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地獄鬼
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しおりを挟むライと道彩が地獄の入口を開けた時の事を思い出す。
「恐らく内側から開いたんだ」
まほろばの言葉が事実ならば、何がこの地に現れたんだ?
「鬼」
拳を握るまほろばが吐き捨てる様に言う。
「鬼って?」
「道彩の所の地獄の入口、そこから力有る鬼が出現した。その部類だと感じる」
「まほろばの腕を持って行った奴?
生粋の鬼が?
あそこはライと道彩で封印した筈だろう?
そこから出て来ったてのか?」
あの洞窟から?
「だが、感じるだろう?」
この土地の“地獄の入口”は、あの場所しかないし、方向的にはそこからだと確信がある。
「確かに。なら、“千里眼”で視てみるまでだ」
「頼む」
まほろばが頭を下げる。それは苦痛を伴った一言で、横に眠るライも只事ではない雰囲気だ。
まほろばの感じてる通り、弱ってるのは、見るだけで判る。
小さく息を吐き、
意識を集中させる。ライを通して視るのが得策だろうと、その体に手を置く。
流れ来る気配。
禍々しい鬼気。
視る眼が、それを感知する。
*
洞窟は、大きく口を開いていた。
そこに視えたのは、赤い髪。長く捩じれた二本角。
その容姿は、まほろばそのもの。
ただ違うのは、肌の色が朱色。
全体が真っ赤で、その鬼気は悪意に満ちている。
「「ライ―――」」
確かに、そう呟いた。
*
瞬時に千里眼を離す。直感的に危険を感じた。
いや、纏う鬼気からその禍々しさを体感した。
それに、あの姿は、
「まほろば。ライが衰弱する理由が解った気がする」
あれは、あの姿はまほろばそのもの。
「市松に避難した方が良い」
あそこの護りなら、或いは時間稼ぎが出来るかもしれない。
****
*樹利亜side*
「元気も気付いたの?」
樹利亜が俺達の姿を見て溜め息を吐く。
「まさか! 千里眼使ったんじゃないよな?」
樹利亜が頭を振る。
「しないわよ。私に何かあったらこの子に影響するもの」
と、腹を撫でる。
「“鬼”なら気付いた筈だ。能力者の兄弟も集まって来た」
樹利亜の肩を撫で、守る様に抱き寄せた龍太郎が尋ねる様にこちらを見る。
「ライは、どうした?」
まほろばが大事に抱えて来て、未だに抱いたまま座っていた。
「弱ってるんだ。
この鬼気の原因が理由だ」
市松に集まった面々を見遣る。
龍太郎の兄達に、樹利亜、まほろばにライ。
「皆が感じた通り、鬼が現れた。
あの洞窟に在る“地獄の入口”の内側から」
ざわつく。
これまでに無い自体だし、考えもつかない事だから。
「生粋の鬼は、まほろば以外にもまだ存在しているのか?」
龍太郎の問いにまほろばが頷く。
「地獄へ帰っただけだから、そこで存在はして居ただろう。
道彩の所で、実際に奴等に触れた。
奴は、鬼と言うよりは、“朱色の鬼”」
*
*まほろばside*
朱色の鬼。
金と銀の力を合わせ持った奴は、共食いした。と、迷いなく言った。
そうして力を得たと。
「元気。ライの衰弱は現れた鬼が理由と言ったな? 意味を教えてくれ」
元気は一度唇を噛み、話出す。
「まほろばだよ。
現れた鬼は、まほろばと同じ顔。
違いは、肌の色が赤、全身が朱色なんだ。
赤い長髪。捩じれて長い二本角。
そして何より問題なのは、奴は“ライ”と言った」
元気の語った事は、予想外で、声も出なかった。
いや、ライが“まほろば”と呼んだ時に嫌な予感はしていた。
「兄弟とか?」
樹利亜の問い掛けに、首を振る。
「そう言った概念はない。居たとしても、もう相応の歳だ。
見た目が俺と似て居るなら、それはない。」
「なら、子孫じゃないか?」
龍太郎の問いにも首を振る。
「地獄で子を成した事はない。
それに、ライと呼んだのが気になる。
ライも、“まほろば”と呼んだんだ。
俺じゃない、違う誰かを呼んでいた」
それに、と元気が曇った顔で、
「その鬼には、禍々しさしか感じなかった。
だからここへ来たんだ。“護り”に入らないと危険だと判断した」
「それを感じたからこそ皆無意識に市松へ集まったんだろうな」
龍太郎が呟く。
「何が起こるか判らない。ライを目的として現れた、それだけは判ったんだけど」
元気が溜め息を吐く。
「まほろば……」
ライが俺の左腕を擦る。
「目覚めたのか?」
腕の中のライが震えていた。
「まほろば。ごめん……ごめん……あんな約束させて、独り待たせて。
ボクは、憎まれて当然だ。
まほろばが、朱色の鬼に成ったとしても……仕方ないって、」
銀の瞳が潤んで、涙が零れる。
「ライ?」
流れる涙を手の平で擦る。
「ライ」
優しく名を呼ぶと、瞳を瞬いたライが俺を見た。
「まほろば?」
起き上がり、俺を見る。
見て、震える手で確かめる様に俺の頬を撫でた。
撫でて、溜め息を吐き、
見開いた瞳から零れる涙が止らない。
「まほろば……まほろば―――」
揺らいだ瞳から意識が飛ぶのが判った。
意識が、飛んだ。
俺の所へ。
気付いた。
ライは、呼ばれてる。
魂が、惹かれているんだ。
俺に。
もう一人の俺に―――。
「もう一人の“まほろば”」
独りごち、
眠る様に意識を失ったライを抱き締める。
「まほろば……」
樹利亜が心配げに俺の名を呼ぶ。
俺の名は、俺だけのものだ。
「こちらへ」
龍太郎の長の兄、随喜の言われるまま立ち上がると、腕の中のライの手が力なく下に落ちる。
「クソっ!」
怒りがココロを焦がす。
ライを苦しめるものは、誰であれ許せない。
俺は、俺を許さない!!
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