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羅刹鬼
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しおりを挟む*元気side*
空羅寿を見ているだけで、こんなにもときめいてココロが苦しい……人を好きになるのは、よく考えたら初めてかもしれない。
前世の寿の恋は、相手が居て居なかったみたいなものだからな。
今考えたら恋に恋してた……みたいな。
あれはあれで真剣だったんだけどさ。
相手が居て相手も俺を想ってる。みたいなのは、どうしたら良いんだろう?
「ここに住むわ。雨風がしのげればいいから」
暗い洞窟。余りにも殺風景だ。
「ほら、この奥に高くなった場所があるからそこで眠れば良いし、そうだ! 卵の寝床も作らなきゃ」
黙る事なく話し続ける空羅寿。
「布団も無くなったから柔らかい大きい葉っぱがあるの、それを取ってきましょう。
この島は四季が有って無い様なものだから寒かったり暑かったり……」
「空羅寿」
「あ! 気にしないで。この島で暮らすのは慣れているもの」
無理してる。
こんなに広い島で独りで大丈夫なんて嘘だ。
考えずに、後ろから抱きしめていた。
「俺、空羅寿の――「元気!」
言葉を遮った空羅寿が、霧に成って出口に形戻る。
「まだ明るい内に葉っぱを取りに行かないと……貴方が居る内に」
そう言ってまた霧と消えた。
クソッ! 逃げられた!
逃げられた?
彼女のココロを読むのは容易いのに、気持ちを捕らえるのは何て難しいんだっ!
でも、逃げられたって負けるもんか!
俺は元気が取柄の元気なんだ。
簡単には逃さないからな!
*
*樹利亜side*
ムカつく。
元気との繋がりが完全に切れてる。
元気が空羅寿に想いを寄せた途端に切れた。
「何か、腹が立つ」
「プッ」
龍太郎が吹き出した。
「何?」
睨むと、優しい笑みが返って来て毒気を抜かれる。
「これで俺だけを見て貰える」
言葉と共にココロのこもった口付けをされて……
「分からないわよ? 私気が多いもの」
島を見渡せる高い岩場に座って居た。
ここは美し過ぎる。空気も美味しくて、開放的な気分にさせる。
あぐらをかいて座る龍太郎の膝にまたがり向かい合う。
凛々しい顔。輪郭をなぞり、彼の顔を胸に押し付ける様に抱きしめる。
硬い髪が頬を擦る。目の前には白い一本角。
思わずその角に口付けると、龍太郎の全身が震え、胸に当たる彼の唇が動く。
敏感な場所を探るから、甘い声が零れた。
視界に広がる美しい島の風景が一転し、澄んだ紺碧の空が映る。
その空が龍太郎に隠れて私の瞳に映るはもはや彼だけ―――
私のココロを支配するのは、もう、愛しいこの男性だけ。
「龍太郎。貴方だけを愛するわ」
「樹利亜。もう……待てない。お前だけが、俺のただ一人の女」
それは、甘い約束。
*
*空羅寿side*
霧になり、目的地まで一気に着く。
抱いた卵を落とさない様抱え直すと、目の前にある茂みに入りひたすらに足を進める。
彼を、どんなにココロが求めていても、絶対にダメ。
どうしてか元気の事を考えてしまう。
茂みを抜けると、そこは全体的に大きな木々が茂る林。
見上げて、私が隠れる程の葉っぱを目認する。
「どうしようか?」
「俺が取ってやるよ」
後ろから彼の声が聞こえて驚いた。
「俺は“千里眼”って能力を持ってるから空羅寿をすぐに見つけられる」
出逢いを思い出す。
突然私の視界に飛び込んで来た彼の姿。
夢幻かと思っていた。
けれど、二回目に視て、三回目で本人が現われた。
優しく素敵な男性。
時間を過ごす程離れがたく、欲しい気持ちがココロを支配する。
まだ出逢ってから時間もそんなに経っていないと言うのに。
「時間なんて関係ない。俺はこうして出逢えた事が運命だと思ってる」
低く心地好い声が耳に、ココロに響く。
「貴方は、私の思っている事が分かってるみたい」
「うん。ごめん。鬼は人のココロが聞こえるんだ。“同族”の、みたいだけど」
苦笑する元気に、何故だか笑わずにはいられなくて……
「笑った方が良い。空羅寿は、可愛い」
何て、言葉を使うのだろう。顔から火が出るのかと思った。
不意に彼の顔が近付いて来て、驚いて目をギュッと閉じる。
頬に触れて離れる柔らかい感触。
それは、頬に触れた唇。彼の唇。
開けた眼に映るは、彼の優しい笑顔。
私のココロは、もう彼で一杯になった。
運命だと言われて、優しく私だけに向けらた笑顔に囚われたココロ。
そう。私は元気が、元気の事を……
「大好きだよ。空羅寿」
彼の笑顔は太陽。
その暖かみを知ってしまった私は、もう、離す事が出来ない。
「私も……」
そのまま、抱きしめられた。
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