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毒鬼
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しおりを挟む*ライside*
事は早急に起きた。
身体中が血塗れになった道彩が自らの心臓を握り出していた。
その心臓には顔が浮かんでいて。囁いている。
“言霊”を。
彼の真後ろに居た、樹利亜が固まる。傍に居た元気が支えて居て、
「道彩!」龍太郎の呼び掛けに彼は白い眼を開けた。
「義経!」
静と弁慶が彼に駆け寄る。
まほろばも背後から手を伸ばし血液の流れ出るのを止血する。
「「アハハハハ!! 面白い! どうしようもないぞ! もう私はこの臓器の一部だ!」」
人面鴉が高らかに笑う。
「母者様。本当に欲しかったのは私でしょう?」
静の言葉にその声はまた笑う。
「「そなたの愛してる者の躰でそなたと共に生きてやろう」」
それはもう呪い。
「「静ぁ。放すものか。お前は永劫に私のものだ!」」
邪悪な魔力が道彩の中に根を広げ始める。
「カハッ! ……私は、二人を、助けに来たんだ。磯禅師。お前の、思い通りにはさせない!」
吐血し道彩が強い意思の力で“言霊”を撥ね付ける。
助けなければ。と言う気持ちとは裏腹に、このまま見守る事がボクの今の“役目”の様な気がして……。
何かを待っている自分が居る。
「嫌よ。私は“器”が欲しいんじゃない。母者。私は貴女なんて要らない!」
震える静の切なさ。
弁慶は唇を噛み、次の瞬間、おもむろに自らの胸に手を刺し貫く。
そして、唸る声と共に掴み出す。動く心臓を。
吐血し、それでも強い声色で、
「俺の、心の臓を貴方に。貴方の一部に成れるなら……」
そのまま引き千切り、身体から離れた心臓はそれでも鼓動を続けて、それを静が両手で受け取る。
*
*静side*
鬼若は、静かに眼を瞑り倒れた。
鬼若の潔さ。
貴方の気持ち、無駄にはしない。
主を失っても動く心の臓に口付け。
自分の手首を噛み切ると、滴る血を母者に見せつける。
「貴女の好きな私の“血”よ」
「「ホッ! 良い良い。最後に私の口でそれを貰おう」」
私の血は、甘い毒。
私の想い一つで薬にも毒にも成る。
土に落ちる血が微かに湯気を上げてその場に穴を開ける。
貴女は私を変えた。
人ならざる者。鬼に。
そんな私を有りのまま義経は愛してくれた。
本当はそれだけで十分だった。
あの時、鬼若を探さず私も彼も死んでいれば……
義経の手の平に在る異形の鬼。
さあ、お呑みなさい。
母者の大きく開けた口の中に落とす。
ジュウゥ……
焼ける音と湯気と悲鳴が一度に上がる。
シュルシュル と長い血管が体内から離れ岩場に落ちる。心の臓の異形の鬼が悲鳴を上げて悶え苦しむ。
それを横目にすかさず鬼若の心の臓を義経の胸へ押し込む。白い眼を見開いて動きの止まっていた義経が、大きく息を吸う。
目に見えて、心の臓が血管を繋ぎ義経と同化する。
強い心音が聞こえた。
それは鬼若の声の様で。
振り向くと彼の亡骸。見える顔は満足気で……その躰が白く光り出した。
眩い光が消えると、丸い赤い珠が一面に散らばって、まるで意思を持って居る様に転がり、義経の傷口から入りその傷を閉じた。
*
*道彩side*
力強い心音。
浸透する想い。
霞む意識の中、弁慶が呼ぶ声が聞こえた。
静の温かさを感じた。
大きく息を吸うと、意識がはっきりとして、躰にココロに、弁慶を感じる。
心音は、弁慶が私を呼ぶ声。
私が助けるつもりが助けられた。
「義経」
静の声が弱々しく耳に届く。
視ると、静の肌が、ひび割れていた。
まるで土の様に、ポロポロ と肌が崩れて行く。
「私は、鬼を喰さないと、躰が崩れるの。
鬼若を治癒する為、私は私の生命を削っていた。それを修復するのに一度治癒すると、一人喰べて補っていた。
形を成さないと、生きては行けない。
どの道、鬼若はもう貴方の中に……私は用済み」
力無く膝をつく静。倒れる前に腕に抱き留めた。
「ねぇ? 貴方。私はとても幸せだった。ほんの数年寄り添って、貴方を愛せた。
そして、鬼若。
一緒に居てくれてありがとう……数百年、私は寂しくはなかった。
二人を……愛してる」
伸びた手が、頬に触れた途端、砂になり崩れる。
「静!」
解って居た。
このまま生きて行けない事も。
だが“居なくなる”のは耐えられない。
鬼を選んで転生した。
二人を迎える為に。
「私は、迎えに来たんだ」
崩れ始めた躰を抱きかかえ、その額に額を重ねる。
「共に、永遠を生きよう」
「義……経」静の小さくなった声。
眼が熱く燃える。
見えない眼が ぐるり と回る感覚。
白く発光する静が、淡い光の珠に成り、揺れる。それは魂。
温かい熱を持った魂が、私の胸に飛び込んで来た。
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