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ファイナルファンタジー1

Side父:息子の遊ぶ『FF1』その2

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 息子が遊んでいる『FF1』。キャラメイクが終わって、買い物をして、冒険に出るための最低限の準備が整ったところだ。

「敵は町の外だよね?」
「ああ。草原や森のあたりを歩いてみるといいぞ。シンボルは見えないからな」

 そういえばランダムエンカウントとシンボルエンカウントの違いなどは知っているだろうか。パソコンでRPGツクール製のゲームをいくつか遊んでいるはずなので大丈夫かな。

 息子の操るキャラは森の中をうろうろしているが、なかなか敵が出てこない。思ったよりエンカウント率低いなと思った矢先、ゴブリン3匹との戦闘になった。

「ねえ、"もちもの"と"くすり"って何が違うの?」

 戦闘コマンドを見て息子が尋ねてくる。

「持ち物は装備品、薬は消耗品だな。どっちにしろ今は何も使えないぞ」
「じゃあ攻撃あるのみだね」

 *

「当たればほぼ1発か。命中率はいまひとつだけど、敵の攻撃もほぼ1ダメージ。まだまだ楽勝かな。ところで攻撃が空振りするのはなんで?」
「ああ、すでに倒したところを攻撃しようとしたからな。ターゲットは自動的に切り替わってくれないから、ちゃんと選ばないと無駄が出るんだ」

 いわゆる「オートターゲット」というシステムが存在しない時代のゲームである。

「……それにしてもメッセージ遅すぎない?ボタン押しても送れないんだけど」
「あ、ごめん。これが終わったら一旦セーブしてリセットしてくれないか。肝心なことを忘れてた」

 FF1に限らず、ファミコンのゲームはデフォルトだと表示速度がやたら遅い場合が珍しくない。

「肝心なことって?」
「メッセージ速度は最初の画面でしか切り替えられないんだよ。デフォルトでは一番遅くなってる」
「……このゲーム、クリアできるのかなぁ」
「まあ細かいところは不便だけど、慣れれば2や3よりさくさくプレイできるって話だぞ。……まあ父さんはクリアしてないんだけどな」

 *

「よし戦闘終わり! セーブはどうするの?」
「宿屋に泊まるんだ」
「オッケー。……30ギルか。これ、お金がないとセーブできないの?」
「そうだな。宿屋に泊まるか、店で買った寝袋系のアイテムを使うしかない。全滅したらセーブしたところからやり直しだから注意するんだぞ」

 最近のゲームはオートセーブが標準のようになっているから、わざわざセーブするという操作を忘れがちになる。
 宿屋に泊まってセーブを確認し、リセットしてタイトル画面に戻った。

「メッセージは8が最速だな。この作業は毎回ゲームを始めるたびにやる必要があるぞ。さすがにこんな仕様は初代だけだけど」
「了解。『つづく』っと。……あれ、町の中の宿屋でセーブしたのに再開は外からか」
「だな。セーブしたらリセットして再開したほうが早く出られる場合もあるぞ」
「確かに、すごくテンポがいいもんね」

 いまだとロゴ画面やら注意書きやらが出てきて、なかなかスタートできない場合も多い。それを考えると、ファミコン時代の軽快さは特徴的かも知れない。

「……ところで、前の伯父さん達のデータはどうなったの?」
「ああ、FF1はセーブデータが一つだけだから、上書きされたな」
「えー、せっかく何十年も残ってたデータだったのに」
「ろくにプレイしていなかったデータだから気にすることないぞ。お前なら今日中に追いつけるんじゃないか。それに、あの冒険の続きはリメイク版で完結させたからな」

 今のゲームはメッセージなどを残したりできるが、この時代のゲームの保存容量はごくわずかだ。まして数時間もプレイしていないデータに思い入れなど残っていない。

「さて、最低限のアドバイスは終わったから、ここからは何も口出ししないぞ」
「わかった。お城に行ってみるか」

 そうか、リメイク版と違って城に行くのは任意イベントなんだな。

 *

「なるほどね。北の神殿に姫をさらったやつがいるから、まずはそいつを倒せ、と」

 息子は城を出ると北を目指す。意外にもモンスターは1回しか出てこなかったので、ほとんど消耗せずに神殿にたどり着いた。

「結構広そうだな。まずは正面から……って、いきなりボスか? しかも選択肢もなしでいきなり戦闘!」
「おー、頑張れよ!」

 レベル1だが、鎖かたびらを装備した戦士と赤魔が3人いるから、まあなんとかなるだろう。
「さてどうするか。といってもアイテムも魔法もないから攻撃しかできないんだけどね」

 *

「危なかったけど生き残った!一気にレベルアップだ!」

 数ターンの殴り合いの末、ガーランドを撃破した。防御の薄いモンクがあやうく死にかけたが、とりあえず全員生存してレベルが上がる。

「城までワープか。意外と親切だね。……お、姫様がアイテムくれた!」

 リメイクだと自動的にもらえるようになったが、ファミコン版では話しかけないともらえないようだ。うっかり忘れてしまうと長時間さまよう羽目にもなりかねないので、ここでストレートに気づけたのは大きい。

 *

「橋ができたってことは、次の目的地はそこってことだよね。その前に魔法を買っておくか」

 所持金は300ギルを超えた。息子はまずケアルを2人に覚えさせ、残りの100ギルで少し迷った末にサンダーを"そら"に覚えさせた。

「宿代が無くなっちゃった。まあケアルで回復できるからいいか。一旦セーブしたいけど、ひとまず様子見ついでに橋を渡ってみようかな」

 *

「……うわっ、なにこれ?!」

 橋の上で唐突に流れるオープニングに期待通りの反応を見せてくれた。

「オープニングだよ。とりあえずじっくり読んでみな」
「……なるほど、使命を帯びた若者ね。それにしても結局正体は謎なのか。……プログラムド・バイ……ナシル?」
NASIRナーシャだな。ナーシャ・ジベリっていう外国の人だよ」
 思えば、スタッフロールの先頭にプログラマの名前を出すのは面白いな。当時の子供が知っていたとも思えないのだが。

「それにしても、この頃のゲームってエンディングじゃなくてオープニングにスタッフロールが流れるんだね」
「ああ、それはFF1が例外中の例外かもな。他のゲームでは見たことがない」

 FF1には他にも斬新な要素が多いと思うのだが、息子がそれに気づくのはいつのことになるやら。

「それじゃ、父さんは戻るからな。最後に一つ、本体同梱の攻略本は見ないことをおすすめするぞ」
「え、なんで?」
「大した情報も書いていないくせにストーリーのネタバレだけはひどいからな。迷ったらネットの攻略サイトでも見たほうがよっぽどマシだ。ただしFF1はバージョンごとの違いも大きいから、"ファミコン版"ってちゃんと指定するんだぞ」

 この本でエンディングのネタバレを食らってしまったので、ゲームを進めるモチベーションが下がったのを思い出した。

「そうだ、遊び終わったら電源アダプタは必ずコンセントから抜いておくんだぞ。電源を切っている間でも発熱するからな」

 今日、兄貴たちと久しぶりに遊ぶまですっかり忘れていたのだが、当時のアダプタは本体の電源を切っていてもコンセントに刺さっている限り発熱したままになる。これは今の電気製品に慣れていると忘れがちなところだ。

「わかった、気をつけるね」
「それじゃ、リビングにいるからな」

 こうして僕は息子の部屋を後にした。彼の探求の旅は始まったばかりだ。
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