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羅刹鬼
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しおりを挟む*空羅寿side*
元気。貴方は優しくて素敵な男性。一緒に居られたらどんなに楽しいだろう……でも、ダメ。私のわがままに付き合わせる事は出来ない。
沢山の仲間が居る元気。彼らから引き離す何て出来ないし、羅刹を思うとこの島に男性を置きたくはない。
それに、正直、男性は信じ切れない。
「空羅寿」
私の名を、優しく呼ぶ。
彼が欲しい。
けれど、私にそんな資格はない。
「元気。自分の世界へ帰りなさい。
元々、存在すら知られていないここは幻の島なのだから」
出来るだけ笑顔で、腕に抱く卵だけが私に遺された希望。
「だけど―――」
哀しい顔をした元気。
それ以上言わせない為に、彼の唇に手を当てる。
「元気。押して駄目ならひいてみろってな」
大きな身体の一本角を頭に持った男性が言う。
彼らの言葉は、解らない事が多い。
「一晩話せばいい。
もうこの島に危険はないから。明日の朝帰ろう」
銀色の髪の一本角を持った鬼が私にほほ笑む。
「今夜は赤い月の晩だから」
意味有りげなその言葉が気になって、
「一晩……だけなら」
「それでいい。空羅寿が住む場所も確保しておきたいから」
元気の優しい気遣いに、胸が熱くなる。
「なら、決まりね。私はちょっと散策して来るわ。龍太郎!」
彼女は、樹利亜と言ったかしら?
「そうよ空羅寿。私は樹利亜。元気の姉よ。
そして彼は龍太郎。私の恋人」
あの逞しい一本角の鬼が小さく頭を下げて樹利亜の後ろに着く。
「空羅寿。私は姉として、元気の幸せをココロから願ってるの……それを踏まえて考えて」
その黄金の瞳は、元気と同じ。
同じ眼は、真剣さを映し出していた。
「樹利亜。判りました」
真摯に答えるしかなかった。
答えは、決まっていると言うのに……
*ライside*
「まほろば」
後ろに立つまほろばを呼ぶと、優しい視線が返って来た。
「名案だ。明日まで待とう」
「そう言う事で、明日海岸に集まりましょう?」
龍太郎さんを連れ立った樹利亜が手を振りつつ近くの山林に入る。
「空羅寿。彼は赤鬼のまほろば。ボクは、今はこんなだけど青鬼のライ」
頷く彼女の手を取って、
「元気は名前通りの男だよ。
それに一途なココロを持ってる」
元気の本気が解るから。
空羅寿を切なげに見る元気の腕にそっと手を置く。
「気がすむまで話して」
元気が頷く。
その瞳は真剣で「頑張って」思わずエールを贈る。
「お天道様がてっぺんに来てる」
太陽を仰ぐと懐かしさで一杯になった。
初めて前世を視たのが木の上の光り。
高い木を見つけ思い出す。
「お前は木の上で眠るのが好きだった」
「それを邪魔するのがまほろばの趣味だった」
ボクに上着を貸してくれたから上半身裸のまほろばの細いけど、筋肉質な胸板に頬を寄せる。
赤い長髪が風に煽られてボクの頬をくすぐる。
優しく頭を撫でられて安堵の吐息が零れる。
「ライ」
いつでも優しくボクの名前を呼ぶから……
*
*空羅寿side*
「綺麗な陽の光り」
空には昔と変わらない太陽が輝いていて、ざわめく風は長く親しんだ潮の香りを含んでいる。
変わったのは、隣りに居る元気の存在。
元気を見るとただ笑みをくれた。
熱くなる頬を気付かれない様に顔をそらす。
「……もう少し先ですッ!」
語尾が強くなりさらに顔が熱くなる。
「空羅寿。あの空間に居る時は積極的だったのに」
返す言葉が見つからなくて俯く事しか出来ない。
「ごめん。困らせる気はないんだ」
肩に優しく触れる手。布越しでもその暖かさを感じる。
落ち着かないココロ。
「あちらです」
目的地に着いて優しい手から逃げる様に足を速める。
霧の谷を上がった所に、洞窟のある場所があった。
元気が心配するから思い付いた幼い頃の遊び場だった場所。
「奥は深いの?」
間近で声がして驚く。
「―――ッ! 一人で住むには十分です!」
慌てて奥に進む。
「キャッ!」
転びそうになった私の身体がふわりと宙を舞う。
「大丈夫か?!」
元気の腕に居た。
腕に抱いた卵も無事で良かった。
「ごめんなさい。ありがとう」
優しく降ろされ安堵する。
「案外そそっかしい」
「あな―――!」
貴方が居るから。落ち着かないのよ!
零れそうになった言葉を呑み込む。
「希望はあるんだな」
ココロを読んだ様な元気の言葉に驚いて振り向く。暗い洞窟の中でも彼の笑みは眩しくて。
「私の希望は、羅刹が遺したこの卵よ」
本気とごまかしを口にした。
「分かってる」
どこまでも優しい元気に頼りたくなる。
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