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ファイナルファンタジー1
第7話:部活と掃除当番と交換日記
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月曜日がやってきて、今週も学校生活が始まる。入学から1週間。そろそろこの風景は日常のものになってきたのだが、そこに日々木さんという新しい彩りが添えられた。とはいっても席は離れているし、同じ係というわけでもないので、あまり話すチャンスはないんだけれど。
***
「なあ、部活どうするか決めた?」
昼休み、ソウタが話しかけてくる。今週から部活の見学が始まる。
「部活紹介で見た『トレ部』ってのに興味があるんだけど」
僕は答える。トレ部ことトレーニング部とは、その名のとおりに筋トレやストレッチなどのトレーニングのみを行う部活である。主に、文化部に所属しているが体を鍛えたい生徒が掛け持ちで入部したり、あるいは学校外でスポーツ活動をしている生徒のために用意されているという話だ。大会があるわけでもないので出欠は任意となっている。今の時期であれば、どの部活に入るか迷っている新入生がとりあえず所属するという場合も多いようだ。
「ってことは、文化部にでも入るのか?」
「いや、体を鍛えたいけどレギュラー争いとかそういうのは苦手だからさ」
「そういうもんかねえ。試合とかないとつまんなくね?」
ソウタはそう言うが、僕は昔から人と競い合うのがあまり好きではない。テレビゲームに興味を持てなかったのも、ちょうど「eスポーツ」なんて言葉が流行りだして、対人系ゲームが盛り上がってきたころに物心付いたからかも知れない。もちろん、そういうゲームばかりではないということは今ならわかるけれども、最新のゲーム機に少し苦手意識があるのは確かだ。
「そういうソウタは?」
「うーん、またサッカーやってみるか。テニスとかも面白そうだけど。トレ部でしばらく様子見してもいいかもな。朝練はトレ部で午後にじっくり見学というパターンもありか」
ソウタは小学生の4年くらいまで、地元のサッカークラブに入っていた。何度か誘われたけれど、結局見学にすら行かないままだったのを思い出した。
「部活の話か。俺は文芸部に入ろうと思ってたんだけど、この前ちょっと見に行ったら女子ばっかりで居づらそうなんだよな」
横から、ハルキが話に混じってくる。本格的な見学期間が始まる前に、こっそり様子見に行ったようだ。
「いざとなったらトレ部と掛け持ちっていうのは確かに魅力的かもな。朝は筋トレ、午後は図書室で読書と執筆なんてさ。ソラはどうする?」
「前から決めてた通り、科学部に入りたいね。この学校にはせっかく天文台もあるんだから」
「そっか、天体観測ってことは学校に泊りがけすることもあるのか? そういうのも憧れるなぁ」
「親からは運動部を勧められてるんだけどね。確かにトレ部との掛け持ちならいいかも」
どうやら、トレ部という部活は僕たちのスタイルにぴったりハマりそうだ。それぞれ別の部活に入っても、朝練は一緒にできるかも知れない。
友達と話しながら、僕はふと日々木さんのほうを見る。相変わらず彼女は一人。ノートになにか書いているのは、授業の復習でもしているのだろうか。
**
「それじゃ、掃除当番がんばれよ」
放課後、それぞれ興味のある部活の見学に行く友達を見送る。僕は掃除当番だ。でも、全然寂しくない。なぜなら日々木さんと二人だからだ。こんな偶然ってある? 昨日も会えたし、もしかして僕と彼女は運命でつながっているのかも? なんてね。
*
「……手伝ってくれて、ありがとね」
僕は、日々木さんの手が届かないところの汚れを拭いたりするのを手伝った。僕も身長はようやく150センチを超えたところで低い方なのだが、彼女はさらに10センチ近くも小柄だ。
「気にしなくていいよ。同じ当番だし、代わりに床を掃除してくれたんだし」
「私、ほうきで床を掃くのって割と好きだから。なんでだろ、小さい頃から魔女に憧れてたからかな」
「不思議な呪文、サッサカサって?」
「ふふ、マトーヤの洞窟じゃない」
僕は、彼女が声を出して笑っているのを初めて見た気がする。
「ねえ、秘密の呪文の謎は解けた? とくれせんたぼーび」
これは、FF1のマトーヤの洞窟の中にいるほうきがつぶやく呪文である。
「すぐわかったよ。逆さ読みでBボタンセレクト、並び替えのコマンドでしょ?」
「……えっ? 並び替え?」
彼女は不思議な顔をする。
*
「そっか、並び替えはセレクトを普通に押せばできるのか」
「そう、Bボタンセレクトは地図を出すコマンドね。フィールド以外、例えば洞窟とかだと無効だから並び替えになるのかも」
しばらく話をしてようやく意味が通じた。どうやら僕は、並び替えコマンドを知らなかったので、本来はセレクト一発で出てくるはずの並び替え画面を「Bボタンセレクト」だと勘違いしていたのだ。あれから並び替えコマンドは使っていなかったので気づかないままだった。
*
「これで終わり、と。それじゃ、僕は部活見学に行ってくるから」
掃除用具を片付け、用具入れに貼り付けた当番表にチェックを入れて、ようやく開放だ。
「あ、……ちょっと待って」
すると、日々木さんが呼び止めてくる。
「どうしたの」
彼女は自分の席に戻り、鞄から一冊のノートを取り出した。
「これ、私のゲームノートなんだけど」
ページを開くと、FF1のものらしきキャラクターのレベルやステータス、進行状況などが細かく記録されていた。
「すごい、こんなにしっかりデータ取りながらやってるんだ」
「うん。……それでね、提案なんだけど……」
彼女はなぜか口ごもる。
「タケルさんもこれに記録付けてみない? 交換日記っていうのかな。……男の子ってそういうの苦手かもだから、無理にとは言わないんだけど……」
交換日記。小学生の頃、クラスの女子で流行った時期がある。国語の宿題の日記や作文ですら大変なのに、なんで趣味で日記なんか書くんだろうと不思議に思っていたけれど、好きな人との日記のやり取りならとても興味がある! というか、日々木さんから提案してくるってことは、もしかして脈あり?
「でも、僕が持ってたら日々木さんの記録は……」
「それは大丈夫。ルーズリーフだからページを抜き差しできるし」
「ああ、そうか」
このタイプのノートを使ったことがなかったので気づかなかったが、確かにこれならリングを外してページを入れ替えることができる。つまり、僕の手元に日記帳があるときでも、ノートのページさえあれば日々木さんは日記を付けることができる。日記帳を受け取ったら、そこにページを差し込んで続きを書けば良いのだ。
*
「それじゃ、私は帰るからね」
「ああ、また明日ね」
僕は日々木さんを見送ると、交換日記を大切にカバンに納めた。
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「なあ、部活どうするか決めた?」
昼休み、ソウタが話しかけてくる。今週から部活の見学が始まる。
「部活紹介で見た『トレ部』ってのに興味があるんだけど」
僕は答える。トレ部ことトレーニング部とは、その名のとおりに筋トレやストレッチなどのトレーニングのみを行う部活である。主に、文化部に所属しているが体を鍛えたい生徒が掛け持ちで入部したり、あるいは学校外でスポーツ活動をしている生徒のために用意されているという話だ。大会があるわけでもないので出欠は任意となっている。今の時期であれば、どの部活に入るか迷っている新入生がとりあえず所属するという場合も多いようだ。
「ってことは、文化部にでも入るのか?」
「いや、体を鍛えたいけどレギュラー争いとかそういうのは苦手だからさ」
「そういうもんかねえ。試合とかないとつまんなくね?」
ソウタはそう言うが、僕は昔から人と競い合うのがあまり好きではない。テレビゲームに興味を持てなかったのも、ちょうど「eスポーツ」なんて言葉が流行りだして、対人系ゲームが盛り上がってきたころに物心付いたからかも知れない。もちろん、そういうゲームばかりではないということは今ならわかるけれども、最新のゲーム機に少し苦手意識があるのは確かだ。
「そういうソウタは?」
「うーん、またサッカーやってみるか。テニスとかも面白そうだけど。トレ部でしばらく様子見してもいいかもな。朝練はトレ部で午後にじっくり見学というパターンもありか」
ソウタは小学生の4年くらいまで、地元のサッカークラブに入っていた。何度か誘われたけれど、結局見学にすら行かないままだったのを思い出した。
「部活の話か。俺は文芸部に入ろうと思ってたんだけど、この前ちょっと見に行ったら女子ばっかりで居づらそうなんだよな」
横から、ハルキが話に混じってくる。本格的な見学期間が始まる前に、こっそり様子見に行ったようだ。
「いざとなったらトレ部と掛け持ちっていうのは確かに魅力的かもな。朝は筋トレ、午後は図書室で読書と執筆なんてさ。ソラはどうする?」
「前から決めてた通り、科学部に入りたいね。この学校にはせっかく天文台もあるんだから」
「そっか、天体観測ってことは学校に泊りがけすることもあるのか? そういうのも憧れるなぁ」
「親からは運動部を勧められてるんだけどね。確かにトレ部との掛け持ちならいいかも」
どうやら、トレ部という部活は僕たちのスタイルにぴったりハマりそうだ。それぞれ別の部活に入っても、朝練は一緒にできるかも知れない。
友達と話しながら、僕はふと日々木さんのほうを見る。相変わらず彼女は一人。ノートになにか書いているのは、授業の復習でもしているのだろうか。
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「それじゃ、掃除当番がんばれよ」
放課後、それぞれ興味のある部活の見学に行く友達を見送る。僕は掃除当番だ。でも、全然寂しくない。なぜなら日々木さんと二人だからだ。こんな偶然ってある? 昨日も会えたし、もしかして僕と彼女は運命でつながっているのかも? なんてね。
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「……手伝ってくれて、ありがとね」
僕は、日々木さんの手が届かないところの汚れを拭いたりするのを手伝った。僕も身長はようやく150センチを超えたところで低い方なのだが、彼女はさらに10センチ近くも小柄だ。
「気にしなくていいよ。同じ当番だし、代わりに床を掃除してくれたんだし」
「私、ほうきで床を掃くのって割と好きだから。なんでだろ、小さい頃から魔女に憧れてたからかな」
「不思議な呪文、サッサカサって?」
「ふふ、マトーヤの洞窟じゃない」
僕は、彼女が声を出して笑っているのを初めて見た気がする。
「ねえ、秘密の呪文の謎は解けた? とくれせんたぼーび」
これは、FF1のマトーヤの洞窟の中にいるほうきがつぶやく呪文である。
「すぐわかったよ。逆さ読みでBボタンセレクト、並び替えのコマンドでしょ?」
「……えっ? 並び替え?」
彼女は不思議な顔をする。
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「そっか、並び替えはセレクトを普通に押せばできるのか」
「そう、Bボタンセレクトは地図を出すコマンドね。フィールド以外、例えば洞窟とかだと無効だから並び替えになるのかも」
しばらく話をしてようやく意味が通じた。どうやら僕は、並び替えコマンドを知らなかったので、本来はセレクト一発で出てくるはずの並び替え画面を「Bボタンセレクト」だと勘違いしていたのだ。あれから並び替えコマンドは使っていなかったので気づかないままだった。
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「これで終わり、と。それじゃ、僕は部活見学に行ってくるから」
掃除用具を片付け、用具入れに貼り付けた当番表にチェックを入れて、ようやく開放だ。
「あ、……ちょっと待って」
すると、日々木さんが呼び止めてくる。
「どうしたの」
彼女は自分の席に戻り、鞄から一冊のノートを取り出した。
「これ、私のゲームノートなんだけど」
ページを開くと、FF1のものらしきキャラクターのレベルやステータス、進行状況などが細かく記録されていた。
「すごい、こんなにしっかりデータ取りながらやってるんだ」
「うん。……それでね、提案なんだけど……」
彼女はなぜか口ごもる。
「タケルさんもこれに記録付けてみない? 交換日記っていうのかな。……男の子ってそういうの苦手かもだから、無理にとは言わないんだけど……」
交換日記。小学生の頃、クラスの女子で流行った時期がある。国語の宿題の日記や作文ですら大変なのに、なんで趣味で日記なんか書くんだろうと不思議に思っていたけれど、好きな人との日記のやり取りならとても興味がある! というか、日々木さんから提案してくるってことは、もしかして脈あり?
「でも、僕が持ってたら日々木さんの記録は……」
「それは大丈夫。ルーズリーフだからページを抜き差しできるし」
「ああ、そうか」
このタイプのノートを使ったことがなかったので気づかなかったが、確かにこれならリングを外してページを入れ替えることができる。つまり、僕の手元に日記帳があるときでも、ノートのページさえあれば日々木さんは日記を付けることができる。日記帳を受け取ったら、そこにページを差し込んで続きを書けば良いのだ。
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「それじゃ、私は帰るからね」
「ああ、また明日ね」
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内容更新 2024.11.14
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