鬼に成る者

なぁ恋

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夢乱鬼

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****


*?side*


「上弦」
愛しい人の名前を呼ぶと、その美しい肢体を動かしこちらを向く。

長いストレートの金髪は胸まで伸び、その膨らみを隠して居た。
青い空の色の瞳が静かに笑みを作る。

「上弦。君は本当の姿を取り戻したんだよ」

柔らかい肩を抱き、傍に寄せる。頬を合わせて、額に唇を落とす。

「愛しているよ。今までも、これからも一緒に居よう」

上弦はただ笑みを返すだけ。

裸体で横たわる彼女を見て、哀しみに涙が零れる。
寒さを感じない。
人として生きる術をすべて忘れていた。

彼女は猫の様に伸びをして、大きな欠伸をする。

「上弦」
名前を呼ぶと、嬉しそうに身体を寄せて来た。
生まれて初めて見た僕を親と認識して居るのか、無垢な瞳は疑わず、僕に甘える。

僕は喉を鳴らすと、燻る欲望を押さえ付けて上弦を寝かしつけ、布団を掛けてやる。

魂が無いなんて、嘘だ。こうして僕らは意思が通じている。
それは気のせいだと言われたが、僕は信じない。
その内思い出す。
僕らの事を、自分自身を。
折角手に入れた本当の躰。それを喜んで欲しくて僕は待つんだ。

彼女が覚醒する時を。

今か今かと、

「おやすみ、上弦。今日も同じ夢が見れたら良いね」

すでに眠りに入った彼女を見て苦笑する。

「最初からそうさ。上弦は人の話を聞かないんだから」

胸が痛む。
あの時も止めたのに、聞いてはくれなかった。

だが、良い。
今はこうして取り戻せたのだから。

規則正しい寝息を聞きながら、僕も眠る。

幸せな時の夢を見る為に……
 
 
****

  
*道彩side*

平穏な日々が続いた。
虎之介は今までになく楽しそうに過ごして居て、時には疲れ過ぎて泊まって行く事もしばしば。

今夜もベッドに潜り込み寝息を立てて居る可愛い弟にほほ笑みながら、部屋にある固定電話の受話器を取る。

「大輝くん。今夜もこちらに泊まらせる」
大輝は、仕方ないですね。と苦笑する。
「皆、元気にしているかい?」
ふと懐かしむ思いが沸き上がる。
『元気にしています。鬼退治も今は無いに等しいですね。ホームシックですか?』
ホームシック。
「そうかもしれない」

何もかも管理されたこの土地は、私が居なくとも機能して行ける。
変な話だが、必要とされたがっている自分が居る事に最近気付いた。

他愛ない話をしばらくして、受話器を置く。

小さく溜め息を吐き、虎之介を見る。身体が半分布団から出て居た。
高校一年生。学校を目一杯楽しんでる。
虎之介は、輝いて居た。

布団を掛けてやる。



視線を感じて外を見遣る。
金の色が目端に留まり消えた。幻だろうか?

何か気配を感じる。

窓を開けて周囲を見るが判らない。
冷たい風が吹き込んで、虎之介が文句を言う。

きっちり閉めて、カーテンを引く。

この感覚は、“鬼”の気配に似て居る。
悪鬼に成る者は、今は居ないだろうこの学園に、この気配は有り得ない。

これに気付けるのは、鬼で在る者だけだろう。

華子。彼女が頭に浮かぶが、あの日から顔も見て居ない。

嫌な予感がした。

鬼の残り香が鼻をついて燻る。


気のせいなら良いのだが。
 

* 
 
  
*華子side*

死にたくないと泣き叫んで居た。
三人がそれぞれに苦しみ抜いて息を引き取った。

「キャァアアァ!!!」

すべてが視える。
繰り返し、繰り返し、子ども達が死んで逝く。


「アァアアア!!!」


青と緑の斑な瞳が、青い瞳が、紫の瞳が。
私を見て居る。
助けを求めて、
叫ぶ。
叫ぶ。

手を伸ばして。

―――お母さん!!

三人が私を呼ぶ。


アァ!! アアアア!!!

現実なのか、夢なのか?

耳に届く悲鳴は、誰のもの?


「――――大丈夫。大丈夫です」

柔らかい声。
身体を強く抱き締められている感覚。

「はぁ―――……月?」

抱き締める腕にしがみつく。顔を擦り付けて、息を大きく吸う。

「大丈夫」

その声が耳に届くと、安心出来た。
穏やかで……背中を擦る手は温かくて。
いつも夢から覚めた時は不快感が身体をだるくさせていた。
でも、今は?

月の匂いとは違う?
この温かい人は誰?

ゆっくりと目を開けると、薄い金の瞳が私を見て居た。
視線が絡む。

「道彩?」

抗わず、彼を見つめる。

「大丈夫ですか?」

「えぇ。ありがとうございます。もう、離して下さい」

彼の腕の中は居心地が良くて驚いた。
しっかりと抱き締められた躰が震える。

「夢を視ましたね?」
「いつもの事です」

息子達が死んで以来、深い眠りについて何日も続けて寝る。厄介な事に目覚める時、夢を視る。
はっきりとした夢。
繰り返し、息子達は死に逝く。
 
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