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出逢い編
動②
しおりを挟む目が覚めた。
今が何時かも分からない。
お腹が空いていた。
俺……何してたっけ?
ぼーっとした頭で、取りあえず起き上がってみた。
ベットの上。
裸の自分。
火の点いたストーブが、寒さを感じさせない。
その心地良さに、
ただ、惚けていた。
目まで閉じて。
もう一度寝てしまおうか?
何て考えて居たら、
「おはよう、凌児」
湯気のたった食事を持って、ルドウが入って来た。
「おはよ」
自然と零れた笑み。
お盆を机に置いたルドウが、隣りに座り、優しく口付けて来た。
柔らかい、唇が離れて行く。
彼の綺麗な顔を間近に見て、
!!!
思い出した!!
熱くなる頬。
「ルルル……ルドウ……」
俺は、
「また、食べたくなって来たな……」
素肌に触れるルドウの指に、裸で居た事を思い出し、慌てて毛布で隠す。
今更、だけど。
何だか名残惜しそうな顔をしたルドウが、服を渡してくれた。
「珈琲を持って来る」
扉へ向かいながら、
「狼になる前に……」
振り向いた彼の笑顔に、思わず見とれる。
吠える様に口を開き、両手を上にし指を曲げる。狼のつもり?
優しくほほ笑み出て行く。
「あはは……」
笑うしかなかった。
そして、慌てて服を着込む。
身がもたない。
けれど、
痛さを感じない身体に、また“癒し”を施されたのに気付く。
痛みを感じない身体。
快楽のみに、溺れた躰……
甘い、甘い時間。
想い出し、震える。
*
*ルドウside*
扉を閉める。
震える指先。
ちゃんと笑えて居ただろうか?
凌児を手に入れた。
やっと、触れられた。
やっと―――
拳を握り、大きく息を吸う。
震えてるのは、体だけ?
心臓が、痛い程に高鳴って、こんな気持ち初めてだ。
どんなに不思議な能力があっても、
この気持ちは抑えられない……
止められない。
何度も何度も
誰かが問う。
幸せか? と、
この気持ちは、強さになるのか?
それとも、弱さになるのか?
解らない。
凌児。
:
:
:
:
*凌児side*
「ん?」
呼ばれた気がして扉を見る。
ルドウの姿は、まだ見えない。
美味しそうなニオイに、小さくお腹が鳴った。
見てみると雑煮だ。
何でも作れるんだな。
でも? 珈琲を持って来るって言ってた。
……合わないだろう。
どう考えても。
不思議に思ってたら、訪問者を告げるチャイムが鳴った。
***
*美剣side*
まさに、
蛇に睨まれたカエル。
目の前に立つ不機嫌顔のルドウ。
それはないっしょ?
新年の挨拶しに来ただけじゃん。
固まっていると、
「美剣?」
救いの女神だぁ。
「凌児ぃー」
思わず抱きしめようと手を伸ばしたら……
顔を鷲掴みにされ、外に放り出された。しかもっ! 鍵閉める音。
本気で涙出て来た。
「ごめん」
と、凌児が玄関を通してくれたけど。
「ルドウ、機嫌が悪い?」
「そんな事はないと思うけど?」
何だか、目が泳いでるよ?
また、野暮な事した?
「それで、何?」
若干赤らんだ顔で凌児が訊く。
「明けましておめでとうございます」
丁寧におじぎも添えて。
「! おめでとうございます」
同じ様に返す凌児。顔を見合わせ、笑顔になる。
「新年の挨拶に来たんだよ」
持参した年賀状も手渡す。
ついでに、郵便受けにあったやつも取って来てやった。親切な俺。
「学校少ししか行ってないのにさすがにモテてるなぁ、クラスの女子全員から来てるみたいだぞ。……ルドウに」
「年賀状って?」
凌児の後ろからハガキを取って、マジマジと見るルドウ。
その中に、忍ばせといた一枚に気付いたらしい。
おにぃからの年賀状。
シンプルな雪景色のポストカード。
住所が分からないからと、俺のトコに届けられたハガキ。
*ルドウside*
何も書かれていない雪景色のポストカード。
触れたハガキに、龍の思念が残っていた。
いや、わざわざメッセージを込めたんだな。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ルドウ。
貴方に救われた。
僕らは、
一日一日を大切に
大切に
生きて行くよ。
だから、
迷わないで。
不安に思わないで、
ルドウも
自分の“想い”に正直に生きてね。
その“想い”が、何にも負けない強さになるから。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
まるで、ココロを読まれた様な言葉。
それは、これから起こる出来事の暗示を感じさせる様な、
長く、俺を支える言葉になった。
「お前も、食べて行くか?」
美剣に声をかける。
「ん?」
「そうしなよ。ルドウが雑煮作ってくれたんだ」
「やった! 食う食う♪」
きっと、
長く続く友情の始まり。
悪くはない。
“幸せ”は自分で感じるモノ。
それが解ったから、
凌児と歩んで行こう。
何があっても。
:
:
:
:
*凌児side*
夕方まで、直人も交えて楽しい時間を過ごせた。
俺達が驚く程、ルドウも終始笑顔で居て、
「風呂に入ると良い」
その言葉に、何故か熱くなる頬。
「 一緒に入るか?」
にやりと笑うルドウ。
「一人が良い!」
慌ててバスルームに向う。
鏡に写る俺の身体。
赤い痕が散らばっていた。
まるで花弁の様だと触れてみる。
夢の様に感じていたけれど……
「“夢”じゃないんだよな」
むしろ、夢中になるんじゃないだろうか?
―――夢中。
“夢の中”と書くんだと、笑えた。
一緒に居る。と、誓ったんだ。
これからを、ずっと――――――
風呂から出て、
暖められた部屋に戻る。
自然に目の前に出されるホットミルク。
甘やかされてる。
そう感じて、
「お前が居なきゃ何も出来なくなりそうだ」
「それが狙いだよ」
綺麗な顔が近付いて、キスを落として離れる。
ぼおっとする。
「俺も入って来るよ」
笑みを残して、ルドウが部屋を出る。
そうだ。
クローゼットを開けて、出来上がっていた制服を出す。
ルドウの制服。
海里は中高一貫校だから、余程の事がない限り自然と進級出来る。
学校。
楽しみだな。
後三年は、一緒に通える。
似合うだろうな。
制服。
見える場所に吊して、出されたミルクを飲む。
:
:
:
:
*ルドウside*
部屋に戻ると、布団をかけないで眠ってしまっていた。
「風邪をひくぞ」
軽く肩を揺すってやる。
「……ん」
柔らかい声。
ダメだ。
毎日でも、触れたくなる。
時間なんて関係無く。
「あ。ルドウ……」
目を擦りながら起き上がる。
「制服。出来てるんだ」
指差す方を見ると、制服。
学校、か。
濡れたままの髪をタオルで拭いていると、
「俺が拭いてやるよ」
手招きされ、ベットに座る。
「短いから、すぐに乾くと思うけどな」
今は凌児より短い髪。
*
*凌児side*
髪を撫でる様にタオルで擦る。
白い髪。
「あれ?」
髪の付け根が、
「黒い髪が生えてる!」
驚いた。
「黒髪?」
ルドウも驚いてる。
恐怖で白くなった髪が、黒髪に……
「何だか……」
涙が出て来た。
ココロの隅に押しやっていた“罪”が、俺が感じていた“罪”が、消えてく。
*
*ルドウside*
「始めから、凌児に“罪”はない。
出逢った時から――」
腕を掴み引き倒す。
そうさ。
あの、手を繋いだ幼い時から、
「俺はお前を愛してた」
口付ける。
二度目に逢った時は、永遠を感じて。
離れない……
これから先、どんなに嫌がられても。
離れはしない!
*
*凌児side*
「ルドウっ!」
寄せる波がある。
ココロに感じて……
近付いては、離れて行く。
流れる水面は、
ココロに触れる。
一緒に居たい。
一緒に……
*
*ルドウside*
何度身体を重ねても、きっと飽きない。
それどころか、物足りなくて。
いつまでも、
いつまでも、
欲しい気持ちは、湧いて涸れる事はないだろう。
「―――凌児「ルドウ!」
互いに名を呼び、
どこまでも、光りの先まで、例え、進んだ先が闇だとしても―――
一緒に、
一緒に……
イこう―――――――――
光りが見える。
***
*凌児side*
「パンダみたいだ」
ルドウの髪を撫でながら、思わず言ってしまった。
「プッ……」
破顔。
見合わせて、そして大笑い。
二人して苦しいくらいに笑い合った。
「凌児の運転手になる」
突然の言葉。
「何?」
「運転手。
ずっと一緒に居られるだろう?」
「言ってる意味が分からない」
「凌児は一ツ橋の会社に入るだろう?」
少し考えて、
そうかもしれない。と思う。
今まで強制された事もなかったけど、兄貴の働きをみて、興味を惹かれたのは事実。
「だから運転手? 平社員から始めるだろうから、運転手なんて最初はいらないよ」
こんな緩やかな時間が、いつまでも続くと思っていた。
いつまでも。
幸せだけを感じて居られると、
思っていたんだ。
ルドウ 出逢い編 *完*
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