鬼に成る者

なぁ恋

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夢乱鬼

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*虎之介side*

お客様の相手するより何だか緊張して顔が熱いし、上手く話せるかな。

教室の前に立ち深呼吸する。

「虎之介くん? 大丈夫?」
奈留先生が振り向いて僕を気遣う。

「何とか。学校なんて何十年ぶりかで思ったより緊張しちゃってて」
「虎之介くん。何歳なの?」
「40になります」

絶句した奈留先生が瞬きして、
「まぁ、お兄さんが100歳だものね。
羨ましい兄弟ね」

心底からの思いだろう。女性は若く在りたいものだから。

「さぁ、準備は良い?」問い掛けに頷くと、教室の入口を開けた。

「皆おはよう!」
奈留先生の元気な挨拶につられて笑顔で足を踏み入れる。

「転校生を紹介するわね」
言いながら、黒板に書かれる名前。
「桃井 虎之介くんです。さぁ、自己紹介して?」 
「虎之介って呼んで貰えたら嬉しいです」
うん。名乗るだけで精一杯。

「虎ちゃん! 格好いい名前だね!」
聞こえた方に目をやると、短髪の細いつり目の女の子。
「ありがとう」と彼女に返事を返すと、隣りのツンツン頭の男の子が、また。と太い眉根を寄せて、
「皆に聞こえる様に話せって!」
と言った。
「はぁ~い。私、皐月 緑“テレパス”なんだ」
なる程。
「俺は、鷺生。神垣 鷺生かみがき ろいき、能力は……」
鉛筆が宙に浮き、横にクルクルと回る。
「サイコキネシス」

クラス僕を入れて32名が全員何らかの能力者で、何だかワクワクした。
クラスだけじゃなく学校全体が能力者の集まり!
こんなの初めてだ。
感情が高ぶり、身体が震える。
 
 
「はいはい。自己紹介はまた休憩時間にね」
奈留先生が手を打つと、ざわつき始めて居た教室が静かになる。

「虎之介くんの席はあの窓際ね」
興奮した身体が治まらなくて、短い間隔をテレポート。
「僕の能力は瞬間移動だよ」
教室内がまたざわつき、やんややんやの拍手喝采になった。
怖がられた事はあってもこんな事始めてで涙ぐんでしまった。

僕にとって楽しい学園生活の始まりだった。





*道彩side*

学園長室に戻ると、書類に目を通す。
これからの行事予定や、教師と生徒の資料。

珈琲の匂いが鼻をくすぐり頭を上げると、月が静かにカップを置いた所だった。

「ありがとうございます」
感謝の言葉に頷いた月。気配も感じさせない。素晴らしい。

「道彩様、どうでしょう?」
訊かれ、珈琲を啜りながら、
「うん。大丈夫だと思う。ただ、疑問がある」
一枚の生徒の資料を抜き出し渡す。

那波 吉春なば よしはる。二年男子生徒ですか?」
「うん。それぞれの資料には能力と能力の強さについて書かれてある。この生徒の能力はかなり強い。強かった。と言うべきか? それが一月前程に殆ど消えている」

“探索”探し出す能力。

「道彩様もおわかりだと思いますが、超能力者はいわゆる、悪鬼に成り得る者。この生徒は、暴力的になり、危険と評価されています」
確かに“危険人物”の印がついてある。
「こう言う者は、血を抜くのです。能力の大本、鬼の血を」
あぁ、主様方がしていた血珠を取る事をしているのか。
「この学園に居る者は皆、能力に頼って生きて来た。すべてを失くすと生きる気力も無くなる恐れがありますので、能力温存ぎりぎりまでを残します。それを“治療”と呼んでいます」
理に適っている。
「それを決めるのは華子様?」
「以前は。現在は、教師で話し合われ、華子様に許可を貰う形で行われています」
  
成る程。
「その血はどう処理してあるのですか?」
「“地獄”に戻します」

驚く。
「地獄の入口がこの地にも存在するのか?」
「ご存じなかったのですか? 各地に別れた理由は、それぞれ地獄の入口も護る為に決められた事と伝えられています」

そうか。市松の地は、主様が棲む事で護る形になっていたから。伝わらなかったのか。
鬼神山にある地獄の入口。ならば、月頭の護りは、
「この山、月城山にあります。学園のあるこの場所に」

鬼の血珠を取り出す事もその血珠を処理する術も、月頭の鬼は形にし成果を出していたのか。

「ならば、鬼退治は?」
「もう何十年もしてはいませんでした。あの襲撃が、奴等の強さも尋常ではありませんでしたが、私達も戦い慣れていませんでした。
活気盛んな若く自信のあった鬼兄弟達は、安易な気持ちで飛び出してしまい、命を落としてしまったのです」

鬼の血が、戦いに駆り立てたのだろうと想像出来る。

「貴方が気にする事はありません。また、違う話しですから」

私の中に居る二人の魂。もう殆ど混じり合い、一つに成って居る。
その事を指して言っているのなら、申し訳ないくらい私自身は満足している。
その為に輪廻して来たのだから。

「ありがとう」
それでも月の気遣いに感謝する。

「ゆっくりと慣れて行かれたら良いと思います」
「基本は同じだからな。華子様に認められる様頑張るしかないでしょうね。彼女は元気ですか?」

ふと気になり訊くと、
「今は夢の中に居ます」優しい笑みで月が答えた。

来る前に視た夢を思い出す。
夢と夢が繋がっていた様に感じる。

月頭 華子。

彼女はこの地最後の鬼。

私の役目は?
今一度考える。

「何かありましたら、お呼び下さい」
月が頭を下げて部屋を出て行く。
珈琲の良い香りを残して。
 
 
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