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大人編
明暗
しおりを挟む狂瀾 [意]荒れくるう大波。
***
*ルドウside*
気持ちはどうであれ、
人生とはままならないものだ。
この“絆”は変わらない。
この“想い”も揺るがない。
だから耐えられる。
ココロは壊れない。
*
10年は瞬く間に過ぎた。
変わった事と言えば、凌児の兄が結婚し、この屋敷に帰って来た事。
政略結婚をにおわす様な婚姻。
それも五年を過ぎて居た。
子どもが出来ない事が、悩みの一つ。
俺と凌児は、昔運転手が住んで居た十分に広い離れに住んで居た。
住まわして貰って居た。と言った方がいいか。
美和様が、そう言う態度で居る。
『何故お前がここに居るの?』
いつもココロで呟いている。
“邪魔者”と。
嫌われているのは、俺。
綺麗な顔が気に入らないと、はっきりと言われたのだ。
自分より目立っているから、気に入らない。と、
「ルドウ。お腹空いた」
傍らで、目を瞑ったまま凌児が呟く。
今日は休日。
のんびりと一日を過ごそう。
二人でうとうととまどろんで居た。
「そうだな。何が食べたい?」
いつもそうだ。
凌児の傍に居たら、幸せに包まれて、優しい気持ちになる。
「何でも良いよ」
出逢った頃と変わらない笑顔を向けて来るから、
そして聞こえる“鈴の音”
「かしこまりました。ご主人様」
深々と頭を下げる。
「ん。待ってる」
ほほ笑みが返るのが嬉しくて奉仕して、甘やかせた。
今も昔も、凌児を中心に俺の世界は廻っているのだ。
*
だが、それは突然訪れた。
静かに凪いでいた水面が、荒れ狂う波を立てる様に。
凌児が、変わるには十分な出来事。
義姉に呼び出され、帰って来たのは朝方。
「凌児?」
帰るのを待って居たから電気をつけていた。
それを消して、
「…………うっ」
戻していた。
嗚咽を漏らし、止まらない吐き気。
「凌児!」
近寄って、触れる。
見えたのは。
女の白い肌。
吐息。
凌児の、涙。
「……るな。見るなっ!」
もう遅い。
視えてしまった。
義姉との、行為。
美和が凌児を叫びながらなじっている。
何度も叩かれ、切れた唇。
『貴方が、責任とってよ!! 私に頂戴!!』
―――――赤ちゃんを!!
凌児は、重ねてしまった。
自分の母親と。
追い詰められて、強迫され、抱いた。
これは、凌児に対するレイプだ。
ココロに根付いた、暗い闇。
この日、吐き気は止まる事なく、一晩中抱きしめて過ごした。
軽く癒しを与えながら。
終始視える、映像は、見えない振りをして。
この日を境に、
凌児は変わっていった。
幼さを残していた笑顔は影を潜め、
髪はオールバックにまとめる様になった。
市悟が、16歳の娘を妊娠させた。
それを知って半狂乱になった美和が、そこには居ない市悟の変わりに凌児にした仕打ち。
自分に与えて貰えなかったモノを、凌児から奪い取ったのだ。
ココロは簡単に壊れる。
それでも、想いを果たした美和は、早くも立ち直り、
「貴方は父親になるの」
凌児に言った。
「あんな男、もうどうでもいい。
貴方が私と一緒になれば良いのよ」
俺はその場に居る様に、視えていた。
仕事をこなし、そのまま夜の街へ出る。
そして、深夜まで帰って来ない。
美和が、しつこく付きまとい、彼女が眠るまで帰る事が出来ないのだ。
家を出ればいいのに、と思う。
けれど、凌児には出来ない。
どんな形であれ、授かった自分の子どもを放って出て行く事は、出来なかった。
真っ暗な部屋で、俺は待ち。
帰って来た凌児を腕に抱き、無言のまま眠りにつく。
毎夜、凌児は女を抱く。
毎回違うニオイ。
そのすべてを視ながら、癒し。
眠れない夜を過ごす。
朝、シャワーを浴び、何事もなかった様に、身なりを整え仕事に行く。
毎日が、苦痛。
「忘れさせようか?」
訊いた事がある。
「嫌だ。俺は子ども見捨てたりしない……」
背を向けたまま。
この会話を最後に、何日も声も、聞いていない。
顔を、まともに見ていない。
虚しさが、ココロを麻痺させる。
抱いて眠る凌児の身体は、ココロの抜けた人形の様に感じ、
流れて入る記憶は、俺の神経をすり減す……
「すごい顔」
ある日、出掛けに美和が言った。
嬉しそうに、笑いながら。
「折角の綺麗な顔が、台無しね」
この女は、拳を握る。
「……凌児は、貰うから」
小さく呟く。
でも、ココロは?
市悟への“愛”が燻っていた。
腹の子が、市悟の子ならば。と、
誰が悪いのか。
もう、解らない……
***
*凌児side*
兄貴。
なんて事してくれた!
不倫。
それで母が壊れて行った忘れたのか?!
義姉さんの怒鳴り、叫ぶ声。
叩かれ、泣き叫ぶ。
憑かれた様に、怒鳴る。
「私に頂戴! 赤ちゃんが欲しい。私だってあの人の子どもが欲しかった!」
必死に、すがりついて来る。
「頂戴! 貴方で良いから私に――ー……」
唇を塞がれた。
愛は何もなく。
初めて触れる女性の身体。
訳も分からず。
そして、生まれた命。
ルドウは優しい。
俺は吐き出す。
ルドウの腕の中で。
彼の“癒し”が必要で、
でも、前みたいに、抱かれる事が触れ合う事が出来ない。
彼の“愛”にただ抱かれながら眠る。
それは、必要で。
手放せなくて……
髪型を変えてみた。
少しは大人っぽく見せる為に。
「忘れさせようか?」
とルドウは言った。
けど、なかった事には出来ない。
俺の子どもだから……
夜の街に出る。
家に帰ると、義姉さんが居る。
求められたら、きっと……
あの人が本当に求めているのは、兄貴だから。
だからと言って、家は出て行けない。
子どもに責任がある。
膨らんで行くお腹は、現実。
街は、不夜城。
沢山の人で溢れている。背広を着崩し、ただ、街を徘徊する。
毎日、毎日の様に女が声をかけて来る。
寂しさ、
辛さ、
そんなモノを吐き出して
甘えて来る。
拒めない。
哀しさが解るから。
女は……
母も、求めていたのだろうか?
父を?
男を?
“女”が“母”と重なって、拒めない。
ココロの底に封じた筈の“罪”今度は、ルドウにじゃなく“母”に感じる。
何で、父さんは? 償わなかったんだ?
母が壊れるままに、放っておいたんだ?
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