海辺の光、時の手前

夢野とわ

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帰り道

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帰り道。僕が、重たい体を引きずって歩いていると、後ろから、勢い良く、広人がやって来た。
「うーす」と、広人が言う。
「めーす」と、僕が言った。
「最近調子はどう?」と、広人が笑って僕に聞いた。
「うん。可もなく不可もなく。マンガ描いてる?」と、僕が逆に聞き返した。
「うーん。俺はまだ量産できないタイプみたい。ちょっと前に描いたやつの手直しをしてる。ホラ、最近ちょっと絵が上手くなったからさ……」と、言って、広人がノートにはみ出して挟まれた、漫画原稿用紙を見せてくれた。
「あっ、本当。前より全然上手い」と、僕が驚いて言った。それは本当だった。後ろ姿と、正面、横顔から見た、女性のデッサンが前よりも、立体感と説得力を持っていた。特に、人物の横顔は難しいはずだ。
「うん。結構研究してね」と、広人が言った。
「ああ、そうなんだ……」と、僕が広人に漫画原稿用紙を返して、言う。
広人と僕は、一緒に坂道を下って行った。
「野球とマンガどっちにするか、決まった?」と、僕が広人に、改めて聞いた。
「うん……。誰にも言っていないけれど、実はマンガ一本にしようかと思って。親にも言っていないし。こういうのって言う必要あるのかな? でも、野球部は、自分の自由な時間が少なくなるからね」と、広人が伸びをして言った。
「良いんじゃない? 別に。俺なんて何も決めてないよ。やりたいこととかないし、探すのも面倒だしね」と、僕が苦笑いをして言った。
「そうだよね」と、思い付いたように、広人が言った。
遠くの方の陽が落ちかかっている。また僕らは歩き出した。
僕らは、汗ばみながら歩く。
急に広人が、思い出したように、口を開いた。
「長谷川さんと仲良い?」と、広人が、真剣な口調で聞いた。
「そうかな」と、僕は茶化して言った。
「仲が良いって、すごく噂になっている」と、広人が、真剣な表情で言った。

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