上 下
78 / 89
メタルマックス

第72話:次の予定と木陰と大人の味

しおりを挟む
「あ、ドラクエ4の小説!」

 いつもの古本屋に入ると、文庫コーナーでフミさんが声を上げた。

「懐かしいなぁ。小学生のころ、ゲームと一緒に借りて読んでたの」

「そういえば、ドラクエシリーズはどのくらいやったんだっけ?」
「自分でちゃんと最後まで遊んだのは4だけかな。1から3は続き物だけど、4からは新しい天空シリーズになるから、入門向きだって聞いたから」

「へえ、面白そうだね」

 文庫版は全4巻。表紙のイラストが繋がっており、1巻と2巻を合わせるとメインキャラらしき8人が揃う。3巻の背景は魔王だろうか。

 そろそろメタルマックスがクリアできそうな頃だが、次は何をやろうか。ハルキと一緒に『ウィザードリィ2』? フミさんが話してた『ファイアーエムブレム』? 父おすすめの『ドラえもん ギガゾンビの逆襲』? それに、今聞いた『ドラゴンクエスト4』にも興味が出てきた。

 *

「作者の久美沙織さん、MOTHERの小説も書いているみたいなんだけど見つからなくて」

 いつもの公園のベンチに腰掛け、フミさんは小説を開く。今はざっと確認する程度で、読むのは後のお楽しみということで大事そうにカバンにしまった。

 古いゲームの小説や攻略本は、絶版になって希少価値が付いているものが少なくないと父から聞いた。ドラクエの小説は何度も再版されているので安く買えるようだが、これは例外的なケースであるようだ。

 *

「そうだ、忘れないうちに『桃伝』返しておくね。ケースごと持っていっていいから」

 MOTHERを貸してくれたときと同じ、透明なビニールケースに入れて返してくれた。確かに、お互いが持っていれば貸し借りする時に便利だろう。

「最初はギャグばっかりかと思ってたけど、最後はシリアスで良かったかな。でも後半は敵が強くて逃げてばっかりだったかも……」

 確かに、そのとおりだと思った。ただしこちらは回復アイテムが強力なので、薬草6個に全てを託していたDQ1と比べるとどちらがきつかったかは微妙なところだ。いずれもレベルの伸びしろは高いので、根気よくレベルを上げればスムーズにクリアできるようになっているのだろう。

「そう考えると、FF1は終盤でも割と普通に戦いながら進めてたからね。ドラクエ4はどうだった?」
「仲間が8人いて、回復を使えるのは3だから、余裕だったかな。むしろ、簡単に敵が倒せるからレベルが上がりすぎちゃったり」
「8人もいるの?! コマンド入力が大変そう……」
「それは大丈夫。一度に戦うのは4人だし、AIの自動入力だし」

 自動戦闘。そういえばMOTHERにもあったが、ターゲットが無駄に分散したり、さっさと倒せば済む話なのにわざわざ回復を優先するなど、正直いって使い物にならなかったのを思い出す。

「学習型AIだから、戦うほどに無駄な行動が少なくなったりして」
「へえ、ファミコン時代にそんなことができたんだ」

 いま流行の画像生成AIは、好みの画風のイラストを読み込ませて「学習」させられると聞いたことがある。ファミコン時代のゲームの中にも、そのような仕組みが入っていたのだろうか。

 *

「今日のサンドイッチはケバブ風にしてみたんだけど……どうかな? 私、ケバブ食べたことないんだけどね」
「いい匂い!」

 さて、待ちに待ったお弁当だ。タッパーを開けるとエキゾチックな香りが漂ってきた。

「ヨーグルトソース。クミンとチリパウダーに、ケチャップを混ぜてみたんだけど……」
「うん、美味しいよ!」

 ウェットティッシュで手を拭いて、さっそくいただく。この前の祭りで食べたケバブサンドは香ばしく焼いた鶏肉だったが、こちらは茹でたサラダチキンである。しかしソースはこってりしていて、物足りなさは感じない。

「ちょっと辛いかなって思ったんだけど、このくらいでいいよね?」
「うん、いいと思う!」

 どうやら、彼女とは舌が合いそうだ。来週こそ、僕も何か作って持っていってみようか。

 *

「それじゃ、また学校でね」
「うん、またね」

 あずまやの横の木陰で別れのあいさつを交わす。ちょうど、木や塀が死角になっており、周りからは隠れた状態になる。もしフミさんと恋人同士になったとしたら……ここで、さりげなくキスなんかしてみたらかっこいいだろうな、などと思うのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

Cutie Skip ★

月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。 自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。 高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。 学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。 どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。 一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。 こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。 表紙:むにさん

不撓導舟の独善

縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。 現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。 その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。 放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。 学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。 『なろう』にも掲載。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

処理中です...