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メタルマックス
第71話:ゲームと現実の甘さと辛さ
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「メタルマックス、面白い?」
「うん、今までで一番ハマってるかも」
午後の部活でフミさんに聞かれた。実際、かなりハマっている。単純にゲームの密度が濃いというのもあるのだが、レベル上げや単調なマップ移動に時間を割かれないので、より純粋にゲームを楽しんでいるのだと思う。それとは別に、単純にモチーフや雰囲気が好みというのもあるのだが。
「私のほうは最近あんまりゲームをやる時間が作れなかったんだけど、桃伝のほうはようやくクリアできそうかな。明日、またいつものお店に行くなら持っていくね」
彼女はストレッチをしながら答えた。トレーニング部に入ってから1ヶ月ほど経ち、体はだいぶ柔らかくなっている。それは僕も同じで、筋肉が付いてきたなんて人から言われることもある。
「ところでタケルさん、辛いものって平気? カラシじゃなくて唐辛子系の」
「うん、カレーなら辛口は大丈夫。激辛レベルだとちょっと駄目だけど」
父が辛いもの好きで、タイカレーやインドカレーを買ってきたり、時には自分で作ったりする。僕と母が食べる分を取り分けた後に、自分の分だけスパイスを入れて辛くするのだ。作るたびにちょっと分けてもらっているのだが、まだ「美味しい」と感じられるようにはなっていない。しかし、全く駄目だという母よりは辛さに適性があるようなのだが。
*
「初めてのキスは辛口だったの」
以前、母が酔った時にそんなことを口にした。隣りにいた父は照れながら、タケルは俺に似て辛いのがいけるみたいだから、キスのときは気をつけろとアドバイスをくれた。フミさんに関してはその点は問題なさそうな気がするが、いずれにせよ歯磨きくらいはちゃんとしておこうと思った。
*
「どうしたの?」
「あ、なんでもない。楽しみにしてるね」
「ふふ、ありがと」
思わずキスを想像してぼうっとしてしまったが、フミさんがそう言うからにはきっと辛口のチキンサンドを作ってくれるに違いない。
***
さて、今日も家に帰ったら戦車の時間だ。メタルマックスというゲームは、最初に想像していたよりもだいぶ甘口であるようだった。戦車に乗ればよほどのことがない限り死なないし、生身で戦う場面は短いのでリセットによるやり直しがしやすい。装備のパターンは一見すると複雑だが、基本的には強いものを優先しておけばいいのだ。電気や冷気といった属性の出番も特になさそうな模様である。
トミー(メカニック)とイングリ(ソルジャー)の主砲は、しばらくバーナードラゴンを使っていた。本来は副砲なのだが主砲としても装備でき、シャシーに弾倉さえあれば特殊砲弾を撃つこともできる。普段はそのまま攻撃し、強敵が出たらホローチャージで会心狙いに切り替えていくわけだ。
しかし砂漠の敵は強い。毎回ホローチャージを使ってもいいのだが、そのたびにカーソルを合わせて、使用後は補充もするのは地味に面倒だ。それに、賞金首のようなホローチャージが効かないボスもいる。なので、結局まともな主砲は全員に装備させたほうが良いと判断した。
きっかけは、焼け跡の工場で出現したサルモネラ本舗である。こちらの攻撃を避けまくる上に、当たっても一桁ダメージしか与えられず、すぐに逃げてしまう。これは状態異常の出番だと判断して、ナパーム弾・冷凍弾・毒ガス弾を仕入れて、片っ端から撃ち込んで削り倒したのだが、今後も硬い敵がでてくるだろう。
205ミリキャノン。ヘルゲートの西で売っているこれが、おそらく店で買える最強の主砲だと思われる。56200Gとかなりの高額だが、ロンメルゴーストの賞金の大部分が残っていた上に、サルモネラ本舗の賞金も入ったので間に合った。SEであるエクスカリバーすら上回る威力だ。
それにしても、小型戦車であるモスキートやバギーにも巨砲を搭載できるとは思わなかった。ボディタイプによって兵器の適性があるのかと思いきや、該当する穴さえあいていればなんでも装備できてしまうようだ。
*
「205ミリ? それじゃ戦車じゃなくて自走砲だよ」
友達グループでプレイを報告したら、ソラに突っ込まれた。前線で戦う戦車に対し、後方からの砲撃に徹するのが自走砲ということらしい。つまり、戦車は機動力や装甲が求められるので、主砲の大きさには限界があるという。
「183ミリ砲なんてのもあったみたいだけど、さすがに200ミリ超えの口径は無いみたいだな」
ハルキが素早く検索したリンクを貼ってくれる。写真が付いていたが、その形状は僕のイメージする戦車とはかなり異なっていた。
「いま話題のレオパルト2でも120ミリだって」
ソウタが言う。ウクライナへの供与が始まっている、現代において世界最強とも言われる主力戦車でもその程度なのだ。205ミリ砲というのは戦車としてはかなり非現実的な武装であるようだった。
そもそも簡単に修理できたり、燃料を気にする必要がないなど、戦車というモチーフをゲームに合わせてかなり単純化してあるゲームである。現実と比べてみると改めて異常さが浮かび上がってくるが、このあたりの自由さもまたゲームの面白さなのかも知れない。
***
注:
『サルモネラ本舗』
ナパーム弾・冷凍弾・毒ガス弾を使ったと書いたが、このうち実際に効果があるのは毒ガス弾のみである(炎や冷気のスリップダメージは守備力依存だが、毒は固定)。サルモネラ本舗に当ててしまえば次のターンでの死亡が確定するので、この場面においてだけは最も有効な攻撃手段となる。
「うん、今までで一番ハマってるかも」
午後の部活でフミさんに聞かれた。実際、かなりハマっている。単純にゲームの密度が濃いというのもあるのだが、レベル上げや単調なマップ移動に時間を割かれないので、より純粋にゲームを楽しんでいるのだと思う。それとは別に、単純にモチーフや雰囲気が好みというのもあるのだが。
「私のほうは最近あんまりゲームをやる時間が作れなかったんだけど、桃伝のほうはようやくクリアできそうかな。明日、またいつものお店に行くなら持っていくね」
彼女はストレッチをしながら答えた。トレーニング部に入ってから1ヶ月ほど経ち、体はだいぶ柔らかくなっている。それは僕も同じで、筋肉が付いてきたなんて人から言われることもある。
「ところでタケルさん、辛いものって平気? カラシじゃなくて唐辛子系の」
「うん、カレーなら辛口は大丈夫。激辛レベルだとちょっと駄目だけど」
父が辛いもの好きで、タイカレーやインドカレーを買ってきたり、時には自分で作ったりする。僕と母が食べる分を取り分けた後に、自分の分だけスパイスを入れて辛くするのだ。作るたびにちょっと分けてもらっているのだが、まだ「美味しい」と感じられるようにはなっていない。しかし、全く駄目だという母よりは辛さに適性があるようなのだが。
*
「初めてのキスは辛口だったの」
以前、母が酔った時にそんなことを口にした。隣りにいた父は照れながら、タケルは俺に似て辛いのがいけるみたいだから、キスのときは気をつけろとアドバイスをくれた。フミさんに関してはその点は問題なさそうな気がするが、いずれにせよ歯磨きくらいはちゃんとしておこうと思った。
*
「どうしたの?」
「あ、なんでもない。楽しみにしてるね」
「ふふ、ありがと」
思わずキスを想像してぼうっとしてしまったが、フミさんがそう言うからにはきっと辛口のチキンサンドを作ってくれるに違いない。
***
さて、今日も家に帰ったら戦車の時間だ。メタルマックスというゲームは、最初に想像していたよりもだいぶ甘口であるようだった。戦車に乗ればよほどのことがない限り死なないし、生身で戦う場面は短いのでリセットによるやり直しがしやすい。装備のパターンは一見すると複雑だが、基本的には強いものを優先しておけばいいのだ。電気や冷気といった属性の出番も特になさそうな模様である。
トミー(メカニック)とイングリ(ソルジャー)の主砲は、しばらくバーナードラゴンを使っていた。本来は副砲なのだが主砲としても装備でき、シャシーに弾倉さえあれば特殊砲弾を撃つこともできる。普段はそのまま攻撃し、強敵が出たらホローチャージで会心狙いに切り替えていくわけだ。
しかし砂漠の敵は強い。毎回ホローチャージを使ってもいいのだが、そのたびにカーソルを合わせて、使用後は補充もするのは地味に面倒だ。それに、賞金首のようなホローチャージが効かないボスもいる。なので、結局まともな主砲は全員に装備させたほうが良いと判断した。
きっかけは、焼け跡の工場で出現したサルモネラ本舗である。こちらの攻撃を避けまくる上に、当たっても一桁ダメージしか与えられず、すぐに逃げてしまう。これは状態異常の出番だと判断して、ナパーム弾・冷凍弾・毒ガス弾を仕入れて、片っ端から撃ち込んで削り倒したのだが、今後も硬い敵がでてくるだろう。
205ミリキャノン。ヘルゲートの西で売っているこれが、おそらく店で買える最強の主砲だと思われる。56200Gとかなりの高額だが、ロンメルゴーストの賞金の大部分が残っていた上に、サルモネラ本舗の賞金も入ったので間に合った。SEであるエクスカリバーすら上回る威力だ。
それにしても、小型戦車であるモスキートやバギーにも巨砲を搭載できるとは思わなかった。ボディタイプによって兵器の適性があるのかと思いきや、該当する穴さえあいていればなんでも装備できてしまうようだ。
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「205ミリ? それじゃ戦車じゃなくて自走砲だよ」
友達グループでプレイを報告したら、ソラに突っ込まれた。前線で戦う戦車に対し、後方からの砲撃に徹するのが自走砲ということらしい。つまり、戦車は機動力や装甲が求められるので、主砲の大きさには限界があるという。
「183ミリ砲なんてのもあったみたいだけど、さすがに200ミリ超えの口径は無いみたいだな」
ハルキが素早く検索したリンクを貼ってくれる。写真が付いていたが、その形状は僕のイメージする戦車とはかなり異なっていた。
「いま話題のレオパルト2でも120ミリだって」
ソウタが言う。ウクライナへの供与が始まっている、現代において世界最強とも言われる主力戦車でもその程度なのだ。205ミリ砲というのは戦車としてはかなり非現実的な武装であるようだった。
そもそも簡単に修理できたり、燃料を気にする必要がないなど、戦車というモチーフをゲームに合わせてかなり単純化してあるゲームである。現実と比べてみると改めて異常さが浮かび上がってくるが、このあたりの自由さもまたゲームの面白さなのかも知れない。
***
注:
『サルモネラ本舗』
ナパーム弾・冷凍弾・毒ガス弾を使ったと書いたが、このうち実際に効果があるのは毒ガス弾のみである(炎や冷気のスリップダメージは守備力依存だが、毒は固定)。サルモネラ本舗に当ててしまえば次のターンでの死亡が確定するので、この場面においてだけは最も有効な攻撃手段となる。
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