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羅刹鬼
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しおりを挟む*ライside*
太い枝にまほろばの上に乗って寝そべり、
陽が暮れて行くのを見遣る。
山々の間に落ちて行くその光りの代わりに顔を覗かせる赤い月。
「まほろば。本来この島は羅刹が作ったモノだから、彼女が消滅したなら崩れ去る筈だった」
「なら、どうして?」
本当ならば、誕生していたで在ろう命の息吹が伝わって来る。
「今夜、生まれるから」
慣れない長い髪を下に垂らしてまほろばの胸に頬をのせる。
赤と銀の髪が絡んで風に揺れて、ここだけが別世界みたいで。
ボク達が出逢ったのも、赤い月の夜。
赤い月は、
“始まり”を暗示めいている。
この島の新たな始まり。
それは、今夜。
「ねぇまほろば。
ボク達はこれからも一緒に生きて行くんだよね?」
「生命ある限り共に居る」
終わりのない人生を送る。
そんなボク達の居場所は在るのだろうか?
或いは、もう見つけたのかもしれない。
暖かい風が二人を包む。
ここは、天国みたいな島。
「最後に行き着く住家……それも良いな」
まほろばの深みある低い声が耳に心地好い。
二人で居る幸せを噛み締めて瞳を閉じる。
今暫くは夢とまどろもう。
*
*元気side*
頭上に輝く赤く大きな月を見遣り、その美しさに溜め息が出た。
「元気?」
呼ばれて振り向くと、空羅寿の柔らかい笑み。
「そろそろ明かりを灯しますね」
洞窟の中をそれなりに住みやすく整えて、集めた枯れ枝に空羅寿が火を灯す。
洞窟内に仄かに揺れる二つの影。別々に座って居ても影は一つにくっついている。
それに気付いて嬉しくなった。
「夜も更けたね。もう寝る?」
「えっ?!」
赤くなる空羅寿を見て焦る。
「違うっ! いきなりそれは無いから!」
俺も赤らむのが解った。
互いに視線を交わし、思わず笑う。
空羅寿も小さく笑い声を上げた。
彼女の声色は、澄んでいて綺麗だ。
風が洞窟に吹き込む。
揺れる炎と俺たちの影。
空羅寿が笑いおさまると、胸に握りしめたままの卵をさらに深く抱き込む。
「羅刹の卵は、空羅寿の宝物なんだな」
「そうね。とても愛しく思う。まるで、今にも生まれそうな感じ。温かいもの」
言って頬を卵にのせる。目を伏せ、考え深げに溜め息を吐き、
「もっと話して居たいわ」
「だから、ここに残るって」
こんな言い合いさえ心地好い。
「そうね。本音は一緒に居たい。けど、ダメなのよ……」
『私だけが幸せを感じてしまうのは“罪”』
空羅寿のココロの声が理由を告げる。
母親の懺悔だ。
「良いさ。
俺が通う。時々島へ空羅寿に会いに来る」
空羅寿の茶色い瞳が煌めいた。視線を合わせ、互いにほほ笑む。
*
*空羅寿side*
ピシッ
何か割れる音がした。
手にある卵。そこにヒビが入ってる。
「元気! 卵が……」
驚いた。
元気も手をあてる。二人の間になった卵が、淡い光りを放つ。
“魂の光”に似た柔らかい光り。
私達の手を離れ、宙に卵が浮かぶ。クルクル と回り、ヒビが大きくなる。
ピシ……ピシリッ……
目を開けて居られない程に光りが強くなり、温かく身体を包み込む。
パリッ
腕に柔らかい感触が落ちて来た。
「ホギャアァ――ー……」
視界が正常になり、目にした愛しい……
「羅刹」
腕に抱く可愛い赤子。
完璧な人の姿をした女の子。
「羅刹……」
元気に泣き声を上げる娘。
涙で霞む視界。
戻って来た。
あの時、結局は取り戻せなかった幼い娘。
「あぁ、羅刹」
頬擦りその暖みを確認する。
「空羅寿。良かったな」
元気の声。
そして温かい腕に包まれた。彼の身体にもたれて、安堵の吐息を吐く。
空を仰ぐと、満天の星々とそれに負けない赤い月が輝いていた。
赤い月の夜に生まれる。
それは、羅刹の予知だったのでわなかったろうか?
風が強く吹いて髪を、身体を撫でて行く。
ふと足下を見ると、卵の殻が風に揺れた。
二つに割れた殻。
それが、赤い月光に照らされて蠢きだす。
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