鬼に成る者

なぁ恋

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地獄鬼

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ライと道彩が地獄の入口を開けた時の事を思い出す。
    
「恐らくから開いたんだ」

まほろばの言葉が事実ならば、何がこの地に現れたんだ?

「鬼」

拳を握るまほろばが吐き捨てる様に言う。

「鬼って?」

「道彩の所の地獄の入口、そこから力有る鬼が出現した。その部類だと感じる」

「まほろばの腕を持って行った奴?
生粋の鬼が?
あそこはライと道彩で封印した筈だろう?
そこから出て来ったてのか?」

あの洞窟から?

「だが、感じるだろう?」

この土地の“地獄の入口”は、あの場所しかないし、方向的にはそこからだと確信がある。

「確かに。なら、“千里眼”で視てみるまでだ」

「頼む」

まほろばが頭を下げる。それは苦痛を伴った一言で、横に眠るライも只事ではない雰囲気だ。
まほろばの感じてる通り、弱ってるのは、見るだけで判る。


小さく息を吐き、
意識を集中させる。ライを通して視るのが得策だろうと、その体に手を置く。

流れ来る気配。

禍々しい鬼気。

視る眼が、それを感知する。












洞窟は、大きく口を開いていた。
そこに視えたのは、赤い髪。長く捩じれた二本角。
その容姿は、まほろばそのもの。
ただ違うのは、肌の色が朱色。

全体が真っ赤で、その鬼気は悪意に満ちている。

「「ライ―――」」


確かに、そう呟いた。
 
  







瞬時に千里眼を離す。直感的に危険を感じた。
いや、纏う鬼気からその禍々しさを体感した。

それに、あの姿は、

「まほろば。ライが衰弱する理由が解った気がする」

あれは、あの姿はまほろばそのもの。

「市松に避難した方が良い」

あそこの護りなら、或いは時間稼ぎが出来るかもしれない。



****


*樹利亜side*


「元気も気付いたの?」

樹利亜が俺達の姿を見て溜め息を吐く。

「まさか! 千里眼使ったんじゃないよな?」

樹利亜が頭を振る。

「しないわよ。私に何かあったらこの子に影響するもの」

と、腹を撫でる。

「“鬼”なら気付いた筈だ。能力者の兄弟も集まって来た」

樹利亜の肩を撫で、守る様に抱き寄せた龍太郎が尋ねる様にこちらを見る。

「ライは、どうした?」

まほろばが大事に抱えて来て、未だに抱いたまま座っていた。

「弱ってるんだ。
この鬼気の原因が理由だ」

市松に集まった面々を見遣る。
龍太郎の兄達に、樹利亜、まほろばにライ。

「皆が感じた通り、鬼が現れた。
あの洞窟に在る“地獄の入口”の内側から」

ざわつく。
これまでに無い自体だし、考えもつかない事だから。

「生粋の鬼は、まほろば以外にもまだ存在しているのか?」

龍太郎の問いにまほろばが頷く。

「地獄へ帰っただけだから、そこで存在はして居ただろう。
道彩の所で、実際に奴等に触れた。
奴は、鬼と言うよりは、“朱色の鬼”」
 
* 



*まほろばside*


朱色の鬼。

金と銀の力を合わせ持った奴は、共食いした。と、迷いなく言った。
そうして力を得たと。

「元気。ライの衰弱は現れた鬼が理由と言ったな? 意味を教えてくれ」

元気は一度唇を噛み、話出す。

「まほろばだよ。
現れた鬼は、まほろばと同じ顔。
違いは、肌の色が赤、全身が朱色なんだ。
赤い長髪。捩じれて長い二本角。
そして何より問題なのは、奴は“ライ”と言った」

元気の語った事は、予想外で、声も出なかった。

いや、ライが“まほろば”と呼んだ時に嫌な予感はしていた。

「兄弟とか?」

樹利亜の問い掛けに、首を振る。

「そう言った概念はない。居たとしても、もう相応の歳だ。
見た目が俺と似て居るなら、それはない。」

「なら、子孫じゃないか?」

龍太郎の問いにも首を振る。

「地獄で子を成した事はない。
それに、ライと呼んだのが気になる。
ライも、“まほろば”と呼んだんだ。
俺じゃない、違う誰かを呼んでいた」

それに、と元気が曇った顔で、

「その鬼には、禍々しさしか感じなかった。
だからここへ来たんだ。“護り”に入らないと危険だと判断した」

「それを感じたからこそ皆無意識に市松へ集まったんだろうな」
龍太郎が呟く。

「何が起こるか判らない。ライを目的として現れた、それだけは判ったんだけど」
元気が溜め息を吐く。


「まほろば……」


ライが俺の左腕を擦る。

「目覚めたのか?」
 
 
腕の中のライが震えていた。

「まほろば。ごめん……ごめん……あんな約束させて、独り待たせて。
ボクは、憎まれて当然だ。
まほろばが、朱色の鬼に成ったとしても……仕方ないって、」

銀の瞳が潤んで、涙が零れる。

「ライ?」

流れる涙を手の平で擦る。

「ライ」

優しく名を呼ぶと、瞳を瞬いたライが俺を見た。

「まほろば?」
      
起き上がり、見る。
見て、震える手で確かめる様に俺の頬を撫でた。
撫でて、溜め息を吐き、
見開いた瞳から零れる涙が止らない。

「まほろば……まほろば―――」

揺らいだ瞳から意識が飛ぶのが判った。


へ。

気付いた。

ライは、呼ばれてる。
魂が、惹かれているんだ。

に。
もう一人の俺に―――。

 
 
 
 
 
「もう一人の“まほろば”」
独りごち、
眠る様に意識を失ったライを抱き締める。


「まほろば……」

樹利亜が心配げに俺の名を呼ぶ。

だ。

「こちらへ」

龍太郎の長の兄、随喜ずいきの言われるまま立ち上がると、腕の中のライの手が力なく下に落ちる。

「クソっ!」

怒りがココロを焦がす。

ライを苦しめるものは、誰であれ許せない。

俺は、を許さない!!

 
 



 
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