鬼に成る者

なぁ恋

文字の大きさ
上 下
203 / 210
継鬼

しおりを挟む
 
*元気side*


柔らかい。
軽くて重い……命の重み。

顔をまじまじと見る。
龍太郎に、髪型とか、目尻とか、似てるな。

おくるみが解けて小さな手が出て来た。

指で触れると、小さな小さな手で指を握られた。

それは、小さい手なのに力強くて驚いた。

桃太郎。
―――宗寿。

じっと見ていると、ゆっくりと、小さな目が開いた。

黄金に光る眼。
樹利亜と……俺に似ている。




―――母様。




そう呼ばれた気がした。

「元気……」

樹利亜の心配げな呼び掛けに、泣いていた事に気付いて。

「いや、大丈夫。
何か、感無量でさ……」

俺の中にある“寿”の想い。
それは小さな小さな欠片となったけれど、確かに残って居て。

涙を手の甲で拭い、

「桃太郎。優しく強い男に育てよ」

笑顔で桃太郎に言うと、まだ見えない筈の両目が煌めいた。

「俺に似た格好いい男になれよ~」

「どちらかと言うと可愛い系になりそうな顔付きだけどねー。虎之介みたいな」

俺の言葉にまるで反対言葉の様に樹利亜が言う。

「ふうぅ~ん。お姉系に?」

「良いかもよ」

って、にっこりな樹利亜。
強い母親になりそうだ。

「誰が“お姉系”ですって?」

背後から聞えた声に振り向く。  
「虎之介!」

満面の笑みをした虎之介が立っていた。
横には目を回した大輝が青い顔をして口元を押えている。

「この人はいつまで経っても“移動”に慣れないのよ」

大輝の背中を擦って笑う虎之介。

「私の甥っ子はお姉系に育ちそうな程可愛いのね?」

「そうだな。そうかも」

虎之介に桃太郎を渡す。
 
 
***


*ライside*


恥ずかしい!

何だか恥ずかしい。
ズンズンと廊下を進む。

あてもなく歩いた。
それでもどこまでも続いてるみたいに長い廊下で、角を曲がると中庭に出た。

窓戸は開いていた。
いつも綺麗にしてある庭。小さくて大きい。丁度良い大きさ。

「中くらいって言うんじゃないか?」

まほろばがもっともな事を言う。

「そうだね」

振り向くと、野性的で魅力たっぷりな笑顔で立って居る。

食事が出来る様になってまほろばは、何て言うか、人間くさくなって来た。

良い意味合いで、だと思う。

「今の俺は嫌いか?」
「好きだよ」

即答出来る。

視線が絡む。
この金に光る眼に見つめられると……どこに居てもまほろばと二人きり。

そんな気になる。


「ライ。愛してる」

優しく囁く愛の言葉に体が震える。

それを解っていて、まほろばはいつも耳元で囁く。

震えるさまが好きなのだと言って。

背後から抱きすくめられて、安堵と快感から深い溜め息を吐く。

「ライ……」

首筋にまほろばの息がかかる。
心地良い快感に震える体を更にキツく抱き締められて、

「あ……」

思わず唇から零れた吐息。それを呑み込む様に唇が重ねられて……ダメだな。
いつも、いつでも、悪い事にどこででも、まほろばを求める事を止める事が、我慢する事が出来ない。

まるで、“まほろば中毒”彼なしではもう息さえする事が出来なくなる。

「すまない。からかい過ぎた」

唇は近いまま、まほろばが謝罪する。

視線は重なって、―――離す事など考えられない―――まほろばの瞳には、ボクしか映ってなくて。
 
 
「まほろばは……欲しいの?」
“赤ちゃん”が?
そんな事をさっき言ったから……。

思わず訊いて居た。
 
が、いつも欲しくて我慢出来ない」

温かい舌で喉元を舐められて、全身が小さく揺れて。

「―――んっ!」

ぞくりと、快感が躰を貫く。

綺麗な庭の小さな密林の中に隠れる様に入り込み、背中を樹に寄せる。

「はぁ……まほろば」

我慢出来なくて、自分から顔を寄せて口付ける。まほろばの頭を抱き寄せ首に腕を回す。


愛してる。

そんな言葉では足りない。
かつえた様に、まほろばを欲する気持ちが無限に沸き起こり、一度火が点くと止まらない。

息が出来ない程のディープキス。

絡む舌は、まるで二人のココロの様に密着して離れない。

躰をまさぐるまほろばの温かい手の平が、触れられた場所から小さな炎が起こる。

互いの荒い息遣いが、互いを求める度合いを高めさせ、興奮が躰を震わせる。




足りない。
いつも何度躰を重ねても、足りない。



まほろばが欲しくて。

まほろばが他の誰かを―――男女問わず―――見るのも耐えられない。

まほろばはボクのものだ。
誰も、触れる事―――見る事も―――許さない。

貪欲になる。
欲しい気持ちが抑えられなくて、自分が醜い怪物に成ってしまいそうな錯覚を起こす。

「ライ……お前を離さない」

「ライ。お前は俺だけのものだ」

「ライ―――……」

何もかも見透かして居るまほろばは、何度も“ライ”と、囁いてくれる。

すると、“醜さ”は、“幸せ”に代わってココロを満たす。
 
 
「まほろば……愛してる」

結局はそれが真実。

まほろばに対して、愛と独占欲と、真摯で醜い気持ちが混雑した自分が居て、
それは人間くさくて、案外と今の自分が好きだ。

時折、まほろばからも同じ視線を感じる。
同じ想いにココロ騒がせ、優しく、険しい目付きになる。

今は?

重ねた唇に密着した躰。

まほろばの匂い。
まほろばの味。
まほろばの躰、その硬さ。

「ライ。愛してる」

まほろばの声。
まほろばの視線。

離れた唇は、濡れて……情熱に燻る瞳は濃い金色に光って居る。
赤い長髪は整った顔を縁取り、額の白い二本角は美しいカーブを描いて空を差して居た。


こんなに美しい人をボクは手に入れた。







*まほろばside*


ライ。
ライ……。

何度この腕に抱いても足りない。
愛を言葉にしても、それ全てを表現出来ない。

唇を離す。
ライの興奮で赤らんだ頬が、苦しげに息をするさまが、俺を映す銀色の瞳が、
柔らかく青い短髪が、額から白く伸びた一本角が、


ライを形作る全てが、愛しくて。


「まほろば……愛してる」

震える声が、それでもはっきりと愛を告げる。


「ライ。愛している」


互いを想い合う。
それは奇跡。

愛は未来へ続くもの。


俺達に子どもは生まれはしないが、
桃太郎の様に“継ぐ者”が生まれ来る。

それは順繰り巡り巡る。

その見えない輪の中に、ライと俺も確かに存在していて……。


「赤ちゃん。
桃太郎。抱っこしに行こうかな」

腕に抱き締めて居たライが身動ぎ呟く。

「あの未来を運んで来た赤ちゃん、桃太郎を、無償に抱っこしたくなった」

その瞳は優しさで煌めいていた。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...