でしか聞いたことがないかもな」
ジャムが挟んであったり、ホットドッグや焼きそばパンの土台としては見る機会はあっても、「コッペパン」そのものを買ったことは、そういえば無いような気がする。
*
「そろそろかな。仕上げに砂糖を小さじ1杯、っと」
「やっぱりナポリタンには甘みが必要ですからね」
「だな。そして最高に美味しく食べるには、やっぱりこれだな」
俺はコッペパンを手に取り、包丁で切れ込みを入れた。そこに出来上がったナポリタンを挟んでいく。
「絶対やると思いました!」
「名付けて、暗殺者のナポリタンドッグ!」
「よーし、私も!」
小ぶりのコッペパンに、あふれるようにパスタを盛り付けていく。そして粉チーズをたっぷり振りかける。
「いただきます!」
そして、勢いよく頬張る。もちろん、俺もそうする。
「美味しい! なんていうか、ジャンクの極みって感じですね」
「適度に歯ごたえがあるのがまたいいよな」
二人して、あっという間に平らげてしまった。
「もう一つお楽しみだ。このブリオッシュを……」
まずはそのまま、一口ちぎって口に入れる。しっとりとした甘めの生地だ。今度は、それでフライパンにこびりついたケチャップをぬぐって食べる。
「うん、甘めの生地にはケチャップ味がよく合うな」
「うわ、もう反則級じゃないですか!」
皿はまだしも、鍋にこびりついたソースまで舐めるように食べられるのは、家庭料理だからこそだ。食事は気心の知れた相手と自由にするのが一番だ。
*
「ごちそうさまでした! それにしても炭水化物に炭水化物、罪な組み合わせですね」
「イメージは悪いけどな、そんなに大量に食べてるわけじゃないから気にしなくてもいいと思うぞ」
実際、お互いが食べたのは半人前のパスタと、小ぶりのコッペパンを1つずつ、ブリオッシュを半分ずつだ。昼食の摂取カロリーとしては標準的な範囲だろう。
「今度は焼きそばパンもいいかも知れませんね。まあパスタでやる意味なさそうですけど」
「ソース焼きそばなら柔らかめの中華麺が一番だろうからなぁ」
とはいえ、パンとパスタの組み合わせ自体は可能性がありそうである。今度はペンネあたりで試してみようか。とりあえず俺はもう少し食べたいので、コッペパンにウインナーを挟んでホットドッグでも作って、おやつにでもしようかと考えているのであった。
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