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おまけ
鬼は内
しおりを挟む今日は二人共バイトは休み。
だから早朝から出てプラプラ散歩していた。
「鬼は~外。福は~内」
今日は2月3日。
節分の日だ。
偶然通りかかった幼稚園の前、門の外から見える風景は可愛らしいものだった。
鬼に扮した先生が、小さな園児に豆をぶつけられて逃げ回っていた。
年長の子は勇んで豆をぶつけ、年少の子の多くが泣いて縮こまって居た。
「可愛いね」
段ボールで作られた鬼のお面はユニークで可愛い。
それに、毛糸でつけられた髪。赤と青で、まるでボクとまほろば。
「福は~内!」
「鬼は~外!」
子どもの笑い声が一層大きくなって、笑顔が伝染した。
「ふむ。」
まほろばがボクの横で唸る。
見ると、豆が当たってまほろばの赤い髪に絡んで付いてた。
「ふふ。鬼だから豆が寄って来たのかもね」
付いた豆を指で掬い、口にほおる。
まほろばがわざと驚いた顔をした。
「豆、買って帰ろうか?」
鬼の豆まき。
想像して笑えた。
「豆を年の数程食べなきゃいけないんだよ」
「……食べきれない」
そっか。
簡単に計算しても千歳。
「あはは!」
笑いながら歩き出す。
本当に豆を買って帰る。
一袋だけ。
お椀二つに分けて、まほろばをちら見する。
まほろばは知らぬ素振りで昼飯を食べてた。
「まほろばって、節分を知ってた?」
「立春の前日」
ちゃんと暦とかは判ってる。
ゆっくり食べてる横顔をじっと見ると面白げに口端が上向く。
「何がしたいんだ?」
「豆まき」
鬼は外。
福は内。
「俺を追い出したいのか?」
悲しげな顔したまほろばがボクを見上げる。
でも瞳は笑ってる。
「そうだねぇ……ボクの中に棲み着いてる、可愛い赤鬼がね、時々暴れるんだよ」
ぺろっと舌を出す。
「ふぅむ」
と、箸を置いたまほろばが、ゆっくり立ち上がって背伸びをする。
そして、いたずらっ子みたいに目を細めてボクを見つめた。
自分の胸に右手を当てて、
「俺の中に棲む青鬼は、いつも俺を悩ませる」
言いながら背の高いまほろばが頭を下げて台所へ入って来た。
あ……。胸が高鳴る。
金色の瞳が強い光を放つ。
思わず後退り、手に持ってたお椀から豆を掴む。
「鬼は外!」って、まほろばに軽くぶつける。
豆は顔に当たってぽろぽろと下に落ちた。
「俺の中の青鬼は、俺を常に挑発して来る」
舌を長く出して唇を舐めたまほろばが、テーブルに置いてあったお椀から豆を握り取ると、自分の口にほおった。
ガリッと音を立てて噛み砕く。
うわっ……ゾクッと背中から下腹まで快感か走った。
何て、色っぽい顔するんだろう?
いつの間にか壁ぎわに追いやられたボク。
足の間にまほろばの足が差し込まれ、躰を密着させられる。
ゴクッと喉が鳴る。
顔が寄せられて来て、唇が重なった。
開いていた唇を割って、豆が付いた舌が入り込んで来た。
噛み砕かれ粘りけを持った豆が口内に押し込まれる。豆の香ばしい味が広がった。
それを舌と舌で擦られて、正直。驚いた。
「ん……ふうっ!」
塞がれた口から喘ぎ声が漏れて。
気持ち良くて、立ってられなくて、足から力が抜ける。
離れてく唇が名残惜しくて、でも、キッをまほろばをにらむ。
「何っするんだ?!」
「だから、“豆まき”だろう?」
まほろばが親指の腹で自分の唇に付いた豆の残骸を擦り取り、口に含む。
「?!」
それを目にしただけで、自身を舐められたみたいな錯覚を起こし、その場に座り込む。
意地悪だ。
意地悪度が日に日に増してる気がする。
食事が出来る様になったまほろばは無駄に色っぽくて……エロい。
でも、そんなまほろばにボクは―――……。
「鬼は……内だ」
夢中なんだ。
夏木家では“豆まき”とは節分とは違う意味を持つ日となった。
*END*
20110215
 ̄ ̄ ̄ ̄
自分で書いてて満足したの思い出した(笑)
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