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毒鬼
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しおりを挟む静は健やかに育つ。
私はそれを見て幸せに浸り、そして、十分に躰が熟した静のココロを蝕んで行く。
私の生業、白拍子をさせ、踊らせ売る。
それはこの時代の不幸。踊る雅な文化と裏の女生業。
そして、この時の為に閉じ込めてあった毒に浸した兄弟達を喰う事を強要する。洞窟に閉じ込めすべてを喰うまで出さない。
暗い狭い空間の恐怖。
死んだモノを喰した後は、新しく産まれ出た兄弟を喰わす。
泣いて叫んで、やがて大人しくなった静の虚ろな眼に、満足の笑みが零れた。
ココロを砕いてその隙間に私が入り込む。
その準備が出来た頃、邪魔な男が現われる。
源義経。
時の武将。
要らぬ事を吹き込んで愛妾として静を傍に置いた。
義経と共に居た鬼。
黒い髪の額に一本角を隠した生粋の鬼が、我を排除する。
武蔵坊弁慶。
そう名乗る鬼。
やつはただならぬ雰囲気と鬼気をまとっていて、私から静を隠した。
私の支配から静が離れた。
腹立たしく、ただじっと待つ事しか出来ない口惜しさ。
だが、待ったかいがあった。
戦乱の世は、何と儚く惨い事よ。
義経の兄、頼朝に吹き込んだ悪心。疑心暗鬼に捕らわれた頼朝は、義経と対立、そして力の差は歴然、義経は追われる身となり、静も姿を現す。
邪魔な弁慶にも手を打った。義経の追ってに“鬼”が居ると囁いた。それは大きく村人まで広まって……思わぬ鬼退治がおこる。
弁慶の壮絶な最期。
すべてを見て、満足を覚えた。
静を手に入れる。
それが叶うと思った矢先。
再会した静の腹には赤子が居た。
着かず離れず、静の傍に居て、静の変わり様に驚いた。私の“言霊”をはねのける力を持って居た。
男とは厄介だ。要らぬものを教えて強さを持った。
だが、孕んだ女はそれだけで美しい。
その美しさも、我ものと出来るなら、それも良い。
囚われた先で、絶望の言葉を聞いた静のその瞳の陰りの何と美しい事。
美しい。
美しさがすべてじゃ。
「男児は殺す」
そう宣言され、生み落とした子は、玉の様な男児。
静は泣き叫び、子を離そうとはしなかった。
強さと弱さが内混じったココロは、簡単に操る事が出来た。
我内に仕舞えば子は取られない。と、
習慣とは恐ろしいもので、躊躇い無く喰った。
それを見た周囲の人間供の叫び。悲鳴。
あぁ、面白い。
このまま我ものとしよう。
「静御前、母をすべて喰うのじゃ」
そうして静の血肉と成り我が静を乗っ取るのだ。
だが、誤算があった。
強さを身に付けた静は、最後の言葉を理解し、我の主である首から上を喰い残す。
そうして教え込んだ陰陽の術で、鴉と一体化させ、使役される身に堕ちた。
さすが、我が娘。としか言い様のない今のこの身よ。
カアァッ!
****
*樹利亜side*
またか。と思う。
母娘。人間であれば仲睦ましい関係で居られるものが、何故鬼と成るとこうも変わるのか?
思いやる気持ちが微塵も無く、自分さえ良ければそれで良い。
そんなエゴで生きているのが朱色の鬼と言うの?
私は今は“鬼”だと言っている。けれどそれは紙一重なんじゃ?
混乱し乱れたココロを突く言葉。
「「自分を持ってないのなら、私が有意義に使ってあげる」」
捕らえた鴉が赤い眼をこちらに向けていやらしく笑う。
「人間と鬼は、そうは変わらない」
まほろばの言う事に納得出来ない。
「そうだな。生粋の鬼に母性は無きに等しい」
「だから平気で子どもを殺せる」
口に出して鳥肌が立つ。私も?
「鬼にも個性がある。母性の代わりに仲間意識が強い。だからテレパシーで繋がっている」
「「皆一緒さぁ」」
赤い、赤い眼が光る。
「黙れ」
まほろばの声に静かに目を閉じる人面鴉。
「居場所を」
元気に言われ、思考を戻す。今度は私が言霊を使う。
『居場所を教えなさい』
元気の力を借りて、人面鴉より強固な言霊を。
「「……―――洞窟。霊的力が眠る場所―――……」」
「鬼神山。俺の亡骸が溶けた場所」
ライが呟いた。
ライの角が生えた所。
寿を含む、沢山の姫巫女達の眠る場所。
春が覚えて居るのは朧気で、でも、言われ思い出した感覚。
霊的力は確かに強かった。
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