鬼に成る者

なぁ恋

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羅刹鬼

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*元気side*

激しい動悸で目覚める。

空羅寿の目線から視た彼女の過去。


あの赤い眼は“朱色の鬼”

だが、その正体を視る前に目覚めた。


「空羅寿?」

また最初のベッドの上に居た。
あの匂いを嗅いで眠らされたんだ。

時代背景を考える。
それは数百年前の情景。

なら、空羅寿は何歳なんだ?
空羅寿から鬼気は感じられない。彼女は“人間”だ。


仄かな光りで、室内に誰も居ないのを確認する。

起き上がり確認する。
やっぱり四方は石壁。

空羅寿はどうやって出たんだ?
それより俺はどうやってここに入ったんだ?


隠し扉でもあるのか?
壁の至る所を擦る。押さえても何も反応がない。
けれど、炎が揺れて燃えて居るのは空気の流れがあるから。
どこかに隙間なりある筈。


「元気」

不意に呼ばれて振り向くと、空羅寿が居た。
手には、温かいスープ。その良い匂いに、お腹が鳴る。思わず頬が熱くなったが頭を振り訊く。

「……どこから?」
「私だけが入れると言ったでしょう?」

ほほ笑んだ空羅寿がベッド横に置いてある机にスープを置き手招く。

素直にベッドに座る。

「俺は、仲間を捜さなけりゃならない」
「もう、忘れなさい。今までも、鬼退治に来た者達は残らず姫に……」

「簡単には殺られない。俺らは“鬼”だから」

空羅寿が眉根を上げる。

「鬼? 姫と同じだと言うの? 貴方と、その仲間が?」

鬼退治をする鬼。

「鬼に成ったんだ」
「それは、苦痛に他ならない」

イメージするは、羅刹姫。
 

***


  
*龍太郎side*

たまに聞こえる波飛沫の音で、島である事は間違いない。だが、歩けど歩けど何も無い。
深い森林が続くだけの獣道。
長い草に身体を擦りながら歩き進む。

前を歩く樹利亜の背中が苛立ちを抑えて揺らぐ鬼気を放って居る。

「樹利亜」

呼ぶも懸命に足を進める彼女の耳には届かない。

舌打ちをし、その細い腕を取る。

「―――何?」

こちらを睨む黄金の瞳。

「“鬼気”が出て居る。落ち着くんだ」

立ち止まり、溜め息を吐く。

「ごめんなさい。元気の気配が感じられなくて……こんな事初めてで、不安になってた」

素直に謝り、気を落ち着ける為か、小さく深呼吸をする。
薄い服の下、形の良い胸が上下するのを見ながら、

「まるで、迷子になった子どもみたいだな」

思ったままに言ってしまった。

「―――そうだもの。私は元気が居たから生きてこられた。彼なしじゃ――……」

不意に零れ落ちる涙。

「悪かった」

そうだな。樹利亜の闇を照らし生きる希望を与えたのは元気だ。
引き寄せ、抱きしめて頭を背中を擦ってやる。


「元気! どこに居るの??」

樹利亜のココロからの叫び。
それは、俺を貫き“想い”となり飛んだ。
 
  
*元気side*


―――元気!


「樹利亜?」

叫びに近い不安げな声がココロに届く。

「……これは。姫が気付いたかもしれない」

空羅寿の言葉に驚く。

「聞こえたのか?」

千里眼で覗いて居るのも気付いてたのだから聞こえて当たり前か。

「樹利亜とは、に来た女性?」

「そう。俺の姉だ」

「どちらにせよ、彼女は姫に掴まってしまう」

目を伏せた空羅寿が、
「私がかくまえるのは一人だけ」

淡々と言う。
今までと違いまるで感情の無い声。

「俺は、助けに行く。かくまって貰わなくても大丈夫だから」

「ダメよ! 貴方は私とこれからを過ごすの」

まるで駄々っ子の様に言い捨て立ち上がると、足下から霞む霧が発生し、空羅寿の全身を包み込むと、石壁に吸い込まれる様に消えた。


―――私しか入れない……
そう言う事か。

石壁に手の平を当てる。
「樹利亜!」

拳で叩く。
びくともしない。

それどころか、身体に力が入らない。
おかしい……。
こんな壁、すぐに壊せる怪力がある筈なのに!


また、どこからか甘い匂いがして来た。
身体中の力が抜ける……その場にへたりこむ。

何かがおかしい。
この空間は、力が出せない?

まるで檻の中。

「くそっ!」

囚われの身に。
樹利亜の心配が現実のものになった。

樹利亜。
姫にみつかったら、どうなるんだ?!

せめて危険を知らせたい。
その一心で声を送る。
樹利亜の声が届いたのだから、俺の声だって届く筈だ!
そう願いながら。
 
 
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