鬼に成る者

なぁ恋

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影鬼

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流れて来る記憶の断片。
影踏み鬼。

恐怖が自身を殺す。


「「影は、鬼。鬼は。鬼は……」」

少年の名は裕理。
影鬼も。

「鬼は裕理。貴方自身よ」

歪んだ影の顔。

「「鬼は、鬼は、影。影が鬼」」

混乱しているのが解る。

何度も繰り返す言葉が、自分が何者なのかと考えていた。

本体を目覚めさせなければ、弱った体が死に誘われてしまう。


聞こえる。床に倒れたままの元気が、小さく繰り返す言葉。

隠れなきゃ。
怖いよ。
助けて!


痛い程に伝わる思い。
闇に取り込まれた当初は、私の意識は薄く、殆どが母の目を通しての記憶。
それを、裕理の言霊で思い出した。
元気は、数ヶ月思考を遮断していた。
父達の遺体を見つけ、美夜子さんが元気を救い出すまでに戻った意識はすぐに夢の中に。

私は元気の夢へ度々潜った。あの状況下でそれが出来る事を不思議とも思わなかったし、兎に角、元気を救いたかった。

なだめ、
話し掛け、

それでも戻らない元気の思考。気付いた。母の糸は元気の奥深いココロの中にまで差し込まれていた。
元気を助けたくて私がした事は、鬼に成る事。
母の糸を抜く。それは指に留まり、完全に取る事は出来なかったけれど、ココロに開いた穴には私の糸を刺した。
元気を救いたい一心で。
彼を巣くう闇を少しでも遠のかせたくて。

そうして私も元気と繋がる事で救われた。

朱色の鬼に変化せずにすんだ。

元気との繋がりがある事で、母の傍らでも不思議と安らいでいた。

守りたい?

母は何から私を守りたかったのか?


私の言霊に、影鬼。朱色の鬼は混乱から抜け出せずにいた。
生命維持装置の音は乱れ、その命が危ない事を物語る。
特に生きる事に貪欲な朱色の鬼が次に何をするか想像は出来ない。





 
 
*裕理side*

話し声がする。
ぼくの声? なのに違って聞こえる。
それに、お姉ちゃん?

「「鬼。鬼。」」

ぼくが言ってる。
このお姉ちゃんも鬼。
お姉ちゃん?
もしかして圭子ちゃんなの?
ぼくと代わる為に、姿を現したの?
息が苦しい。
ぼくは生きて居るの?
体の自由がきかない。

目覚めたら、影に成っているのかな?

怖い。
怖いよ。

助けてよぉ!




「「助けて? 助けて。助けて―――」」

床に転がる鬼だと言った男の人が目に入る。

身動き出来ないのに何故か見える。

、考えてる。


圭子ちゃんが怖い。また影を踏まれる前に―――「「鬼が、来るよ。鬼が、また掴まるよ。鬼を倒さなくちゃ。」」

怖い?
鬼が、鬼を怖がってる。この鬼は強い。

「「掴まる前に、倒さないと」」

の耳元でささやくだけで良い。

が震えて起き上がる。
「俺は……死にたくない」

が、圭子ちゃんに向かって飛び掛かった―――。

「元気っ!」

圭子ちゃんが倒される。

ぼくは死にたくない。
死にたくないんだ!







*樹利亜side*

朱色の鬼が、言霊で元気にささやいた。
私が元気を掴まえる。と。
起き上がった元気が私を凝視した。
同じ色の瞳が光る。次の瞬間、私に飛び掛かって来た。

「元気!」

思い出すのは母を壊した元気の能力。
内側から壊した。


「元気っ! ダメ!」

ダメ。
私のお腹には―――。

 
 
  


体の変化に気付いたのは一週間前。
イライラし腹部に感じる違和感。

まさかと思った。
母に取り込まれる前、初潮が始まったばかりで、それから長い年月、体の機能は眠って居る状態で、元気から出てからも全くなかった。

出来る筈がない。と、思い込んでいた。


でも、検査薬はすぐに結果を知らせた。

妊娠。

普通なら嬉しくてならないだろう。
でも、私は、私だから悩んだ。

を持った自分に果して子どもを育てる事が出来るのか?


不安で、母を思い出して、ココロが辛くて。




なのに、実際、危機にひんした時、真っ先に思ったのは、赤ちゃんの事。

元気に飛び掛かられ、倒された。
床に打ち付けられた背中に痛み。体を丸める。

ダメ。嫌よ!
元気。目を覚まして!

誰に願っているのか判らない。

でも、ココロから叫ぶ。―――助けて!



体が熱くなる。
意識が朦朧として、落ちる。落ちる。


そして聞こえて来たのは『父様』懐かしい、暖かな声。

『父様』

私の内から聞こえて来た声。

“父様”は“春”。

その声は―――。

「宗寿」

元気の、寿の子ども。

お腹から熱く、優しい光りが身体を包んで行く。
その光りは私に覆いかぶさる元気をも包み、声が聞こえる。

『母様』

元気が震える。
恐怖が浮かんでいた瞳が、正気を取り戻して行く。

「だ……れ?」
元気が呟く様に訊く。

『また、逢いに来たよ』

確かにはっきりと聞こえる。
それは、私の腹部から。

逢いに来た?
 
 
 
 
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