鬼に成る者

なぁ恋

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毒鬼

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*樹利亜side*

抱き締める。
愛情に満ちた行動。

美夜子さん。

元気と繋がって居た時、彼の傍に寄り添う様に居た美夜子さん。
惨劇に最初に踏み入れ元気を救ってくれた。
根気よく、元気の壊れそうなココロを支えてくれていた。

強い女性。
元気の恩人。
懐かしい顔。


ふいに頭に人面鴉が浮かぶ。ほんの目と鼻の先、後少しで着く。

『元気!』
テレパシーで呼ぶと、頷いた様に頭を動かし美夜子さんに頼む。


でも、間に合わない?

「来るわ」
言って車から出る。

美夜子さんが作業員を促し出させたところで、元気の側に立つ。


「樹利亜?!」

美夜子さんが私を見留め抱き締めて来た。

「美夜子さん。心配させました。もう大丈夫ですから」

抱き返し、今一度彼女を見ると、

「危ないからここから離れて居て下さいね」

出来るだけ笑顔で、でももう来た。

「元気。来たわ」

元気の肩を踏み台にして、倉庫の屋根まで飛ぶ。

屋根にそった幾つかの天窓の前に立つと、空を見る。
そこに見えて来た個体。人面鴉。

カァ!

人の口から零れ出る鳴き声が、不気味だ。

この倉庫内に引き入れるには……開ける暇はない。人面鴉が、こちらにスピードを上げた。


ガチャンッ!


一枚を割り、人面鴉が私に目掛けて来た所を抱き込んで中へ落ちる。
 
  
しっかりと鴉を抱き、積み重なったダンボールの上に落ち、崩れて床に落ちる。


カァッ!


暴れる鴉を抱き締め、身体を丸める。

「樹利亜!」
元気の声。

「そのままで。そいつの目は見るな!」
まほろばの叫び声、それより先に目に映る鴉の赤い眼。


「「娘よ。離せ」」


しまった!
“言霊”を使われた。
じかに眼を見られ囚われたから身体が、言葉通りに鴉を離す。

「くっ……」

呪縛から逃れようと目を固く閉じる。

「「娘よ、我を見よ」」

見よ―――見よ……


勝手に瞼が開く。


眼に映るは、人程に巨大化した人面鴉。


「「その躰を我に――」」

止まる言葉。口を開いたまま動きが止まる鴉。


「そこまでだ」
まほろばが鴉の首元を掴んで金の瞳を光らせていた。
安堵で力が抜ける。

「樹利亜!」
私を呼ぶ。私の龍太郎が肩を抱き留めてくれた。

「……大丈夫よ」

あんなに小さな鴉ごときにこんな力があるなんて思いもしなかった。

昼間でも仄暗い倉庫の中、崩れたダンボールの真ん中で鴉の細い鳴き声が響く。

「樹利亜、それはこの鴉が元凶だからだ」

まほろばの声が広い倉庫に木霊する。
彼の手に居る人面鴉はその躰を小さく戻していた。
  
「元は力ある鬼だったのだろう。例え頭だけになり鴉と同化したとは言え、それなりの能力は残っている。
鴉の生態に感化され“小さくなった頭”でもその気になれば力は使える」

それだけって事?
鴉を見る。不自然な有様。

「探ろうか?
この女の生き様を……」

どの道“静”の居場所を探るのだから。
 
 
  
人面鴉。探ろうと視るが、案外と難しくまほろばの言葉の真意が証明された。
 
元気と両手を繋ぐ。その間に鴉を、互いの黄金の瞳で挟み身動き取れない様に呪縛する。


「人面鴉。お前の名は?」


元気とリンクし、二人の声で質問する。
そうしないと容易い相手じゃないから。視るのが難しいと解って自然と二人で“陣”を組んだ。

周囲の何もかもを締め出した空間を作り、主導権は私。
視る為、元気の手を現実との媒体に鴉に意識を集中させる。
 



**** 


*鴉side*



うるさい。
うるさい……。

何か声がする? が、ダルい。
身体が言う事をきかない。

ここは、どこじゃ?

視界が開けて、
見えた。


赤子の泣き声。

あぁ、完璧な女児。

私の分身。

したか。
まぁ、それはそれで使い道はある。

力を蓄える為には、また長い年月を要するが、私の躰は歳をとった。
取り替える必要があるのだから、ほんの少しの手間と労力は惜しむまい。

名。
この子には名を与えよう。

春風が静かに頬を撫でる。
私の好きな季節に生まれた娘。

静。静と名付けよう。

私のすべてを教え込み、私のすべてが静のものに。

最終的には私のものになるのだから。

ここは海辺に近い場所。
私の名にそったここを私は気に入っている。

私の、私の名は、磯禅師いそのぜんじ
 
 
 
 
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