鬼に成る者

なぁ恋

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虎之介奇譚

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*虎之介side*


一応、声をかけて“移動”した。
いつもの、僕達の居場所。

「―――痛」

また僕は大輝の上に乗っかる形で転がっていた。

暗い室内。
大輝の心音だけが耳に聞こえる。

だから、祭りは嫌い。

思い出した。
5歳になって初めて祭りに行った。
一人で歩いた。
綺麗な提灯の明かり。
賑やかな人々の声。

金魚が揺れる水槽。
綺麗で覗き込んで、悪びれる事なく、見よう見まねで金魚を掬う。
で器とポイを手にし、能力で赤や黒の金魚を器一杯にした。

その時の人々の声。


天狗だ。
桃井の天狗。


不思議な能力。

大人達は溜め息、


怖い
怖いよ―――

子どもの泣く声。


泣かないで
泣いて欲しくなくて
その子ども達に近寄ると逃げ出す。鳥居をくぐった所で、



追いかけてくんな!
天狗の子!
貰い子!!
そんな変な力が有るからホントの親から捨てられたんじゃ!



言葉と共に投げられた小石。
額に当り、小さな切り傷が出来た。
怖くて、痛くて、辛くて……
今みたく、移動し、逃げた。


忘れてた。


だから、どこでも僕は一人で居た。
また拒否されたら、耐えられない。

気持ちが弱くて、でも“自由”は捨てられなくて、人の目を無視する事で、どこでも、誰の前でも“能力”を使っていた。
そうすれば、誰も近付かない。

ココロが傷つかない。

「虎之介?」

呼ばれ、顔を上げる。
変わらない笑みをくれる大輝。

寂しかった。
寂し過ぎて、誰でも良かった。傍に居て欲しくて……甘えたくて。

「大輝」

体を起こし、頬を寄せる。

「泣くな」

大輝が優しく頬擦りする。泣いてたんだ?
涙が互いの頬を伸びる。

涙ってあったかい。
 
  
誰でも良かった?
最初は。

余所から来た大輝。
僕だけを見て欲しいって思ったのは、赤らんだ顔を見た時。

僕の顔を見て、恐怖の顔と同時に照れた様に赤くなった顔をした。
恐怖以外の顔を見たのは初めてで、驚いたんだ。

受け入れて欲しくて、僕の事を話した。

説明なんて初めてしたし、必死で大輝を掴んでた。

「虎之介?」

その唇が僕を呼ぶから塞いだ。
その眼が僕を見るから上に乗って放したくなくて、

大輝は優しいから、僕を突き放せないのかな?
言ってくれた言葉は嬉しかった。
   
けど、に目がくらんで恐怖を隠してるだけなのかも?

ぐるぐる回る思考に、頭が痛くなる。


目をギュッ と瞑ると、まぶたに感じた柔らかい感触。
大輝がまぶたに口付けた。
片目を瞑り、

「そんな難しい顔すんな。俺はお前が好きで、もちろん、虎之介も俺が好きだろ?」

優しい大輝。
僕は無性に寂しくて、

「好きなら、して?」

口にしていた。

何を? って、誤魔化されても仕方ないし、アイツらが言ったみたいに同性の僕をもしかしたら気持ち悪い。って思ってるかもしれない。

だけど、どうしても、
どうしても、大輝が、彼が欲しくて。
“性”への目覚めとかじゃなく、快楽? 興味とかじゃなく、
ただ、本当にただ、彼に触れたくて、触れて欲しくて―――
 
 
  
*大輝side* 


虎之介の揺れる瞳。
切羽詰まった顔に、どうしようもなく、触れて居た。

口付けし、喉元に舌を這わす。
服は無意味だ。
いつの間にか二人共裸で、天狗の力は何とも……

「あっ!」

虎之介の声が、跳ねる。

ただ、虎之介をなぞり、彼に触れて触れて触れて………


 
 
 

抱き締める。


「何で?」

虎之介がすねた声を出す。

「何が?」
「もういいよ!」

理由は解ってる。
    
虎之介を。それだけで終わらせたから、

「……感情に流されて、なんて俺はしない」

抱き寄せて、額にキスする。

「お前は気にしなくて良い。俺が守ると誓ったんだから」

「……僕、守られてばかりだ」

座ると、

「父さんが、じぃちゃんが言ってた。解ってるのか? って。大輝に迷惑かけてるって」

もう泣いては居ないが、その顔は泣いて居るみたいで、

「なぁ? お前はどうしたい?」
「どうって?」
「俺と一緒に居たい?」

息を詰めた虎之介。
言葉を吐く代わりに、溢れる涙。

あぁ、泣くな。
俺はまだ力のない子どもで。

「虎之介。俺の天狗……俺はお前を離さない」

改めて誓い、抱き締める。
 
 
 
 
 
 
 
 
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