鬼に成る者

なぁ恋

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夢乱鬼

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*龍太郎side*

父の墓はこの家そのもの。
だからか、哀しみは少なく、涙は出てこなかった。
ここに居る皆がその様で、不思議な別れにココロが熱くなった。

だが、道彩が養子に行く?
その事に納得がいかない。

今一度、兄を見る。穏やかにほほ笑んで、その表情とは裏腹に有無を言わせぬ迫力があった。

決まった事。と、
誰も、知る者の居ない行く事の出来ない所へ行く。
父が亡くなった事よりも、ショックを受けている自分が居た。

「深刻なんだよ。あちらの一族からしたらね」
道彩が続ける。
「朱色の鬼は、誰かが狩らないとならない。この地の護りは完璧。私はあちらの返事が来次第、旅立つつもりでいる」

決定事項。
見捨てられた気になった。
一度は俺の前から居なくなった道彩との再会は親をみつけた子どもの様に嬉しくて、それが今、彼を憎くも恋しくも想い、複雑で、変な感覚。
腹立たしく、勢いよく立ち上がり、その場を後にする。
誰の声も聞く気はなく、足早に自室に向かう。

「龍太郎」

この声には弱い。

「樹利亜」

長い廊下を並んで歩く。

「貴方も複雑ね。親から差して愛情を貰えなかった代わりに、兄弟愛は強い」

絡んでくる樹利亜の腕を手の平で擦ると、

「そうだな。これは、いわゆる……」
「そうね。龍太郎は拗ねてる。まるで子どもみたいに」

バツが悪く、溜め息を吐く。

「まだ、再会して一週間と一緒に過ごして居ないのに。すぐ居なくなるなんてのは、何て言うのか」
「もっと甘えたいのよね?」
「樹利亜っ!」
「そうなんでしょう? だったら駄々こねてる時間が勿体ないと思うわよ?」

樹利亜が優しく黄金の瞳を細めて、

「後悔だけはしないように。“先輩”の言う事を聞いておきなさい」

バンッ と背中を叩かれる。
樹利亜の前世。後悔は有って良いものじゃない。
 
 



 
*道彩side*

遠くて近い場所へ行く。それは案外と楽しみで。だから、

「ライ様は気になさらず。私は主様程ではありませんが、年長の鬼。それなりに、出来るつもりです」

「でも、家族の居ないボクとまほろばが行けば良いんじゃないかな?」

「無理ですね。養子に行く意味をお分かりですか? 子を成す事も含まれています」

この言葉には、黙るしかない鬼の主様方。

「本当に、気になさらないで下さい。私は変化は好きです」

この抑えようのない気持ち。久々にココロ踊る。

「生きて居る事を楽しんでいるんだな」

主様の言葉に心底頷けて、
    
「私は、生きて居ますから」

生きる事は決して苦にはならない。
見えぬ目が開き、愛しい者達と一つになれた。
これ以上望む事はないと思っていた。

「道彩……兄さん?」

遠慮がちに声を掛けて来た虎之介。

「虎之介。覚えてはいないでしょうね? お久し振りです」

頬に触れ、懐かしむ。
生まれた時も別れた時も、私は変わらず、虎之介は大きくなった。

「祖父程に歳の離れた兄にさぞかし驚いたでしょうね?」

「兄が居る事に驚いた。残念だけど覚えては居ないのよね」

母親似の虎之介。

「口約の事だけど、僕は“鬼”じゃないから会いに行ける?」

「どうかな?」

「龍太郎が拗ねちゃうかな?」

クスリ と笑い、弟を気遣う。

「俺は、拗ねない!」

龍太郎。戻って来たのか。

「道彩。正直、離れたくない。
こちらを手伝って欲しいって意味でだ。
けど、仕方ないのも解ってる。
ココロは、そう簡単に割り切れない」

拳を握り締め、気丈に振る舞う。
私の龍太郎。
“母性”と言うのか、愛しさが面に出て、思わず抱き締める。

逞しく成長した身体。

市松を背負ってくに相応しい心体を持つ男。

「お前が愛しい。それだけでも私がここに留まる理由になろう。けれど、私も男だ。挑戦したいんだよ」

本心からそう思う。
  
野心家?
大きな試練程血がたぎる。

「だから、旅立ちを喜んで欲しい」

頷く龍太郎を強く抱き締め、そっと、離す。

「男とはそう言うもんだな」

解った。ともう一度頷いて、

「応援している。虎之介は、行っても良いだろう? 遊びに」

様子を探りに?

「分かった。どうにかしよう」

「言っとくけど、僕が行けない場所はないからね」

頼もしい笑顔。

「解ってる。強い能力だな。龍太郎を、市松を頼む」

華奢な身体から溢れる力強さと能力の欠片。
鬼に近くて人間で在る虎之介。
彼の頷きに安堵する。


「主様にお願いがあります」

赤髪の鬼神がこちらを向き、口を開くより先に頷かれる。

「診よう」

一度心の臓が離れ、死にかけたこの身。
大丈夫だと解っているが、確証が欲しい。
“癒し”の力で身体検査をして頂く。
“五体満足の鬼”を所望するあちらの一族への履歴を持ち行かねばならない。

「金の鬼が行くんだ。胸をはれば良い」

主様の言葉に小さく笑い、“仮の姿”に戻っていた自分の胸をはり、

「奥の手は後々から出す方が何かと都合が良いと思いますから」

生まれた姿が“仮”で、金の鬼が“真”の姿?

どちらにしろ、角は額に掲げて在る。

「十二分に申し分ない身体をしている。100を越えた者とは誰も思うまい」

由緒在る鬼の子と生まれたとしても、鬼として育つ者は少ない。
超能力も目覚めず、ただの人間として人間の枠内の寿命でしか生きれぬ者の方が多い。
その中で、角の無い私が何故歳を重ねるのを止めたのか。

一世紀をかけて理解出来た自分。

これからが、自分らしく生きて行けそうだ。
 
迷い無く。
 
 
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