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虎之介奇譚
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しおりを挟む*大輝side*
一年はあっと言う間だった。
あれから親同士が話し合う事になって───日下と水戸は言わなかった。手を繋いでた事が噂になり、桃井のおじいさんが虎之介の告白を聞いて驚いたから───両家で本気の話し合いになったんだ。
何度も
何度も、
何度も。
しつこく二人の気持ちを訊かれて、
答えは同じで……
桃井家の大人は気の迷いだと言って、会う事自体を止めさせようと言った。
黙って聞いて居たうちの両親が口を開いた。
「そんなに世間体が気になるなら、虎之介くんはうちが預かります」
と、父が言い、
静かに笑みを浮かべた母が、
「二人共、初恋、おめでとう」
本当に嬉しそうに笑った。
絶句する桃井家の人達。
本当に預かるつもりで居たと両親は言った。けれど、そう言う訳にはいかず、妥協案が出された。
俺はちゃんと近くの都立高校目指して勉強する。
虎之介は、我慢を覚える。今更だけど、人前で力を使わない。
そして、告白。
俺は知って居たけれど、
虎之介は、子どもが生まれない伯父夫婦の養子である事。
不思議と静かだった桃井の母親が、一言つぶやいた。
「私に子どもさえ授かれば問題なかったんです」
と、泣き始めた。
虎之介は、無表情でそれを見て居て、妙に不自然だった。
母さんが側に行き、何やら小声で慰めると、その胸を借りて嗚咽して
こればかりはどうしようも無い事だと、皆で慰めた。
後で聞いた事。
上辺だけの優しさで接して居た彼女を母親と思えなかったと、虎之介が寂しげに言った。
何と人の心は複雑で、難しいのだろう。
色んな事を覚えた16歳の時。
もう一つ、虎之介にとって出逢いがあった。
父さんの古いカメラ、それを手にした彼は生き生きとした瞳で撮り始めた。
始めの一枚は二人のツーショット。
笑顔の二人。
二度と来ない瞬間。
………………………
***
*龍太郎side*
懐かしい
初めて見た兄の姿。
兄が居る事は聞いていた。
その兄が小柄な可愛らしい姿をしている何て思いもしなかった。
昔の記憶。
驚いた。
その姿をまた拝めるなんてな。
「龍太郎?」
考えてた。
その顔が目の前にあって、夢から出て来たみたいで触れていた。
頬から唇に弧を描く様に指を這わす。
「龍太郎!」
ハッ とする。
「あぁ、すまん。親父は?」
「うん。寝るって」
ほほ笑む虎之介。
そうだ。
色あせない、初恋。
天狗。
虎之介。
「大輝は?」
あの頃からいつも近くに居た、大輝。
「用足しに行ったよ」
最初から実る事のない想い。
一緒に育っていればそれはなかったのだろうか?
くすぶる想いに火が点いた様な。
そんなココロの情景。
「虎之介。大輝と居て幸せか?」
キョトン とした、次の瞬間には、花の様な笑顔。
言葉にしなくても解る。
虎之介は、彼に守られて彼を守って、幸せなのだろう。
あの時の約束は、現在も続いて居るんだ。
俺は天狗に恋をした
***
………………………
好ましい事ではなかった。
これは母の為、そう自分に言い聞かせて会いに来た。
夏。
暑い夏休み。
初めて会う兄に、親戚に、それなりに楽しみや、不安を抱えてバスを降りた。
日に二回しか無いバス。
高く続く山並みに、溜め息。これからどれだけ歩くのか?
「龍太郎?」
背後から高めの声。
振り向くと、
可愛い少女。
「え? 何で俺の名前……」
「虎之介だよ」
可愛く笑う少女は、俺の兄の名前を名乗った。
「兄さん?」
「照れるな。虎之介で良いよ」
うそだ。
*虎之介side*
可愛い龍太郎。
僕の弟。
背丈は僕より―――少し高いくらいかな?
顔は、男の子の勇ましさがある。
3歳下か。
まだ14歳。
驚いた顔。聞いてるのかな?
僕の異名。能力。
「龍太郎?」
声をかけてみる。
固まってる?
「兄さん?」
「そうだよ。初めまして、龍太郎」
「女の子じゃなく?」
あら?
僕を女の子だと思ったの?
「可愛くてごめんね」
図星だったのかな?
真っ赤になっちゃって
「僕達兄弟だって言わないと判らないくらい似てるとこないね」
話題を変えると、まじまじとこちらを見る。
「貴方は、母に似てる」
「なら、龍太郎は父親似?」
無言で頷く。
父に似てるのか。
僕は両親の写真さえ持っていない。
ジリジリ と暑い日差しに首元が熱くなる。
僕の事を聞いて居ようが居まいが、もう良いや。早いとこ連れて行こう。
「ね? 暑いし、行こうか?」
「ここから随分歩かないといけないんだろ?」
「歩けばまあ、30分くらいかな?」
「そんな遠くもないんだな」
「ん~。瞬きする間に着くよ」
龍太郎の手を取ると、大輝が好きだって言う笑みを向ける。
思った通り。真っ赤になって体から力が抜けた。
“移動”する。
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