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地獄鬼
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*千里眼地獄視点*
暗い空、岩の転がる大地。赤いマグマが歌う山が四方を囲む灼熱の世界。
ここは鬼の棲む地獄。
一度は地上で生活する事を経験した鬼達は弱く、地獄の生活の厳しさを生きては行けずに多くが死んで行った。
その中で、強い鬼に命乞いをした者が居た。
その者は“癒し”の代価に人間を喰うと寿命が延びる事を知恵付けた。
だが、地上に出る事はすなわち、死を意味する。
鬼しか居ないこの世界で、最初の鬼が仲間の能力を吸収する事を思い立ってからそれは始まる。
退屈していた。
鬼達は退屈していたのだ。
それから、帰郷し弱った鬼達を強い者達が乱獲し始めた。地上の悲劇の再来。
それ以上にヒドい、共食いの連鎖の始まり。
感情の乏しかった鬼は、能力を、その血肉、魂を吸収する事で“感情”が芽生え始めた。
貪欲で、卑劣。
“負”の感情。
その連鎖は現在も続いて居て、地上に興味を持つ者が何人か現れる。
“出入口”は封印されて居た。
地上と地獄の両方の血を継ぐ者が封印した。
だから地獄の鬼が封印を解く事は叶わず、燻る欲望は絶えず入口の隙間から零れ出て、少しずつ隙間は口を大きくして行った。
そしてそこから不穏な空気を感じた時、
隙間から“能力と意識”を近くに居た“媒体”へ忍ばせた金と銀の鬼が初めて地上へ出た。
そこには偶然にも生粋の鬼、仲間が居たのだ。
長い年月を地上で生きて来た仲間に金と銀の鬼は興味惹かれた。
眼下に飛び込んで来た。
暗闇になびく赤い長髪に、輝く二本角。
その薄い金の瞳を認めた時、
それが欲しいとココロ疼いた。
初めての感情。
初めての欲望。
己の欲するままに、手を伸ばしていた。
それなのに、
邪魔をされた。
銀の鬼が、
赤鬼を離さず。
赤鬼も銀の鬼から離れ様とはしなかった。
ココロが黒く渦巻く。
これは何だろう?
この気持ちは?
煮えたぎる。
暗く黒い想い。
赤鬼は、自ら私の“血”を拒否し、
血の宿る腕を要らぬものとしてもぎ取った。
それは美しい光景。
体が崩れる。
媒体は弱く時間がなかった。
あの赤鬼が欲しい。
ばらける肉片と意識。
赤鬼の一部を、持ち帰る。
この想いは強く、
それは力に成った。
造る能力。
赤鬼の左腕、肉片を生やす。
赤鬼を造る。
伸びる肢体。
流れる赤い髪。
白く光る二本角。
宿る魂のない、
美しい躰。
触れるも、力ない躰は、
ただ横になって居る。
意思の無い躰。
薄く開いた眼に力無く、物足りない。
あの力の籠った眼光を味わいたくて、
能力を限界まで出す。
魂を呼ぶ。
金と銀の能力で、生きて居る者の魂を呼ぶ。
それは道理を無視する事。
時間が歪み、
大地が歪み、
空が歪む。
それでも手に入れたいと想ったのだ。
理等、どうでも良い。
その瞳が動き、光を灯す。
あの美しい光が見れる……。
見開いた光る眼が、禍々しく赤く、金に光り、起き上がった赤鬼が咆哮する。
角が曲り捩じれ伸びる。光る眼は右が赤、左が金。
本体の清さは無く、悲痛な魂の叫び声が、木霊する。
「「名は何と言う?」」
銀の鬼が呼んで居た名は……、
「「まほろば」」
まほろば。……理想郷。
「「何故泣いて居る?」」
流れる涙は美しく、
「「……見つからない……」」
牙の生えた口から零れ出る言葉。
「「何が?」」
訊いてみるが、答えは解っている。
「「―――ライ」」
ライとは、銀の鬼の事だろう。
その瞳に映るのは、やはりあの銀の鬼。
だが、私が造ったお前は、私のモノ。
私のモノだ。
創造主で使役者。
金と銀の鬼である、晶嶺。
私のモノだ。
泣き続けるまほろばに触れる。
この者が居るだけで私のココロは、乾いた大地に一滴の水が落ちて来た様に潤った。
この者が泣こうがわめこうが、手放すつもりはない。
その肌へ手を滑らせ、感触を味わう。
張りのある素肌。
筋肉は程良く、同性である私から見ても羨ましく。
この者を手に入れた満足で笑みが零れる。
銀である私が、金の鬼を喰って能力を奪った時よりも、
この赤鬼を手に入れた時の方が満足で体中が喜びに震えた。
顎に手を置くと顔を上向かせる。
本体を最初に見た衝動よりも、この者の左右別色の瞳の方が、哀しみを宿す色を湛えた瞳を持つこの者の方が、
遥かに美しい。
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