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番外編
見つめる
しおりを挟むただ見つめるだけで幸せを感じる相手だった。
見目麗しい彼の美しさはそれだけで周りを華やかにして、
時には彼を欲してココロを砕く者も、繋ぎ留めようとする者も居た。
時は緩やかに流れ、辛い事も悲しい事もそれ以上に幸せな時の方が多く在った日々だった。
信じられなくて、
居なくなったなんて、
彼が俺の前から。
ベッドに居る彼は、生前の姿のまま、なのに、彼の魂はその器にはもう居ない。
幼い頃は白く、少年で黒く戻り、そしてその人生に満足したかの様に白と黒を混ぜたグレーになった髪。
その髪を撫でる。
「ルドウ……」
名前を呼ぶ。
その表情は柔らかく満足げで、顔を撫でる。
冷たい肌。
「ルドウ」
外は寒い、そんな季節。
彼はもう俺の名前を呼ばない。
見つめるだけで、
見つめられているだけで、意思が通じる相手だった。
苦笑する。
彼は不思議な、本当にココロを読む術を持って居た。
だが、俺も、彼のココロだけは読めた。
そう想って居たのは自分だけかもしれないけれど。
冷たい彼の手の平を握る。
不思議と、涙が出ない。
悲しい?
もちろん悲しい。
彼の声。
彼の視線。
彼を想うと、とても切なくて……同じくらい幸せで。
俺は今でも彼が聞こえると言っていた“鈴の音”を鳴らしているのだろうか?
目を瞑り、彼を想う。
聞こえた気がした。
俺の“鈴の音”
目を開けた時、信じられない。ベッドに居た筈の彼が消えて、
「待っていたよ」
ルドウが、
「君は変わらないな」
彼が目の前に居る。
「凌児」
彼が、俺を呼ぶから、
「ルドウ。俺を君の所へ連れて行ってくれ」
はらはらと涙を流す。
それさえ愛しくて。
「君は約束したんだよ。俺を迎えに来ると」
彼に触れられる喜び。
「こんな、若い頃の君が来るとは思わなかった」
あのクリスマスの日、ルドウの流した涙を思い出した。
交わした“約束”も。
約束は、この事なのだと解った。
伸ばされた手が、俺の首に触れる。そのまま口付けられて、
「愛しているよ」
ルドウのココロからの言葉。
「愛してるよ。ルドウ。」
愛だけを胸に抱いて、眠りにつく。
*
ぼやける視界。引っ張られる感覚に視線を向けると、笑みを湛えたルドウが俺の手を取っていた。
繋がれた手から温かい想いが“鈴の音”が聞こえて来た。
「ルドウ」
ただ、愛しい人の名を呼んで、
「凌児」
俺の名を愛しげに呼ぶ。
「ルドウ……」
涙が零れた。
彼は、白い長髪、少し幼さを残した綺麗な顔。
出逢った時のルドウ。
優しく涙を拭ってくれて、
「凌児も。凌児はまた随分と可愛いかったんだな」
言われて開いてる手を見ると、シワ一つない。
二人、出逢った時の姿に。
「これからも共に進もう」
明るい光りが道を照らす。
行くべき道を示す光り。
「離れない」
繋がれた手を固く握りしめ、足を踏み出す。
どこまでも二人。
見つめ合いながら、
いつまでも二人。
見つめる先には、どこまでも続く未来が在る。
「愛してる」
「愛しているよ」
この言葉を糧に、これからの未来へ足を踏み出す。
光りの中へ―――
***
「お父さん?」
そう呼び掛けて一人の男性が入って来た。
この離れは、昔と変わらず穏やかで白い空間。
部屋の奥へ進むと、寝室がある。
その扉を開けると、静かにベッドに横たわり眠る男と、その横に置かれたイスに座りベッドの男の傍らに重なる様に眠る男が居た。
二人は固く手を繋ぎ、眠って居る様であった。
「お父さん? ルドウ?」
穏やかな顔をした二人は、とても幸せそうで……
一つの愛の形、
それは来世へも続く。
永遠の愛で在った。
20091215 end
当時頂いてたイラストです。
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