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鬼罪
3
しおりを挟む*ライside*
あれから服を着たまほろばが、ボクを振り向かず外へ出た。
空には赤い満月が浮かんでた。
懐かしい。
出逢いの時と同じ月。
言われた言葉を繰り返し考える。
近付くな?
鬼が抑えられない?
食事時の記憶が飛んでる。
ダルい身体を押してベランダに出ると、
「ご飯。作ってよ」
樹利亜が破れた壁から顔を覗かせた。
言われて自分もお腹空いてる事に気付いた。
「良いよ」
*樹利亜side*
悩んでる。
こればかりは何とも口出せない。
“鬼が抑えられない”のは、そのままの意味。
初めての発情期。
極度の興奮状態になってた。ただでさえライの血液を糧としているのだから、それこそ喰べてしまうかもしれない。
一度は喰べちゃってるから尚更かな。
だから余計に“種”を残さない行為をするのは、理性がないと出来ないとまほろばは考えた。
寿の時とは違うから。
て。ライに話す義理はないから。まだ黙っておく。
悩めばいい。
そんな二人を見てると私的には……悪いけど、
スッキリする。
前世を引き摺ってるのは私の方かな。
***
*虎之介side*
一夜明け、鏡を見て安心する。
元に戻ってない。
頭もふさふさのまま
そして、“移動”する。
「うえ!」
毎度の朝の挨拶で大輝の上に乗っかる。
「―――虎之介っ!」
不機嫌な大輝に顔を寄せ、口付ける。
「おはよ」
笑みを向けると、溜め息混じりの吐息を吐いた大輝がほほ笑んでくれた。
口元近くにある頬の傷。撫でて、不思議に思う。この傷が出来たのは何故?
3cm程の傷。真ん中が盛り上がって両端に裂けた様な……
結構目立つのに何で、今の今まで気にならなかったんだろう?
「「虎之介」」
頭の中にノイズと共に“声”がした。
僕を呼ぶ声。
気のせい?
「「虎之介……」」
呼んでる。
にじんだ声。
男とも女とも解らない太くて高い声。
「虎之介?」
大輝の声で我に返る。
「……大輝。この傷、何時出来たの?」
難しい顔。
「さあ、何時だったかな?」
見るからに誤魔化してる。
「「虎之介」」
頭に直接響く声。段々と大きくなって行く。
頭を振る。
「どうした?」
「ん~? 何だろ。誰かに呼ばれてる気がする」
「寝ぼけてるのか?」
「そんな事ないよ」
しっかり起きてる。
幻聴かな?
「今何時だ?」
「5時過ぎ」
早いだろう。文句を言いながら立ち上がると、
「飯作るわ」
嫌な顔一つせず、大輝がにこやかに部屋を出る。
「「トラノスケ……」」
確かに聞こえる。
でも、答えちゃいけない気がした。
***
*まほろばside*
赤い月が明るい陽の光りに消されて行くのを見ていた。
躰の内側、
中心辺りが熱い。
頭の芯が痺れている。
自分の躰なのに、
思う通りならない。
高いビルの屋上、看板の影に隠れる様にして座って居た。
風が強く吹き抜ける。
朝の冷たい風。
それさえこの熱を冷ましてはくれず、
「ライ……」
想い人の名を呼ぶ。
それだけで、震える躰。
鬼の、子の成し方は発情期が来ると始まる。
鬼は一度発情すると“実”を結ぶまで交わる事を止めない。本能で解る。
それは早い者は一度で済み。長ければ数日かかる者もいた。
子どもが出来れば、交わりは終る。
そこに愛は無く、行為も子孫を残す手段でしかない。
何度か見たそれは、獰猛で互いに対する気持ちがないから躰は傷付き。酷い有様で、
それしか知らない。
ならば、人間と子を成した者達はどうしたのだろう?
考えても答えは出てこない。
躰が熱い。
朝の訪れ。治まらない躰の熱。
ライの傍へ戻れるだろうか?
彼を想うと辛くて、
傍に居たくて、
触れたくて、
堪らない。
自身を抱き締め、うずくまる。
躰が熱い……
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