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第五酒『荷札酒』
第五酒『荷札酒』第一章
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「いらっしゃいま……」
なんとかバイトに間に合った紫がフロアで接客していると来店を知らせる鈴が鳴った。
日本酒居酒屋『水晶』は名を体で表すように日本酒を集めた店で、旅行に行かずともご当地の地酒を楽しめると飲んべえの間で人気を博していた。
大学入学時からここでバイトしている紫も常連さんと仲良くなっており、気前の良いお客さんに奢ってもらう日本酒が大好きだ。
そんな常連さんが来店したのかと思い、入り口に眼をやった紫は意外な人物?を眼にした。
そこには美女が立っていた。店にいる全ての人を虜にしてしまう程の美女だった。
ロングのニットワンピースを着ておりベルトで締めているため、華奢な体躯がより一層強調されていた。しかしながら彼女はスポーツ用のキャップを被っている。
「なんでおおかみさまがここに?それにその格好は……」
「言ったであろう?"視える"とな。これか?汝の衣装棚から勝手に拝借したぞ。ほれ似合うかの?」
おおかみさまは空色の瞳を指差しながら誇らしげに告げる。幸いな事に巫女衣装ではないため耳や尻尾が露になっていない。すごいミスマッチなコーデになっていることだけが玉に瑕だ。
その場でおおかみさまがくるっと回ってみせると店内から歓声が上がった。
「すごいべっぴんさんがきたぞ」
「しかも紫ちゃんの知り合いらしいよ」
「クール系飲んべえ女子とミステリアス系白髪美女……これはてえてえ」
すでにでき上がっている紳士、淑女の方々が四方八方からおおかみさまに黄色い声援を投げ掛ける。当の狼は満更でもなさそうだ。
見えないけど絶対尻尾ブンブン降ってるんだろうなあ。
紫は自身の意識が遠のいていくの感じたが、無理やり引き留めおおかみさまと対峙する。
「そんなことより、鍵ちゃんと閉めてきましたか?昼ご飯もちゃんと食べた?」
「汝は我を何じゃと思っておる?しっかり戸は締めてきたわ。昼餉は汝が隠しておったぷりんも食べておいたぞ。あれは美味であった。危うく我の頬が落ちてしまう所であった」
「えー!?バイト終わりの楽しみで買っておいたのに何で食べちゃうの!」
怒った紫がおおかみさまの頬を引っ張る。一応ちゃんと顔についていたので落ちてはいない様だ。
――もちもちですべすべ……おおかみさまがスキンケアしてるとこ見たことないんだけど。この美肌の秘訣は何なんだろ?
おおかみさまが「不遜じゃ!不遜!」と涙目で抗議しているが、紫は日頃の怨みをここで晴らすつもりでびよーんと引っ張っては戻してを繰り返した。
暫くその姦しい喧嘩を見守っていた店長だったが、痺れを切らして紫にある質問を投げ掛けてくる。
「紫ちゃんその子はお友だち?一緒に住んでるなんて仲良いね」
おおかみさまのほっぺに気をとられていた紫は店長の不意な質問に面食らい考え込む。
僻地の山から勝手についてきた狼の土地神様だなんて言えば確実にアルコールで脳をやられたと思われるだろう。
なら友人と言った場合はどうなるか。おおかみさまが友人……あんまりしっくりこないなあ。どちらかと言うと食い意地のはった金食い虫な気がする。
「紫、汝いま不遜なこと思っておるじゃろ。力を失っておってもその顔を見ておれば分かるぞ」
いまだに頬をびよーんとされていたおおかみさまだったが、紫の手をはたき落として答える。
「異郷の地より『りゅうがく』しに日ノ本にきた空じゃ。紫の家に『ほーむすてい』しておる。人間どもよ、我を崇めよ!そして貢ぎ物を奉納するのじゃ!」
「おおー難しい日本語知っててえらい!お兄さんお姉さんが奢ってあげるから好きな物頼んで良いよ空ちゃん」
「空ちゃん、お姉さんの横空いてるからこっちに座って座って」
おおかみさまが頬を擦りながら事前に考えておいたらしい設定ガバガバな嘘を高らかに述べると、お客さん達が盛り上がっている。
「いらっしゃいま……」
なんとかバイトに間に合った紫がフロアで接客していると来店を知らせる鈴が鳴った。
日本酒居酒屋『水晶』は名を体で表すように日本酒を集めた店で、旅行に行かずともご当地の地酒を楽しめると飲んべえの間で人気を博していた。
大学入学時からここでバイトしている紫も常連さんと仲良くなっており、気前の良いお客さんに奢ってもらう日本酒が大好きだ。
そんな常連さんが来店したのかと思い、入り口に眼をやった紫は意外な人物?を眼にした。
そこには美女が立っていた。店にいる全ての人を虜にしてしまう程の美女だった。
ロングのニットワンピースを着ておりベルトで締めているため、華奢な体躯がより一層強調されていた。しかしながら彼女はスポーツ用のキャップを被っている。
「なんでおおかみさまがここに?それにその格好は……」
「言ったであろう?"視える"とな。これか?汝の衣装棚から勝手に拝借したぞ。ほれ似合うかの?」
おおかみさまは空色の瞳を指差しながら誇らしげに告げる。幸いな事に巫女衣装ではないため耳や尻尾が露になっていない。すごいミスマッチなコーデになっていることだけが玉に瑕だ。
その場でおおかみさまがくるっと回ってみせると店内から歓声が上がった。
「すごいべっぴんさんがきたぞ」
「しかも紫ちゃんの知り合いらしいよ」
「クール系飲んべえ女子とミステリアス系白髪美女……これはてえてえ」
すでにでき上がっている紳士、淑女の方々が四方八方からおおかみさまに黄色い声援を投げ掛ける。当の狼は満更でもなさそうだ。
見えないけど絶対尻尾ブンブン降ってるんだろうなあ。
紫は自身の意識が遠のいていくの感じたが、無理やり引き留めおおかみさまと対峙する。
「そんなことより、鍵ちゃんと閉めてきましたか?昼ご飯もちゃんと食べた?」
「汝は我を何じゃと思っておる?しっかり戸は締めてきたわ。昼餉は汝が隠しておったぷりんも食べておいたぞ。あれは美味であった。危うく我の頬が落ちてしまう所であった」
「えー!?バイト終わりの楽しみで買っておいたのに何で食べちゃうの!」
怒った紫がおおかみさまの頬を引っ張る。一応ちゃんと顔についていたので落ちてはいない様だ。
――もちもちですべすべ……おおかみさまがスキンケアしてるとこ見たことないんだけど。この美肌の秘訣は何なんだろ?
おおかみさまが「不遜じゃ!不遜!」と涙目で抗議しているが、紫は日頃の怨みをここで晴らすつもりでびよーんと引っ張っては戻してを繰り返した。
暫くその姦しい喧嘩を見守っていた店長だったが、痺れを切らして紫にある質問を投げ掛けてくる。
「紫ちゃんその子はお友だち?一緒に住んでるなんて仲良いね」
おおかみさまのほっぺに気をとられていた紫は店長の不意な質問に面食らい考え込む。
僻地の山から勝手についてきた狼の土地神様だなんて言えば確実にアルコールで脳をやられたと思われるだろう。
なら友人と言った場合はどうなるか。おおかみさまが友人……あんまりしっくりこないなあ。どちらかと言うと食い意地のはった金食い虫な気がする。
「紫、汝いま不遜なこと思っておるじゃろ。力を失っておってもその顔を見ておれば分かるぞ」
いまだに頬をびよーんとされていたおおかみさまだったが、紫の手をはたき落として答える。
「異郷の地より『りゅうがく』しに日ノ本にきた空じゃ。紫の家に『ほーむすてい』しておる。人間どもよ、我を崇めよ!そして貢ぎ物を奉納するのじゃ!」
「おおー難しい日本語知っててえらい!お兄さんお姉さんが奢ってあげるから好きな物頼んで良いよ空ちゃん」
「空ちゃん、お姉さんの横空いてるからこっちに座って座って」
おおかみさまが頬を擦りながら事前に考えておいたらしい設定ガバガバな嘘を高らかに述べると、お客さん達が盛り上がっている。
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