鬼に成る者

なぁ恋

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おまけ

バレンタイン~まほろば~

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夏木家から程近い場所のコンビニがライの職場。

そこからバス停二つ分先にあるスーパーが俺の職場。裏方の仕事限定で八時から始まる。

人間と同じ様にバスに乗って出勤する。

乗り物は楽しい。

バスが揺れる、その感覚が心地好い。

窓から見える風景が白く霞む。

「雪……か」

空から落ちて来る白い結晶。

綺麗だな。


『―――……町、……町。』


着いた。
いつもの様に小銭を払って降りる。

吐く息が白く顔を撫でた。

「あの……すみません!」

呼び止められ振り向くと、小柄な女性が立っていた。

見覚えのある顔。
いつもバスで会う女性だ。

「はい?」

聞かずとも判ってしまった。流れ来る想いは誤魔化し様がない程に強い。

「あの。あのっ……好きです」

真っ赤に顔を染めた彼女が赤い包みを差し出す。

「すまない。恋人が居るんだ」

「そう。ですよね」

更に頬を赤くさせた女性の目に光るものが見えた。

「好きになってくれて、ありがとう」

「あ……こちらこそ」

彼女は手袋をした手でそっと目を擦り、笑顔を見せた。
 
 
結局赤い包みを受け取ってしまった。

中身が何かと考えていると、おはよう。と同僚が声をかけて来た。

「何だそれ? あっ! そうか。今日は2月14日だ。バレンタインデーか!」

「バレンタインデー?」

何だ知らないのか?! と驚いた同僚が説明してくれた。

女性が好きな男性にチョコを渡し告白する日。
なのだと。

そう言えばチョコレートの搬入がこの所多かったと思い起こす。

「女性だけなのか?」
「いやいや欧米なんかじゃ男性から何かプレゼントするらしいぜ。
花束や貴金属なんかもな」

貴金属。
ライ、以前は“角”を首に下げていた。これはお洒落とは違う意味でだが。

「俺は彼女にリングをプレゼントしたぜ」

左手を俺に見せる。
薬指に光る指輪。

「しかもお揃いだ」

胸を張って自慢気に笑う。

「彼女いんだろ? お前も欧米風に何かしてみるとか。どうよ?」

ライと、お揃い?
 
その響きの良さに何かしてみたくなった。



仕事中も考え過ぎて、人間が一度では持てない量を運んでしまい、皆を驚かせてしまった。
 
 
八時から十時までの短時間バイト。

それを終えると店が開店する。

滅多に店内に入ったりしないんだが、ライへのプレゼントを探す為店内を散策する。

「お? 夏木。まだ帰んないの?」

同僚が声を掛けて来た。
この男は“正社員”と言う役職でレジも打つ。

「プレゼントを……」
「ここでか? シンプルなチョコしかないぞ」

プレゼントは難しい。
 
っと待っててな」

この男と話していると時々疲れる。

少し待つと、紙片を持って来た。

「このリングを買った店だ。地図書いといたからさ。行ってみ? 金持ってるか?」

金。いくらかあるな。

「ありがとう」

礼の言葉を言うと同僚は顔を赤らめた。

「いや。何……気を付けて帰りな」





店を出て、紙片を確認する。

このスーパーから近く歩き出す。
空は曇り、また雪が降りそうだ。

プレゼント。
ライの喜ぶ顔が浮かび、ココロ浮き立つ。

それにしても“告白する日”が決めてあるとは、人間の考える事は面白い。

無造作に、ポケットに突っ込んでいた赤い包みを取り出し開けてみる。

中身はまた一つ一つ丁寧に包んであった。

その一つを開けて口に放る。
仄かに甘い液体が中から出て口内に広がる。

酒か?

その美味しさに笑みが出る。
ライにもやろう。
喜ぶかな?

 
紙片に書かれた地図を辿りビルとビルの間の狭い道に入る。
所狭しと小さな店が並んでいる中、花屋の隣り通路の最奥に目的の店があった。

木枠のドアを開けると、どこか懐かしい匂いが鼻についた。

狭い店内は奥に長細い造りで両壁と真ん中に備え付けられた台に所狭しとアクセサリーがぶら下げてあり、並べられ置いてあった。

近くにあった銀色のリングを見る。
ライの色。そう思っただけで笑みが零れた。

「いらっしゃいませ」

奥のカーテンから顔を覗かせた男が声を掛けて来た。

小さくすべての髪が三つ編みされた髪型。額には大きくバンダナが巻かれてあって、黒い肌をしていた。

日本人ではあるらしい。

「それで。何が欲しいんだい?」

「バレンタインのプレゼントを」

「当日に買いに来たのかい?」

黙って頷くと、

「サイズは判る?」

「サイズ?」

「指のだよ」

言われて首を傾げる。

「じゃあネックレスにする?」


同僚の言った言葉を思い出す。
『左手の薬指にするリングは俺のものって印みたいなもんなんだぜ』

「いや、リングが良い。指は、俺より少し細いくらいかな」

「そりゃ、指の太いお嬢ちゃんなんだな」

「女性じゃない」

男は目を見開いて固まる。驚いたって感じだろうか。

「ま。良いだろう。指出して」

すると、丸いリングが沢山付いたものを出して、俺の指に通して行く。

「あんたが17だから15くらいじゃないかなぁ」

サイズの見方を教えてもらい、ごゆっくり。と男は入り口近くのレジに立った。
 
 
こうして選ぶ喜びがあるとは知らなかった。

バレンタイン。
人間は天才かもしれないな。

感心しながら物色し、一つのリングに目が留まる。

角の様にも風の流れの様にも見える形をしたリング。

風はライの象徴。

「これがいい」

サイズも合っていた。

それを小さな箱に入れ、金色の包みで包装してくれた。

「あんたの瞳と同じ色にしといたよ。良い色のコンタクトだな」

それには笑みで応え、ありがとう。と、店を後にする。

「また来てくれよな!」

振り向いて頷くと、男の頬は赤らんでいた。


花屋が目に入り、立ち留まる。
出入口に小さな花束があった。赤と青と白と水色。それを銀色の包みと金色のリボンでまとめてあった。
それは俺達の色がすべて詰まったもので、感動すら覚えた。

迷わず手に取り店内へ。

短い髪の女性が笑顔で対応してくれた。
花束を渡した時のライの顔を思い浮かべて知らぬ内に笑顔になっていた。

すると、女性が頬を赤らめた。

あぁ、俺が笑うのは“毒”だとライが言った事があったが、異性を魅了しても仕方ない。

否、同性でも同じなのだと同僚と店主の赤らんだ顔を思い出した。

俺が魅了したいのはライだけ。

そして、ライに魅了されているのは俺。



リングの包みを見つめて、また笑みが零れる。

ライは、俺のモノ。


空を見上げると白い雲が青空を隠し、また雪が降り始めた。

バレンタインは愛を告白する日。

愛を告白するのはライにだけ。

降りしきる雪の中、人間に混じって家路に着く。

愛に皆が踊る日。




俺はライだけを愛している。
 
 
 
 
‡END‡

20110219
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
※二人が幸せならそれでいい※
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