鬼に成る者

なぁ恋

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炎鬼

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裏口から外へ出ると、店の外もスゴい事になっていた。まるで地震直後。

「こっちだ」

相楽さんに導かれ黒い車に乗り込む。

「取りあえず、あたしン家に行って」

広い道に出るまで車体が上下して気持ち悪くなった。
隣りに座るまほろばの手がボクの胸に当てられ、スッ とムカつきが引いて行く。

「ありがとう」

「ねぇ、もしかして治したりしてる?」

桃井さん洞察力がスゴい。

「まほろばが出来ます」
「鬼ってスゴいのね」



海辺に立ち並ぶ高級マンションが見えて来た。

「ここよ」

静かに駐車場に入る。

7階に桃井さんの家があった。

二つあるお風呂に一人ずつ入らせて貰い、用意された服を着る。
シンプルな黒の上下で何だか安心した。
リビングに出ると、
海側に大きくとられた窓が目に入る。
丁度、朝日が昇るところで───……
海と空の境から見える光りが綺麗で何とも言えない感動を覚える。


「はい、どうぞ」

良い匂いが室内を満たしていた。
桃井さんの珈琲。

ちなみにバーでは
“男の涙”さらに言えば紅茶は“男の雫”……覚えてしまったボクもスゴいや。

珈琲も、絶品。


「おかわりを貰うぞ」

相楽さんがキッチンから顔を覗かせる。
ボクと同じ様な紺の上下。
彼と目が合い、一呼吸おいて、

「傷は大丈夫か?」

心配げに訊いて来る。

「もう何もありません」
手を開いて笑ってみせる。


「ライ……」

まほろばの声。
振り向くと赤い上下。
懐かしい、出逢いを思い出す。

ボクの手足の短い服を着たまほろばの無言の笑顔。懐かしくて、でも思い出せなくて
そして、
夢で見た悲しく───……愛しい真実。
 
  
「また泣いてる」

桃井さんの言葉に涙を流してる事に気付く。
参った……まほろばの“鬼神”としての過去を見てから……何だか、


朝陽が昇る。
陽の光りを浴びて燃えるまほろば。
姿を見るだけで涙が溢れ嗚咽する。
隣りに座って来たまほろばが黙って肩を抱いてくれた。

「ライ……」

優しく名を呼ばれ、頬を撫でられ、抱きしめられ……
ひとしきり泣くと、落ち着いて、溜め息。

「はい」

テーブルに置かれるカップに珈琲が揺らぐ。

「貴方はこちらね」

桃井さんが、まほろばに水の入ったグラスを出してくれた。

「貴方達を見てると……何だか切ない」

静かに肩に手を置かれ頭を撫でられた。

「“鬼”か……」

突然の呟きに振り向くと相楽さんの視線がまほろばの額にあった。

白い二本角は隠さずに居たから。


───化け物


相楽さんの言葉を思い出す。


「大輝。長く悩んでた答えが出たって感じなの」

桃井さんが冷凍庫から氷を出す。

「“鬼”は“超能力者”の祖先と言ったわよね?」

言って手にある氷を上に投げる。
瞬間、それが見えなくなった。

ポチャン と、水音。そちらを見ると“氷”はまほろばに出された水の中にあった。
 
 
  
「桃井さん!!」

笑みを浮かべた桃井さん。

「子どもの頃は、身体ごと移動させられたのよ」
「ハッ! 何度驚かされた事か!」

相楽さんが豪快に笑う。

「だから、私も“超能力者”なのよ。もう大分すたれてしまったけどね」


仲間を呼ぶ。


出逢いの全てがそうであるとは思わないけれど、

「悪事を行わなくて良かったわよ。あたしは“朱色の鬼”に成りたくないもの」

それから。と、相楽さんを指差し、

「組は辞めて貰うわよ」
「それは!」
「もう十分、貴方は義理を果たしたわ」
「む……」

力関係が解る。
 
にはあたしから伝えるから」
「しかし!」
「……大輝を失いたくないから」

この言葉には、逆らえない。

「弟? でも市松組って───……」 

浮かんだ疑問をそのまま口にしていた。

「あたしは市松組の跡取り息子だったのよ。でもこんなだから……“桃井”は母の旧姓。それで、大輝があたしと一緒になる為に組員として入ってくれてた」

相楽さんの側に寄り添う桃井さん。

「もう20年よ」
「まだ20年だ」

寄り添う二人の“絆”が目に見える様だ。
 
 
 
 
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