101 / 210
花鬼
7
しおりを挟むまほろば。
私は貴方の血の流れの中で、静かに眠る。
再会する事を、夢に見ながら……
………………………
***
溢れる涙。
幸せに流れる涙。
そう、幸せなんだ。
二人を見ていて、苦しくなったココロ。
切なくなったココロ。
そうか。
俺は、寿。
まほろばの子どもを生んだ女性。
俺は俺の始まりの女性の、生まれ変わり。
そうか。
「寿。ありがとう。
元気を寄越してくれて」
聞きたかった声が響く。
呼んで欲しかった。
寿。と……
まほろば。
「近くに居ても?」
眼を開けると、目の前にまほろばが。
「ずっと一緒に居ると良い」
言って、重ねられる額。金色の両眼が一つに見え、夢の様に光りが広がる。
溢れる涙は止まらず、震えるココロは、そのままに、
満足の溜め息を吐く。
そうか。
樹利亜は、春。
前世から、大事で愛しい人。
この気持ちは、言葉に表せない。
俺達の魂の軌跡は、奇跡を起こしたんだ。
ねぇ? 春。
そうだろう? 樹利亜。
まほろばは、俺達を繋げる軸。
*ライside*
まほろばと元気の姿はとても穏やかで、ボクも安心する事が出来た。
部屋の外でこっそりと覗いて居たけれど、そっと歩き出す。
この家はとても静かで広い。
何日も滞在して居るのにすべてを見れた訳じゃなく。
まぁ、それどころでなかったってのもあるけど。
? 唸る様な声が聞こえる。
声の方へ行くと、二枚戸の襖がある部屋の前に着いた。
「うぅ……」
この部屋から聞こえる。
「大丈夫ですか?」
声をかけるも返事はなく。
「開けますよ」
そこに居たのは、市松の親父さん。
布団に寝たまま苦しそうに唸って居る。
「……ライくんか?」
起き上がろうとして居るのを手で制止、
「楽な姿勢で」
「すまない。では、このままで」
気になって、彼の側に座る。
「苦しいなら、まほろばに診て貰いましょう」
それに首を振り、
「治る事は無い。このまま逝くが定め」
固い決心の元、言って居る。
「私が選んだ事です」
小さく咳をする。
「もうしばらくは大丈夫そうですがね」
「辛くないですか?」
何気なく訊いて、しまったと思った。
「貴方は正直ですな」
口端だけで笑みを作った親父さんが手を出す。思わず手を取ると、
「頼みがあります」
真剣な顔で言われる。
「何なりとおっしゃって下さい」
取った手に力が入る。
「見守ってやって下さい。二人を」
それは親心。
「えぇ、必ず。傍で見て居ます」
握られた手を両手でそっと包み込む。
「お願い致します」
小さく言って目を閉じた。
長くを生きた鬼の子孫。
それは人に紛れ、人と共に生きて来た。
彼らを助け、日陰者として、これは彼らの宿命。
そうして生きて行く。
今からも、
これからも、それがかせられた天命。
握られた手をそっと布団に戻す。
静かな寝息。
もうしばらくは共に居ましょう。
そう“約束”をして、その部屋を後にする。
*龍太郎side*
流されてはいけない。
触れる唇の柔らかさ、甘い吐息に、喉が鳴る。
理性を総動員させ、樹利亜の肩を掴み放す。
「……龍太郎?」
とろんとした眼。
「樹利亜。お前は素晴らしい女性だ」
震える躰を制して、出来るだけ優しくほほ笑む。
「……我慢するの?」
知った風な妖しい目付き。
「私は前世男だった」
それは小悪魔な微笑。
「―――そう……か? だから解ると?」
何故か競争心を駆り立てられる。
「少なくとも、仕組みは解ってる」
余裕の笑み。
そんな事!―――
「“想像”と“現実”は違うぞ」
俺の中の獣が頭を覗かす。
欲望に火が点く。
「どうかしら?」
何て!
長い前髪から覗く挑戦的な黄金の瞳。
これは。
我慢出来る筈がない!
重なる唇。
巻き付いて来る柔らかい腕。
そのままベッドに押し倒し、深く口付ける。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる