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ファイナルファンタジー1
第5話:そこで君に会える気がした
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「調子はどうだ?」
「海賊を倒して船ゲットしたよ」
「もうそこまで進んだのか!」
夜の9時になり、風呂に入るために1階に降りたところで父に声をかけられた。あれから僕のパーティはこまめにセーブしながら慎重に冒険をして、目を無くした魔女に会ったり、港町で海賊(ゴブリンより弱いのによく海賊なんかできたな)を退治した。海の向こうにはエルフが住んでいるという情報を手に入れたので、もうすぐ父のデータにも追いつくだろう。
そういえば、魔女のほうきから聞いた合言葉に従ってボタンを押したら、メンバーの並び替え画面が出てきた。どうやら前にいるほうが攻撃のターゲットになりやすいようなので、防具が弱いモンクの"そうた"を2番目から最後尾に下げることにした。これでトータルで受けるダメージが大幅に減り、安全に港町までたどり着くことができたのだ。
風呂上がり、再びFF1を少しだけプレイ。船に乗ってコーネリアに戻り、サンダーを"はるき"に買う。海の敵にはやはり雷がよく効くようだ。あとは武器もそろそろ新しくしたいなと思ったが、そろそろ眠くなってきたので今日はおしまいにしよう。
*
「おはよう、LINE見たか?」
「うん」
日曜日、少し遅めに起きた僕に父が声をかける。見立て通り、持っているファミコンソフトの一覧表を共有フォルダに作ってくれていた。スーファミのソフト一覧もあるが、これは本体ともども従兄弟たちのところにある。
「そうだ、昨日行った店なんだけどさ、父さん知ってる?」
僕は、昨日の最後に立ち寄った店の場所について話をした。
「おお、あの店なら昔行ったことあるぞ。まだやってたんだな。おばさんは元気かな?」
「うん、おばあちゃんくらいの歳の人でしょ? 元気に店番やってたよ。昔のビデオとかゲームもたくさんあった」
「懐かしいなぁ。今度行ってみようかな」
「今日、これから行こうと思ってるんだけど、一緒に来る?」
口に出してから、僕は少し後悔した。確かに昔のゲームやビデオや本について、父にあれこれ教えてもらいながら店を見るのはとても楽しそうだ。でも、もしも日々木さんがいるのだとしたら二人きりで会いたい。
「うーん、あの店って駐車場なかったよな? それに今日は家のこともやらないといけないし、子供の世界に大人が行くのもちょっと違うような気がしてな」
確かに、あの店は本やゲームだけでなく駄菓子なども置いてあった。平日の夕方などは近所の小学生で賑わってそうな店だ。
「わかった、一人で行くよ」
僕は妙に安心した。
*
朝食を済ませて支度をする。また日々木さんに会えたらいいな、と期待しながら。例の店について、オンラインマップの口コミで営業時間を確認する。10時開店なのでまだ時間はある。少しFF1をプレイをしよう。
船を海岸線に沿って動かすと、南の方に町と城を発見。これがエルフの国か! 父のプレイデータにようやく追いついた。レベルはまだ3だけれど。武器も魔法も値段が4桁になり、まだまだお金を稼がないといけない。陸の敵は手強いので、海で海賊やサメを狩るのがよさそうだ。
ゲームをやめる前に、スマホで画面の写真を撮ることにした。もし日々木さんに会えたら、僕もFF1を始めたということを伝えたいと思ったのだ。各キャラクターのステータス画面と、船に乗ったフィールド画面。これで報告ができるぞ。
*
「それじゃ、行ってきます!」
たぶん、時間通りには開かないような気がしたので10時になったところで家を出た。ポケットに財布とスマホを入れ、ウォーターサーバーの水を詰めたペットボトルをナップザックに放り込むとそれを肩にかけ、ヘルメットを被って自転車にまたがる。
15分ほどで例の店についた。店はもう開いており、先客のものらしき自転車が一台、入口の前に置かれていた。パステルピンクのフレームには、うちの中学校の自転車通学許可証が貼ってある。期待が高鳴る。
引き戸を開けて店内に入ると、グレーのパーカーにピンクのスニーカーの女の子……そう、日々木さんがいた。いてくれた。
「おはよう」と声をかけようとしたが、なぜか声が出て来ない。おかしい、僕は彼女に会えることを期待してこの店に来たのに、いざ彼女を前にしたら、一言もしゃべれなくなってしまった。
「……おはよ」
そんな彼女は、僕の気持ちを知ってか知らずか、軽くあいさつをしてくれた。
「お、おはよう」
僕はなんとか返事をすると、彼女のいるファミコンコーナーの反対側にある、漫画売り場のほうに歩いていくのであった。
横目で見た店主のおばあさんの顔は優しく微笑んでいた。なんだか、すべてを理解されているような気がした。
***
注:
「魔女のほうきから聞いた合言葉」
マップを開くコマンドの「とくれせんたぼーび → Bボタンセレクト」だが、ファミコン版ではフィールド上以外の場所で入力すると並び替え画面(普通にセレクトを押したときと同じ)が出てしまう。つまり、マトーヤの洞窟で聞いた直後に入力すると地図ではなく並び替え画面が出てしまうので、タケルはまだマップの存在に気づいていない。
「海賊を倒して船ゲットしたよ」
「もうそこまで進んだのか!」
夜の9時になり、風呂に入るために1階に降りたところで父に声をかけられた。あれから僕のパーティはこまめにセーブしながら慎重に冒険をして、目を無くした魔女に会ったり、港町で海賊(ゴブリンより弱いのによく海賊なんかできたな)を退治した。海の向こうにはエルフが住んでいるという情報を手に入れたので、もうすぐ父のデータにも追いつくだろう。
そういえば、魔女のほうきから聞いた合言葉に従ってボタンを押したら、メンバーの並び替え画面が出てきた。どうやら前にいるほうが攻撃のターゲットになりやすいようなので、防具が弱いモンクの"そうた"を2番目から最後尾に下げることにした。これでトータルで受けるダメージが大幅に減り、安全に港町までたどり着くことができたのだ。
風呂上がり、再びFF1を少しだけプレイ。船に乗ってコーネリアに戻り、サンダーを"はるき"に買う。海の敵にはやはり雷がよく効くようだ。あとは武器もそろそろ新しくしたいなと思ったが、そろそろ眠くなってきたので今日はおしまいにしよう。
*
「おはよう、LINE見たか?」
「うん」
日曜日、少し遅めに起きた僕に父が声をかける。見立て通り、持っているファミコンソフトの一覧表を共有フォルダに作ってくれていた。スーファミのソフト一覧もあるが、これは本体ともども従兄弟たちのところにある。
「そうだ、昨日行った店なんだけどさ、父さん知ってる?」
僕は、昨日の最後に立ち寄った店の場所について話をした。
「おお、あの店なら昔行ったことあるぞ。まだやってたんだな。おばさんは元気かな?」
「うん、おばあちゃんくらいの歳の人でしょ? 元気に店番やってたよ。昔のビデオとかゲームもたくさんあった」
「懐かしいなぁ。今度行ってみようかな」
「今日、これから行こうと思ってるんだけど、一緒に来る?」
口に出してから、僕は少し後悔した。確かに昔のゲームやビデオや本について、父にあれこれ教えてもらいながら店を見るのはとても楽しそうだ。でも、もしも日々木さんがいるのだとしたら二人きりで会いたい。
「うーん、あの店って駐車場なかったよな? それに今日は家のこともやらないといけないし、子供の世界に大人が行くのもちょっと違うような気がしてな」
確かに、あの店は本やゲームだけでなく駄菓子なども置いてあった。平日の夕方などは近所の小学生で賑わってそうな店だ。
「わかった、一人で行くよ」
僕は妙に安心した。
*
朝食を済ませて支度をする。また日々木さんに会えたらいいな、と期待しながら。例の店について、オンラインマップの口コミで営業時間を確認する。10時開店なのでまだ時間はある。少しFF1をプレイをしよう。
船を海岸線に沿って動かすと、南の方に町と城を発見。これがエルフの国か! 父のプレイデータにようやく追いついた。レベルはまだ3だけれど。武器も魔法も値段が4桁になり、まだまだお金を稼がないといけない。陸の敵は手強いので、海で海賊やサメを狩るのがよさそうだ。
ゲームをやめる前に、スマホで画面の写真を撮ることにした。もし日々木さんに会えたら、僕もFF1を始めたということを伝えたいと思ったのだ。各キャラクターのステータス画面と、船に乗ったフィールド画面。これで報告ができるぞ。
*
「それじゃ、行ってきます!」
たぶん、時間通りには開かないような気がしたので10時になったところで家を出た。ポケットに財布とスマホを入れ、ウォーターサーバーの水を詰めたペットボトルをナップザックに放り込むとそれを肩にかけ、ヘルメットを被って自転車にまたがる。
15分ほどで例の店についた。店はもう開いており、先客のものらしき自転車が一台、入口の前に置かれていた。パステルピンクのフレームには、うちの中学校の自転車通学許可証が貼ってある。期待が高鳴る。
引き戸を開けて店内に入ると、グレーのパーカーにピンクのスニーカーの女の子……そう、日々木さんがいた。いてくれた。
「おはよう」と声をかけようとしたが、なぜか声が出て来ない。おかしい、僕は彼女に会えることを期待してこの店に来たのに、いざ彼女を前にしたら、一言もしゃべれなくなってしまった。
「……おはよ」
そんな彼女は、僕の気持ちを知ってか知らずか、軽くあいさつをしてくれた。
「お、おはよう」
僕はなんとか返事をすると、彼女のいるファミコンコーナーの反対側にある、漫画売り場のほうに歩いていくのであった。
横目で見た店主のおばあさんの顔は優しく微笑んでいた。なんだか、すべてを理解されているような気がした。
***
注:
「魔女のほうきから聞いた合言葉」
マップを開くコマンドの「とくれせんたぼーび → Bボタンセレクト」だが、ファミコン版ではフィールド上以外の場所で入力すると並び替え画面(普通にセレクトを押したときと同じ)が出てしまう。つまり、マトーヤの洞窟で聞いた直後に入力すると地図ではなく並び替え画面が出てしまうので、タケルはまだマップの存在に気づいていない。
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