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継鬼
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しおりを挟む*元気side*
柔らかい。
軽くて重い……命の重み。
顔をまじまじと見る。
龍太郎に、髪型とか、目尻とか、似てるな。
おくるみが解けて小さな手が出て来た。
指で触れると、小さな小さな手で指を握られた。
それは、小さい手なのに力強くて驚いた。
桃太郎。
―――宗寿。
じっと見ていると、ゆっくりと、小さな目が開いた。
黄金に光る眼。
樹利亜と……俺に似ている。
―――母様。
そう呼ばれた気がした。
「元気……」
樹利亜の心配げな呼び掛けに、泣いていた事に気付いて。
「いや、大丈夫。
何か、感無量でさ……」
俺の中にある“寿”の想い。
それは小さな小さな欠片となったけれど、確かに残って居て。
涙を手の甲で拭い、
「桃太郎。優しく強い男に育てよ」
笑顔で桃太郎に言うと、まだ見えない筈の両目が煌めいた。
「俺に似た格好いい男になれよ~」
「どちらかと言うと可愛い系になりそうな顔付きだけどねー。虎之介みたいな」
俺の言葉にまるで反対言葉の様に樹利亜が言う。
「ふうぅ~ん。お姉系に?」
「良いかもよ」
って、にっこりな樹利亜。
強い母親になりそうだ。
「誰が“お姉系”ですって?」
背後から聞えた声に振り向く。
「虎之介!」
満面の笑みをした虎之介が立っていた。
横には目を回した大輝が青い顔をして口元を押えている。
「この人はいつまで経っても“移動”に慣れないのよ」
大輝の背中を擦って笑う虎之介。
「私の甥っ子はお姉系に育ちそうな程可愛いのね?」
「そうだな。そうかも」
虎之介に桃太郎を渡す。
***
*ライside*
恥ずかしい!
何だか恥ずかしい。
ズンズンと廊下を進む。
あてもなく歩いた。
それでもどこまでも続いてるみたいに長い廊下で、角を曲がると中庭に出た。
窓戸は開いていた。
いつも綺麗にしてある庭。小さくて大きい。丁度良い大きさ。
「中くらいって言うんじゃないか?」
まほろばがもっともな事を言う。
「そうだね」
振り向くと、野性的で魅力たっぷりな笑顔で立って居る。
食事が出来る様になってまほろばは、何て言うか、人間くさくなって来た。
良い意味合いで、だと思う。
「今の俺は嫌いか?」
「好きだよ」
即答出来る。
視線が絡む。
この金に光る眼に見つめられると……どこに居てもまほろばと二人きり。
そんな気になる。
「ライ。愛してる」
優しく囁く愛の言葉に体が震える。
それを解っていて、まほろばはいつも耳元で囁く。
震える様が好きなのだと言って。
背後から抱きすくめられて、安堵と快感から深い溜め息を吐く。
「ライ……」
首筋にまほろばの息がかかる。
心地良い快感に震える体を更にキツく抱き締められて、
「あ……」
思わず唇から零れた吐息。それを呑み込む様に唇が重ねられて……ダメだな。
いつも、いつでも、悪い事にどこででも、まほろばを求める事を止める事が、我慢する事が出来ない。
まるで、“まほろば中毒”彼なしではもう息さえする事が出来なくなる。
「すまない。からかい過ぎた」
唇は近いまま、まほろばが謝罪する。
視線は重なって、―――離す事など考えられない―――まほろばの瞳には、ボクしか映ってなくて。
「まほろばは……欲しいの?」
“赤ちゃん”が?
そんな事をさっき言ったから……。
思わず訊いて居た。
「ライのすべてが、いつも欲しくて我慢出来ない」
温かい舌で喉元を舐められて、全身が小さく揺れて。
「―――んっ!」
ぞくりと、快感が躰を貫く。
綺麗な庭の小さな密林の中に隠れる様に入り込み、背中を樹に寄せる。
「はぁ……まほろば」
我慢出来なくて、自分から顔を寄せて口付ける。まほろばの頭を抱き寄せ首に腕を回す。
愛してる。
そんな言葉では足りない。
飢えた様に、まほろばを欲する気持ちが無限に沸き起こり、一度火が点くと止まらない。
息が出来ない程のディープキス。
絡む舌は、まるで二人のココロの様に密着して離れない。
躰をまさぐるまほろばの温かい手の平が、触れられた場所から小さな炎が起こる。
互いの荒い息遣いが、互いを求める度合いを高めさせ、興奮が躰を震わせる。
足りない。
いつも何度躰を重ねても、足りない。
まほろばが欲しくて。
まほろばが他の誰かを―――男女問わず―――見るのも耐えられない。
まほろばはボクのものだ。
誰も、触れる事―――見る事も―――許さない。
貪欲になる。
欲しい気持ちが抑えられなくて、自分が醜い怪物に成ってしまいそうな錯覚を起こす。
「ライ……お前を離さない」
「ライ。お前は俺だけのものだ」
「ライ―――……」
何もかも見透かして居るまほろばは、何度も“ライ”と、囁いてくれる。
すると、“醜さ”は、“幸せ”に代わってココロを満たす。
「まほろば……愛してる」
結局はそれが真実。
まほろばに対して、愛と独占欲と、真摯で醜い気持ちが混雑した自分が居て、
それは人間くさくて、案外と今の自分が好きだ。
時折、まほろばからも同じ視線を感じる。
同じ想いにココロ騒がせ、優しく、険しい目付きになる。
今は?
重ねた唇に密着した躰。
まほろばの匂い。
まほろばの味。
まほろばの躰、その硬さ。
「ライ。愛してる」
まほろばの声。
まほろばの視線。
離れた唇は、濡れて……情熱に燻る瞳は濃い金色に光って居る。
赤い長髪は整った顔を縁取り、額の白い二本角は美しいカーブを描いて空を差して居た。
こんなに美しい人をボクは手に入れた。
:
:
:
:
*まほろばside*
ライ。
ライ……。
何度この腕に抱いても足りない。
愛を言葉にしても、それ全てを表現出来ない。
唇を離す。
ライの興奮で赤らんだ頬が、苦しげに息をする様が、俺を映す銀色の瞳が、
柔らかく青い短髪が、額から白く伸びた一本角が、
ライを形作る全てが、愛しくて。
「まほろば……愛してる」
震える声が、それでもはっきりと愛を告げる。
「ライ。愛している」
互いを想い合う。
それは奇跡。
愛は未来へ続くもの。
俺達に子どもは生まれはしないが、
桃太郎の様に“継ぐ者”が生まれ来る。
それは順繰り巡り巡る。
その見えない輪の中に、ライと俺も確かに存在していて……。
「赤ちゃん。
桃太郎。抱っこしに行こうかな」
腕に抱き締めて居たライが身動ぎ呟く。
「あの未来を運んで来た赤ちゃん、桃太郎を、無償に抱っこしたくなった」
その瞳は優しさで煌めいていた。
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