鬼に成る者

なぁ恋

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夢乱鬼

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雪が降る。

寒さを感じる様に身体を切り替える。
こう言うのも不思議と自然に出来る様になっていて、自分は人間ではないと、再確認する。

「龍太郎。ありがとう」

何か言いたげな龍太郎に目配せし、
「また、いつか」
そう言って車を降りる。

「道彩! また……な」

見姿は立派な大人の龍太郎が、瞬間、幼い子どもに見えて……窓から差し出された彼の手を握り、強く引き寄せて上半身を抱き締める。

「良い子で居なさい」
「俺はいつまでも子どもなんだな」

そう、龍太郎は私にとって子どもの様なもの。
静御前との、顔さえ見れなかった息子を思い出す。
私の中の静が溜め息を吐いた気がした。

「大きな子どもだよ」

力強い腕に返され、もう一度抱き返す。
背中を一度叩き、踵を返すと、振り向かず人の波に入る。

これからが始まり。

胸ポケットに入れてあったサングラスを掛ける。目立たない様に。私の瞳は人の中では珍しく薄すぎるから。

朝から忙しない人間の生活。それに身を任せ、目的地に向かう。
新幹線に乗り込み、窓側の自分の座席をみつけて頭上の棚に荷物を置く。
初めての新幹線、座席に深く座り瞼を閉じる。同時に、新幹線が静かに動き出した。

ふいに隣りに気配を感じ目を開く。
「道彩」呼ばれて、柔らかい髪が目に入る。

「虎之介」
隣りに座る彼を認めて、大輝の言った意味を知る。
「ここで何を?」
「着いて行く」

強い意思を持った言い方だ。

「反対しても無駄。僕を縛れるのは大輝だけ。」間髪容れず続く言葉は、止まらない。
「僕は貴方を知らない。それは勿体ない。もう少し話していたいんだ」

「兄弟を知りたいなら他の者と話せばいい」
「それはいずれ。道彩と話す機会は今しかない」

一理ある。

「この道中だけだぞ」
「僕に境界線は関係ないからね」

旅の終点までの話し相手に。
 
  
独特の匂いのする静かな車両内。
進む速度は早く、体に感じる振動は微弱。
窓からの景色は足速に流れ行く。

軽やかに話す虎之介の声が耳に心地好い。

トンネルに入ると窓には暗い空間が広がり、身体に痺れる感覚。
トンネルを抜けると、痺れは無くなる。それは足先から頭上に抜けた感じで、これは、目には見えない結界を抜けたと言う事か。
何が口約だ。しっかり領分は区切られて居た。

「何か、変な感じ。」
虎之介が眉根を寄せて頭を振る。

「感じたのか? 結界を抜けたらしい」
「そんなものが在ったの?」
「みたいだな。帰れるか?」

果して瞬間移動は結界に関係ないのか?

「ん?」
小さく唸って目の前から居なくなる虎之介。
瞬く間にその声が聞こえて来た。
「大丈夫。大輝のトコまで行けたよ。僕と彼は特別に繋がってるから」
頭上から覗く虎之介がまた隣りに座る。

「僕も新幹線初めてなんだ。あ! 車両販売。何か買ってよ」
まるで子どもの様にはしゃぐ彼は可愛いらしい。

“鬼”と“人間”の違いは結界の有無を感じるか感じないか、か。

ねだられるままスナック菓子やお茶、弁当のお金を払うと、膝に弁当を乗せられる。

「朝ご飯もまだでしょう?」
蓋を開け、箸まで持たされ渋々箸を付ける。

「美味しいでしょ? 遠足みたいだね」
笑顔で頬張る虎之介につられて笑顔になる。

「笑った顔、口元だけでも素敵ね。でもサングラス、取ったら良いのに。色素が薄いって言い訳もあるよ? 色付コンタクトもあるし」
「ありがとう。面倒な事はしたくないんだよ」

色素が薄いと言う言い訳も、目に直接何かを入れるのも正直面倒臭い。

「良いけど。もう少しで着くみたいだよ」

アナウンスが到着を告げて居た。

「ここでお別れだ」
虎之介に告げるが、首を振り、
「目的地まで着いてくよ。帰るのは簡単だからね」
虎之介は何故か拒めない言霊の力を持って居る。鬼に近い人間。 
  
一時間弱の旅。
新しい地に足を踏み入れる。空気が澄んでいるとは言い難い都会。
それでもこの地は故郷よりも寒い。

改札口を出ると声をかけられ、そちらを向くと二人の男が歩み寄って来た。普通の人間。

「市松 道彩様?」
「そうだ」
「お待ちしておりました。お連れの方がいらっしゃるとは聞いていませんが……」

背の高い細身の男が怪訝な顔をして虎之介を見る。

「弟だ。なので“口約”には当てはまら無い筈だ。どうしても私の行く末を見届けたいと着いて来てしまった」

「ふざけているのか?」
血気盛んな若者は、目に見えて不満気に唸る。

「至って本気だ。私は兄弟に弱いものでね」

背は高いが少し太めの中年の男がもう一人を手で制する。

「判りました。客人としてもてなしましょう」

その一言でその場は治まり、虎之介も共に迎えの車に乗り込んだ。

「道彩は、これで良いの?」
少し曇った顔で訊く。
「後悔しているか? と言うならノーだよ。むしろ楽しんでいる」
「なら、良いんだけど」

車は静かに都会から山林へ続く道に入る。
段々と山深くなる。“山”は鬼と切って放せないものなのだろうか?

「あちらに見えて来たのが“月城学園”です」
無言で居た中年の方の男が口を開く。
「あぁ、紹介が遅れましたが、私は信月 末将のぶつき すえまさ。運転しているのが、伸将なりすけ。弟になります。私も弟には弱い」
小さい笑みと言葉が、私を理解出来る。と語っていた。

森林の間から見えて来た建物はまるで名の通り大きな城。
狭い一本道の終点は、大きな鉄の門。

「この山すべてが月頭の領地です。月城学園は、月頭の隠れ蓑。“鬼”を教育し、改善する場所」

鉄は、邪悪を阻止する力があると聞いた事がある。
音も立てずに門が開く。広い噴水のある広場が見え、そこを過ぎると、学園に負けない大きな洋館が現われた。
 
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