鬼に成る者

なぁ恋

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毒鬼

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「身体の大きさが分かる?」

不思議に思い訊くと、顔に触れて来た手に、近付いて来た顔に―――驚いた。

「まとっているオーラと、話す声で分かるのです」

細い指が、顔を撫で下り、肩から胸に両手を乗せられる。

「こうして触れるとその体温から、魂の清さも、人格も解ります」

いやに密着していてドギマギして来た。
手の平は胸に置いたまま、顔が近付く。息が触れる程に。

「ふふふ……可愛い方ですね」

優しくほほ笑み、額をくっつけて離れる。

瞬き出来なかった。
目は閉じているのに、視線が合わさったみたいで……

「道彩。は、男だよね?」

「さぁ? どうでしょう?」

口端がついと上がった笑顔。
何てミステリアス。

「休みましょう」

素直に頷いた。







*静side*


指先に傷を付ける。
玉状の小さな血液が出てゆっくりと垂れ落ちる。
それは水晶で作られた器に溜まり、


こねる。
こねる。

こねて創り上げる。


鬼若の、命を繋ぐ団子。

血液の付いた指先を舐める。


その血液は甘い。
私の血は、麻薬。

私は造られた毒人形。


この美しい躰は、男を惑わせ夢中にさせる。
体内を流れる血液は、一度口にすると、生命を燃やす“糧”になる。

“死人”さえ。生き返らせる事が出来る。

死人と成った者。
“人間”に使えば、ただの亡者。
“鬼”に使えば、それは生前の姿を世に留まらせる事が出来る。

一度口にすれば定期的に取り込まなければならない。
生きて居たければ、私から離れる事は出来ない。 
  
「お帰りなさい。母者様」

音も立てず肩に降り立つ鴉。鴉と成った母。

「「途中、護りに阻まれた」」

「良いわ。大体の場所が判ればどうとでもなりましょう」

指でこねた血珠を手の平に乗せると、母者がそこに飛び移りついばむ。

「「ふむ。やはりそなたの血は濃い」」

満足げに長い舌で唇を舐め回す。
私は作りもの。
貴女の思惑通り、私は強くなった。


「「静。私に見合う躰を見つけた。いい加減、この躰に飽きた。獣臭くてかなわん」」


「その姿が似合って居るのに?」

カァっ!

一鳴きし、飛び上がる。

「「カラダが見つかった。私のカラダ。カラダ、カラダ―――!!」」






うるさい。

睨み、呪縛。

母者の動きが止まり、ゆっくりと地面に落ちる。


私は確かに貴女から生まれた。
けれど、

床に転がる動かない鴉。
貴女にはその躰がお似合いよ。



“静。
ここを出たければ、兄弟達を喰いなさい”

母の声はいつもうるさい。
嫌な事を思い出し、溜め息が零れた。
水晶の器を持ち、愛しい鬼若の元へ。

彼だけが、私の真実。




人間は容赦なく鬼若をいたぶった。

仁王立ちした彼に無数の矢印が突き刺さり、それでも息絶えない彼を、彼の躰を八つ裂きにした。
力の源である角を丁寧に切り取り、砕きまでした。


バラバラにされた躰は別々の場所に埋められた。

頭を掘り起こした時、貴方はまだ息をしていて私をしっかりと見据えたわね。
 
 
  
 
 
「鬼若」

暗闇に佇む黒い影が振り向く。
私の姿を一瞥して静かに衣を脱ぐ。
一糸まとわぬ姿で私を待つ。

私は近付いてその肌に触れ、たくましい胸を撫でて横に、腕の付け根を擦る。器から血珠を掬い、その部分に撫で付ける。
血珠はすぐに吸収され彼が溜め息を吐く。
それを繰り返す。
もう片方の腕、足の付け根、そして、首。


彼の躰中を撫でる。
額の疵にも念入りに撫で付け、
最後に唇に触れ、その内に血珠を含ませる。

無言で呑み込む鬼若の瞳が、赤く色付く。


この瞬間が堪らなく好き。

彼は私なしでは生きて行けないと解るから。


赤い瞳に黒が混じり、鬼若の意識が戻る。

「静。大丈夫か?」

心配?
違うわね。私が倒れては彼が立ち行かない。

「平気。とは言い難いわね。でも、あの坊やを頂けば、心配いらない」


鬼若の裸体に躰を預ける。何時なんどきも彼は私を支え、抱き留めてくれるから。

例え、憎んで居たとしても。


私に頂戴。
貴方のココロを。

私を見て、
私だけを求めて欲しい。

その素肌を撫でる。
いつまでも維持出来るとは限らない。
でも、手放したくないから、私は“鬼”となる。

ねぇ? 母者。こんな時は貴女に感謝するのよ。
この躰のお陰で鬼若を繋ぎ留めておけるのだから。





          
“濃い力を持つには、を喰い、その力を我ものとするのが一番”

母者は取り憑かれた様にそればかりを繰り返し言い、父親の違う兄弟を何人も産み、その皆を私に喰べさせた。

そして、私の赤子。玉の様な義経との男児まで、私に……

最後には、自らの躰を。
母者の言葉は絶対で、その“言霊”で私を操った。



貴女には、鴉がお似合いよ。
 
 
 
 
 
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