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餓鬼
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しおりを挟む*鬼side*
「「ヒロアキ」」
それが自分の名前?
覚えて居るのは“明”と呼ばれて居て……バイトを転々としながら生きて来た事。
ヒロアキ
泰明?
ザザザ───……と、頭の中に映像が浮かび上がる。
一面の焼け野原。
戦争
防空壕
終戦し、
帰って来た父親と再会。
埋葬された
防空壕の者達。
育ちの遅い自分に疑問を抱く父。
夜な夜な食べて居た。
墓を掘り
腐りかけた人の肉。
ある日
父親に見つかる。
人ならざる行為。
“鬼”に憑かれている。
と、
包丁を手に襲って来た。
『生きて』
これは皆の願ったコト?
死ねない。
死にたくない!!
目の前に転がった父親。僕が子どもの僕が、倒した。
父の腕から血が滴り落ちる。
これは飲み物。
なら?
この肉は食べ物。
「ギャァアアア!!!!」
断末魔を上げた獲物。
生きた肉は、
今までのモノとは比べ物にならない程に美味しくて……
それから、世間から隠れて生きて来た。
生きた肉を食べたら、月に一度の食事で足りた。
やっと大人になれて、
そうだ。
事故に遭って
記憶喪失に。
そして、
たがが外れた。
食欲が
暴走。
理性の崩壊。
元々、理性何て無いのかもしれない。
僕は、
「「鬼」」
父親の最後に叫んだ言葉が“鬼”だったじゃないか?
沸き上がる力。
身体の中心から
膨らんだそれは、
闇を掻き集めた様に黒いどす黒い塊。
「「鬼……おに…オニいぃ───」」
黒い塊が爆発する!!
*樹利亜side*
「ダメね」
ヒロアキの身体が肩が盛り上がる。
服が破れ巨大化する。
3メートルを越した身体。
それに比例する様に伸びる黒い髪が身体を覆う。
顔に掛かる髪の間から赤く大きな眼が光る。
異様に盛り上がった肩の筋肉が震え、大きく膨らんだお腹が目立つ。
“餓鬼”と呼ばれる“鬼”を思い起こさせる姿。
「まほろば」
もう解ってるでしょう?
「樹利亜」
金の瞳が、頭に二本角を掲げた赤い長髪が
闇から現われる。
傍らに銀の瞳と青い短髪のライ。
胸に下がった光る一本角。
吹っ切れた様な二人の顔。
「良かったわね。ココロが定まって」
見ていたこちらの方がイライラしてた。
「元気は?」
「眠ってる」
胸に手を置いて笑みを作る。
ライは優しい。
「危ない!!」
ライの叫ぶ声。
えぇ、分かってる。
ヒロアキ。
安らかに眠りなさい───……
髪に“力”を、
長い髪がさらに長く伸び、蜘蛛の巣の様に空間に広がる。
背後から襲いかかって居たであろうヒロアキが動きを止めた。
動けはしない。
蜘蛛の巣は捕らえて離さないのだから。
指先を少し動かせば、
終わり。
十本の指を開いて握る。
「「ギャァアァアアア!!!」」
可哀想なヒロアキ。
次に生まれ来る時は、戦争の無い飢えの無い世界へ
ただ、祈る。
砕け散る肉片。
『朱色の血珠に成れ』
言霊をつぶやくと肉片が赤く光りながら丸い珠になりパラバラと床に転がり落ちる。
これが私達が欲するもの。
皮肉な話しね。
「見事としか言い様がないな」
まほろばが両手を広げる。
「スゴすぎる」
「ありがとう。ライ、まほろば。
この珠は、私が頂くから」
指先を鳴らすと、渦を巻いて私に集まる“血珠”私は目を閉じて待てば良いだけ。
熱くなる身体。
すべてを吸収すると、充実感がココロを満たす。
これが、鬼に成る事を選んだ結果。
*ライside*
何で?
何で樹利亜がこの場に居るんだろう?
カンペキな身体。
13歳よりも成長し、女性らしい体付きをしている。
だぼった服。元気が着ていた服のままだけどそれが解る。
「ありがと」
にっこりとほほ笑まれ、ドキッとする。
それくらい綺麗な顔。
「ライ。まほろばがヤキモチ妬くわよ」
「え?」
意味ありげにウィンクされ、続く言葉が出ない。
「答えは……私はもう選んで居たから。鬼に成る事を」
寂しく笑んだ樹利亜。
鬼の能力は“母親”から譲り受けたもの。
「悪夢でも、仕方ない。生きる事を選んだのは私」
言いながら、壁際に並んだ段ボールに近付くと何やら探して首を動かす。
「あった!」
一つの段ボール箱を指差すと、それは一番てっぺんにあって、跳躍し抱えて降りる。
1メートル四方の大きな箱。
「だから。服だから軽いのよ」
開けて少し悩んで黒い柔らかい生地を抜き取る。
いきなり目の前で服を脱ぎ出したから慌てて背を向ける。
「あら、ごめんなさい。長く人と係わって無かったから恥じらいの気持ちが無いみたいで……もう大丈夫よ」
振り返ると、肩の開いた黒い長いドレスを着ていた。
「こんなの着たかったのよ」
無邪気に笑う。
笑顔が元気に似てる。
「さて……ここで話しても良いけど。移動する?」
彼女のペースに呑まれたボクは頷くしかなかった。
知りたい事も沢山あったから。
倉庫を出ると、空は明けて鳥のさえずりが聴こえはじめ、海は静かに波打ち、水面に映る朝陽が一日の始まりを告げて居た。
*********
※ 2008年~2015年に書いたものなので、戦後の計算も当時のものです。あえて変えませんでした。よろしくお願いいたします。
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