鬼に成る者

なぁ恋

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影鬼

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ぼくは圭子ちゃんを忘れて居た。圭子ちゃんの存在自体を無いものにしてしまって居た。
生きて居た事も、死んでしまった事も。
ぼくの中で圭子ちゃんはすっかり居なくなっていた。

空白の期間は一週間程度と生活に支障はなかった。けれど、ぼくが記憶を失くした事を心配した母さんが環境を変える為に引っ越した。
それが六年後、学校の帰り道で自転車が前を横切った時、全てを思い出した。

伸びた影が赤い血の上に重なる。
圭子ちゃんの光の消えた目に、ぼくが映り込んで居た。

鬼は誰?

影踏み鬼。
影を踏まれた者は“鬼”に成る。

鬼に成ったのは、
ぼくの影?

怖くなって走って逃げた。“影”が追い掛けて来るから。

走って走って。
走っても影が着いて来る!

部屋に駆け込んで、窓を塞ぐ。光りを全てなくして布団をかぶる。

“影”は“鬼”

“光”は“恐怖”


足が痛い。
手を当てるとぬるりとする感触。

鉄のニオイ。
血のニオイ。


鬼が……圭子ちゃんが爪を立てた。
ここに居るって、知らしめた!

ぼくが忘れてた事を怒ってる。
圭子ちゃんはぼくの代わりに死んだから、今度はぼくの代わりに生きたいって言ってるのかもしれない。

圭子ちゃんがぼくに、ぼくが影に。

嫌だ。
嫌だ!

死にたくないよ!
怖いよ!

助けて。
誰か……誰かっ!




母さんがまたぼくを心配して連れ出そうとした。それは当り前の感情。
親なら子どもを心配する。

でも!
ダメ!

影には鬼が居るから、ぼくは、殺される!!

………………………
****  





*元気side*

光りに投げ出された瞬間。鈍い痛み。
身体中を切り刻まれていた。

それは、何に?

裕理の目を通して視えたのは、裕理本人。

千里眼を解くと、変わらない闇の中へ戻る。

変わらない?
裕理に強い鬼気がまとわりついて居る。
それは、最初に視た白い靄の様な人影。
それが横たわる裕理の上に立っていた。

しっかりとした人型。

さらに視ると、その顔は裕理。ただ、本体との違いは、小さな子どもの姿。

“影”は裕理。
裕理本人が“鬼”

裕理のココロに巣くった闇が、思い出した事で目を覚ました。

“圭子ちゃん”は関係ない。
彼自身が朱色の鬼に。正確には、裕理の影に鬼気が宿った。


「裕理?」
呼ぶと、影がこちらを見る。

「「お前は、誰か?」」
朱色の鬼特有のにじんだ声。

「鬼だ」
「「“鬼”?」」

白く闇に浮かぶ小さな影が、俺を見るから、鬼気を開放する。

髪が揺れる炎の様に暗闇に揺れて、眼球が熱く燃ゆる。

「「鬼……鬼……」」
鷹揚のない声は、影ではなく、酸素マスクをされた本体の口から零れ出ていた。

朱色の鬼は本来他者を傷付ける。裕理は、自覚せず自身を殺そうとしていた。
目の前で自分の代わりに亡くなった女の子に対しての懺悔の気持ちが、ココロを押し潰した。
結果、逃げたい気持ちと問題を起こした“影踏み鬼”の影響から“影鬼”を生み出した。

意識せず自らを死に追いやろうとしている。

こんな複雑な朱色の鬼は、初めてだ。
 
 
影鬼がこちらを見ている。
複雑に絡んだ影と本体。
別物に見えて、それは同一。

「「鬼……鬼は、外。福……福は」」

朱色の鬼がつぶやく。
“忌み”があって“意味”のない言葉。

周囲に広がる違和感が体を取り囲み、
暗い暗い闇が広がる。
まとわりつく闇。


ふと、思い出す。
自分の過去を。俺も、闇に囚われ恐ろしかった。

“影鬼”は恐れているものを増幅させる能力があるのか。



「「隠れないと?
隠れて隠れて隠れて」」

暗闇が取り囲む。
始めから室内は暗かった。
だが、この闇には覚えがある。
隠れて居た。10歳の頃の、恐怖が、顔を覗かせる。

「「もういいかぁ~……いー……」」

朱色の鬼の嘲る声が耳に届くが、その姿は見えない。

暗い闇が口を開いた。
平衡感覚が失われる。

意識が引っ張られる。
あの時の、自分に―――。

『助けて。助けて―――!!』

怖さに閉じ込めた記憶。
その恐怖。
あの時の恐怖は、ココロに根付いた癌みたいなもので、少しのきっかけで大きくなる。

「「鬼はどこ?」」
にじんだ声が笑う。

声だけが木霊する暗闇が、俺を呑み込んで行った。


 

*樹利亜side*


「元気?」

元気の“鬼気”が一瞬大きくなって、小さくなった。

不安になる。
元気との“繋がり”はまだ細く残っていて、穏やかな時は殆どそれも感じられなかった。

それが、伝わって来た“鬼気”の強弱。
私のなど一瞬で吹き飛んで、立ち上がる。

元気のところへ行かなくてはならない!!
 
 
 
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