鬼に成る者

なぁ恋

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牛鬼

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*** 
………………………

眠りを邪魔するのは誰?

あの人かしら?

愛しくて
憎い……

腕に抱く赤子が目を覚まして口を開ける。



さぁ、地上へ


………………………
***


*元気side*

満月が水面に映り、綺麗に揺らいでいる。
砂浜を歩き目的地へ。

まほろばとライはマンションで待機。
どうしようもなければテレパシーで助けを呼ぶ。

口の中で反復する。


凪ぐ海から漂って来た鬼気。
そして、静かに現われた。濡れた少女。

「ねぇ? お願いがあるの」

背後から話し掛けられる。振り向かず

「その前に、君の名前は?」
「え?」

少女の戸惑う声。

「俺は元気。元気の元気だ」
「わたし? 私は??」

沈黙。


一年。長い孤独。


「「ホギャアァ───……」」


滲んだ泣き声。

泣き声に消されそうなくらい小さな声で
「私は……優子」

ちゃんと俺には聞こえた。
そして“朱色の鬼”は、赤子そのもの。

「「ギャアァアアァ!!」」


滲んだ泣き声に本性が現われる。
ゆっくりと振り向く。眼に力を宿して。

少女、優子の腕に抱かれた赤子。
凝視すると視えてきた。
小さな塊。
どす黒い、何体もの水死した者達の凝り固まった姿。
哀れな姿。
 
「優子。君はどうしてここに居るの?」

けたたましい滲んだ泣き声を無視して優子に訊く。

「どう……して?」

眼に宿す千里眼の力で“優子”と言う人間を視る。が、

「「ギャアァアアァ───……!!!」」

赤子の泣き声が一層大きくなる。
魂を掴まれる様な暗い声。

幾体もの彷徨える魂の塊。
死にたくないと、生に固執した。
或いは、自ら生を投げ出した。

小さな赤子の姿と成った哀れなモノ達。


……優子が生み落とした“魂”の抜けた赤子に取り憑いた亡者。





熱く“熱”を持つ眼球。
赤子の躰の”を
同時に視る。

“優子”


***
………………………


「赤ちゃんが出来たみたい」

嬉しかった。
喜んで貰えると思っていたのに。

「……どうして? 出来る筈がない!」

貴方は私をなじった。

「俺はまだっ」

私の好きだった笑顔が歪む。
それ以上は何も言わず背を向けて立ち去る貴方。

愛した事が罪だったの?
私はただ、貴方を愛しただけ……

………………………

***
   
一瞬のに呑まれてこの場所で入水する。
“闇”は亡者が成す“”の

優子は呼び込まれ、引きずられ、取り込まれた。
 
“優子”は、涙を流す。
腕に抱く赤子を抱きしめて。赤子の泣き声は叫びに変わり、大きく開けた口から暗い鬼気を吐き出す。

ズクズクと口から溢れ出る暗い暗い闇。闇はやがて二人を呑み込む。
静かな闇の中、満月も海も足元の砂浜さえ見えない。


「「ギぇ───────!!!」」


甲高い叫び声だけが木霊する空間。
声が闇に反射し頭に響く。
意識的にそれを受け入れる。
様々な“想い”が零れ“叫び声”は“声”になる。



苦しい
痛い
死にたくない

まだ
やりたい事があったのに

何で
何で
何で

無念の声
老若男女幾つもの声。

優子は我が子をただ抱いて、グルグルと悲しみだけが支配する。

悲しい親子。
呑み込まれない様“視る事”で傍観する。

抱いて貰えず、俺を抑えられない赤子が、どろりとした柔らかいゼリー状になり足元まで這って来て小さな手の平が足を掴む。
小さな手から、幾体もの手が増えて俺を掴み上へ上へと上がって来る。

かつて囚われていた闇よりも深い深い深層の闇。
    
熱い眼が、を捕える。

腰まで上がって来た手達が蠢き、また一つの形に成る。
それをそっと抱き上げて形成る赤子を視る。
両眼がぽっかりと黒く穴が空いていて、そこから溢れんばかりに沢山の人の───かつて人であったモノの顔顔顔………

呼び出した正当な躰の持ち主、魂を捕えた眼で赤子の闇の広がる眼を視る。
 
 
 
 
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