ルドウ

なぁ恋

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大人編

真実

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どんなに残酷でも、
真実は、真実。


それは、
心に隠された、

“愛情”と“愛憎”の果て。

人を好きになる気持ちは明暗と共に、人の心の真実は、誰にも解らない。
 
 
***


*ルドウside*
 

社長室。

時間通りに足を運んで、長椅子に座って待って居た。

「すまない。待たせたな」

言いながら、向いに座る。その動作さえ、優雅で目を魅く。

「いえ」

「早々と訊くが、凌児とは、どう言う関係だ?」

「あの時見た通り。恋人です」

眉根を寄せ、

「あの子の母親に、お前の家族は殺されたのに?」

「そうですね。貴方の奥様に殺されました」

視線を合わせる。
先に緩んだのは、一ツ橋の方で、

「あぁ、そうだな」

ネクタイを緩め、姿勢を崩す。

「そうだ。私の愛した女性のした事だ。
すまなかった」

髪をかき上げて、浅く頭を下げる。
10年間で、初めての事。
すると、
少しココロに隙が出来る。
能力者ではなく、それなりに大きな会社を一代で築き上げた男。だから、心が、強いのだ。

それが、緩んだ。

その真実は―――……


「凌児は……貴方の実子ではない?」

下げたままの頭が小さく揺れる。

「―――君には、真実を話して置かねばと思った」

上げた顔には、苦痛が見え隠れしていて、

「ココロが読めると聞いた。超能力者だと?」

訊いてくる声色も震えていて、

「そうです。言うのが苦痛ならば―――」

「いや。話そう……ただ君には、聞きたくない話かもしれない」

「20年経ちました。それに、凌児に関係する話なら、聞かない訳にはいかない」

強く、決心した。

「……そう、か……
凌児を、愛しているのか?」

「はい。自分の命よりも」

これは、俺の真実。

「若い時は、いい」

呟く様に話しだす。

「言葉だけで信じて貰えるなら、幸せだ」

頭を抱える様にうなだれて、

「私だって、何度も、何度も、言ったんだ。
愛している。
愛してると……」

言葉と共に、浮かび伝わる映像。

「花の様に笑う、可愛らしい女性だった……」


*冨side*


長く綺麗な黒髪に、少しふっくらとした体付き、瞳の大きな、女性らしい少女。

出逢いは、彼女が17歳の一番美しさに輝いていた時。
 
28歳の自分に、
17歳の少女。

運が良かった。
彼女、幸子けいこも、好意を持ってくれ、一ヵ月と経たぬうちに結婚し、長男 市悟が生まれた。
同時に忙しくなる仕事。
始めは小さな一軒家で、慎ましく三人で暮らしていた。

お金が入ると共に、大きな屋敷を建て、
それは、妻の為、子どもの為と、自分は満足していた。

忙しくなる仕事に比例して家族を構う時間がなくなる。

寂しかったと幸子は言う。
時間がなかったと、私は言う。

噛み合わなくなった歯車は、合わさる事はなく壊れて行った。

最初から、子どもは一人と決めていた。
幸子は欲しいと何度も言っていたのに。

触れ合わない時間が長かった。
そんな中で、幸子は妊娠。

誰の子かと問う間もなく、幸子は市悟を置いて家を出た。


男の元へ。

市悟は、12歳。

ショックはひどく、不安定な時期が一年続いた。

だから、従順。
捨てられたくない。そんな気持ちが強過ぎて、父親の言葉には、こちらが戸惑う程に従う。

「市悟も、私の犠牲者だな」

ここまでを一気に話すと、ため息をつき、ソファに深く沈み込む。

「凌児の父親は、よく居るチンピラで、幸子は、暴力を受けながらも離れずにいた……だから―――」

まとまった金を渡すと、何も言わず、幸子の前から去って行った。愛情など、始めからなかった様に。

男の名は、と言った。

「働く事の出来ない幸子は、私の所へ帰って来て産んだ。
私に対する当て付けなのか、愛した男を忘れられないのか、彼の父親の名を名付けて」

幸子を愛していた。

だから、彼を実子として届出、何事もなかった様に生活を始める。

表向きは、普通に見えて、安心した私は、また仕事に没頭する。

……凌児を見るのが辛かった。
これが本音。

愛する者と向き合わず、仕事に逃げた。


幸子が、壊れて行く。
それを気付かずに……
 
そう、気付くのが遅かった。

凌児が生まれて一ヶ月、家に帰らない日が続く。
顔を見る事も、話す事も無くなって。

これではダメだと、気持ちの整理をつけ、夜、帰ってみる。
明かりの灯らない窓。

玄関の鍵は開いていて、キッチンに居るのだろうか?

暗い中、探る様に歩く。明かりを点けるのが何故かためらわれ。

二階に上がる。
子ども部屋。市悟は眠って居た。
奥が凌児の部屋で、少し開いていた。
覗いて、息を呑む。

壁にすがる様に座り込んだ幸子が居た。
長い黒髪が闇に溶け、虚ろに開いた眼は宙を舞い、白んだ無表情の顔が、やけにくっきりと見えていた。
ふっくらとしていた体型は、やせ衰え……一目で病的に見える。

部屋の電気を点けると、眩しがる。
無言で顔を両腕で覆う。
足下には注射器が転がって、
12月の寒い部屋で、白いワンピースを着たむき出しの両腕には、爪で引っ掻いた後。

私の居ない間に、薬漬けになっていた。
その衝撃に、たじろいでいた私の耳に聞こえた小さな声。

ベビーベットに、瀕死の凌児が居た。
助けて欲しいと泣いたのか、一声上げて、ぐったりと目を瞑ったまま動かなくなった。

恐ろしくなり、抱き上げ、幸子を引きずり降り、二人を車に乗せ病院へ向う。

どうして、こんな事になってしまったのか?

自問自答しながら―――
ただ、愛していればこそして来た行為のすべてが、裏目に出ていた。








*ルドウside*


「はぁ――」

一息吐く。
語る言葉と、それに続く鮮明な映像が流れてくる。

はっきりと見えた“女”は、確かにあの時の……

「すまない」

疲れた顔。
謝る姿が歳相応に見えて、

「大丈夫です。続けて」

凌児の“真実”を―――……
 
 



*冨side*


凌児は長期の育児放棄の為、栄養失調と皮膚のただれで、入院。

幸子も、薬を抜く為に施設に入らせる。

市悟は、それを見ながら、淡々と毎日を普通に過ごして居た。
私には、連絡一つ寄越さず。

それから、成長した凌児は、余り泣かない子どもで手もかからなかった。
幸子は、見た目は普通に、

でも、
何も見ない。
聞かない。

ただ、息をしているだけ。
日がな一日凌児の部屋で、足下に彼を遊ばせながら。

私は毎日定時に帰り、食事の用意をし、家族四人で食卓を囲む。

市悟は元気を取り戻す。……父に依存する事で。
幸子は、与えられたら食す。
それで命を繋いで居た。私の手料理しか、食べないのだ。

凌児は、その時間嬉しそうに過ごす。

この頃には、彼を可愛いと思える様になっていた。
私にも幸子にも似ていない、私達の子ども。

そして、また崩壊する。

夏のある日。

“凌児”が現れた。
私の居ない間に。
幸子に、金の無心に来たのだ。

それからすぐ、幸子は、凌児を連れて、一週間、行方が分からなくなって、みつけた時には、酒に溺れていた。

夏が過ぎ、冬になる。


幸子は寒い中ワンピースを着て居た。
前にも着ていたワンピース。

その時になって、やっと思い出す。
私が初めて彼女にプレゼントしたモノ。

涙が出た。

そんな時、極度の過労と精神的疲労で会社で倒れ、意識のないまま入院した。

気付いた時。
幸子は居なかった。

対面したのは、警察署の霊安室。
 
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